About 九州大学について

2022年度 春季学位記授与式(学部) 総長告辞

総長式辞・挨拶等

2022年度(令和4年度)春季学士学位記授与式 総長告辞

本日、九州大学の学位を授与された学士の皆さん、おめでとうございます。本年は2,555名の方々に学位が授与されました。また、学位を授与された皆さんを4年あるいは6年の間、その学びと生活を支え、励ましてこられたご家族、友人、関係者の方々にも九州大学の教職員一同、心からお祝申し上げます。

2019年末に始まったCOVID-19パンデミックは、例外なく全世界を覆いつくしました。3年以上が経ち、COVID-19は感染症類型分類の2類から5類への移行が決まり、感染対策の制約も緩和されようとしています。皆さんの大学生活の大部分が、パンデミック下の行動変容を迫られた時間であったことを残念に思います。入学前に思い描いていた学生生活とは違ったかもしれません。しかし多くの制約の中、新しい学び方、新しいコミュニケーションの取り方を模索し、学びを修められました。それは、感染症流行以前のノーマルの中で学生生活を過ごした学生たちとは、違う成長をされ、成果を得られたとも言えます。多くの制限と影響の中でも、逞しく、また頼もしく本学での学びを修められた皆さんに、心から敬意を表するとともに、誇りに思います。皆さん一人一人のこれからの人生において、パンデミック下で培った学びが必ず役立つことを信じ、これからの活躍を楽しみにしています。

皆さんは初めて九州大学に足を踏み入れ、この椎木講堂で入学式を迎えた日のことを覚えておられますか。あの時、この九州大学で何をどのように学ぼうと考えていましたか。そして、本日、学位を取得される日を迎えて、どんな思いでいますか。「大学教育とは自分で選択した学問を探究し、深め、体系的な知識にし、自分自身の考えを掘り下げ、形にすること」だと考えます。在学中に修得した学び、そしてその方法は、これから先の人生においても、ずっと役立つものです。何か疑問に遭遇した時は、大学での学びを思い出して、自分の考えを整理し、その疑問、課題を乗り越えて下さい。

九州大学は2021年に、「指定国立大学法人」の指定を受け、その構想を基に、今後10年間の大学の方向性、方針を示す「Kyushu University VISION 2030」を策定しました。ビジョン元年の昨年4月には、理想的な未来社会をデザインし、そこからバックキャストして、その理想的な未来社会にどのようにして到達するか、そのプロセスを考える新しい組織「未来社会デザイン統括本部」をつくり、またDXの推進によって、データ駆動型の教育、研究、医療を展開する「データ駆動イノベーション推進本部」を立ち上げました。この二つの本部による活動で総合的に生み出された研究成果を「オープンイノベーションプラットフォーム」で社会実装につなげていくという戦略的なイノベーション推進構想で、本学が目指す姿「総合知で社会変革を牽引する大学」の実現に向けた活動が動き出しています。現代の様々な社会的問題は多様化・複雑化しており、単一の研究分野領域のみでは解決することが困難なことが多くなってきています。 そのような問題を、多様な知の集合体である大学の力を結集し、つまり自然科学系や人文社会科学系、さらにはデザイン系分野の知を複合、融合させ、問題解決に必要な「総合知」をあみだし、解決に導きたいと考えています。
この「Kyushu University VISION 2030」は、10年先を見据えて九州大学がどう成長したいかを描いたものですが、皆さんも自分自身の10年後、あるいは20年後の姿を思い描き、明確な目標を定めて「自分自身を作る」新たな世界へのスタートを切ってください。
九州大学は皆さんとのつながりを大事にします。改めて学び直したいと思った時、新たな目標に挑戦したいと考えた時には、ぜひ九州大学に戻ってきてください。再び一緒に学びを進めましょう。

昨年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻からすでに1年が経過しましたが、まだ終わりが見えません。危機は世界中に及び、様々な影響が出ています。米国の核専門家の科学会報「Bulletin of the Atomic Scientists」が毎年出す終末時計の時刻は「人類の最後の日」までの残された時間を象徴的に示すものですが、今年はこれまでで最も短い90秒前と発表されました。これは2020年の100秒前から10秒縮まったことになります。1947年に人類最後の日まで「残り7分前」から始まったこの終末時計は、1991年には東西冷戦の終結を受け17分前まで後戻りしましたが、今や「残り1分30秒」までに縮められています。その記事ではロシアのウクライナ侵攻から1年になり、人類滅亡に対する脅威は前例のないものであると述べています。またここ数年は核やミサイル開発以外にも人類を滅亡に導くものとして生物兵器、気候変動、嘘の情報といったリスクも挙げています。
私たち、少なくとも現在を生きる大多数の人々は、今までになく不安定な時代に生きています。この時代に、九州大学を卒業される皆さんには、社会を新しい良い方向へ導く一つの力になってほしいと思っています。本学での学びで得たあらゆる知識・知見を活かして、これからの世の中、世界のために尽くしていただきたいと願っています。その時に覚えておいていただきたい言葉があります。本学の卒業生である中村哲先生の言葉です。先生は21世紀の、科学技術により高度に進歩した社会、国境を越えて発展する経済、効率と利便性が追求された日々の生活などを「欲望の自由」「科学技術への信仰」と危惧しておられました。先生が2013年に書かれた本「天、共に在り」では、「人も自然の一部である。それは人間内部にもあって生命の営みを律する厳然たる摂理であり、恵みである。科学や経済、医学や農業、あらゆる人の営みが、自然と人、人と人の和解を探る以外、我々が生き延びる道はないであろう。それがまっとうな文明と信じている。」という文章で締めくくられています。

今日、皆さんは、大学で学んだことを生かして、社会に役立つ人になろうと大きな希望を持っておられることと思います。今日、この時期に、人生の新しい一歩を踏み出すことを、「こんな時代に」と思うのではなく、「こんな時代を経験した」ということを一つの力にして、地球社会の一員であるという意識を大切に、新しいそれぞれの活躍の場への一歩を踏み出してください。
皆さんの希望ある未来を信じ、健闘を祈ります。本日はおめでとうございます。

 

2023年3月20日
九州大学 総長
石橋 達朗