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2023年度 春季入学式(学部) 総長告辞

総長式辞・挨拶等

2023年度(令和5年度)春季学部入学式 総長告辞

新入生の皆さん、入学おめでとうございます。九州大学教職員一同、心よりお祝い申し上げます。また、大変な受験の時期をずっと見守り、支え励ましてこられたご家族、友人、関係者の方々にも心よりお喜び申し上げます。

今年度の学部新入生は留学生26名を含む2,612名です。
本日はご来賓として、本学の卒業生で九州大学に多大なご支援を下さり、また名誉博士でもある米国在住のロバート・ファン博士をお迎えし、ビデオメッセージをいただきます。

2019年末から続く新型コロナウイルス感染症は、この5月から「5類感染症」に引き下げられ、多くの感染防止対策が緩和されてきています。本日の入学式もパンデミック以前の形で新入生が一堂に会し、式典が行われることを心より嬉しく思います。

皆さんの高校生活は新型コロナウイルス感染症のパンデミックと時期を同じくして行動変容を迫られ、数々の制限の中でパンデミック以前の高校生とは違った高校生活だったと思います。多くの楽しい交流が出来なくなり、残念で悔しい思いをされたのではないでしょうか。それでも学業にいそしみ、大学受験に挑戦し本日、大学生になられました。入学された皆さんを九州大学は心から歓迎いたします。

皆さんはなぜ九州大学で学ぶことを選ばれたのでしょうか。
大学教育とは、自分自身で初めて自分が学びたいことを選択し、その学問を究め、深め、やり抜き、体系的な知識にするということだと考えます。そして、それを基に自分の考えを導き出し、発展させ形にして社会活動に役立てるのです。

大学は長い歴史と伝統の中で築かれ培われた「知の塊」です。その集積された「知」から学び、それを次の世代に伝え、新しい知見を生み出すことがここに集う私たちの使命です。そして今日から皆さんはその一員なのです。本学の長い歴史と伝統の中で、幅広い研究分野で培われ蓄積された知識と研究が、皆さんの学問に対する好奇心、探求心を掻き立てることを信じています。

皆さんがなぜ九州大学で学ぶことを選択したのか、そのことを折に触れて思い出して下さい。そこに皆さんの「学び」の原点があります。自分が選択した学びに真摯に向き合い、それを深め、目指した学びを全うして下さい。私たち教職員も共に皆さんの学びを支え、その学びを保証します。

 九州大学は1911年に設立され、その理念に「自律的に改革を続け、教育の質を国際的に保証するとともに、常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」を掲げています。また、『教育憲章』では、秀でた人間性、教養豊かな社会性、優れた国際性、創造性の高い専門性を有する人間の育成を目指すことを定め、『学術憲章』では、人類が長い歴史の中で探究され結実した叡智を大切にし、これを次の世代に伝えること、その上ですべての学問の伝統を基盤に新しい展開、先進的な知的成果を生み出すことを使命と規定しています。

九州大学は、2021年に「指定国立大学法人」となり、その構想を基に「KYUSHU UNIVERSITY VISION 2030」を策定し「総合知で社会変革を牽引する大学」を目指しています。ここでいう「総合知」とは、本学が持つ人文社会科学系から、自然科学系、さらにはデザイン系の「知」も組み合わせ、現代社会の複雑に絡む事象を単一の研究分野だけではなく、複数の分野の「知」を活用し、多様な視点で課題の解決に導く新しい知識や斬新な考え方を意味します。

本学の初代総長山川健次郎先生は、「己が専門の学問の蘊奥(うんのう)を極め、合わせて他の凡てのことに一応の知識を有して居らんで、即ち修養が広くなければ完全な士と云うべからず」と説いておられます。本学はこの言葉を大切にし、皆さんが一年次に学ぶ基幹教育では、文理を問わず、異なる専攻の学生たちが一緒に対話型の協働学習をしながら、論理的思考力を養い、知識そのものを新たな視点から創造的・批判的に「知識の再生産」を試みる取り組みをしています。これこそ「総合知」を生み出す試みであると言えます。

人類は、科学技術と経済の発展で、便利な社会を築くことが出来ましたが、その反面、人間の快適さが優先された結果、地球温暖化による自然災害の多発、過剰な森林開発などによる生態系の破壊、ウクライナ侵攻や地域の紛争など、私たちの世界は今までにない不安定な世の中になっています。これからのより良い未来の「持続可能で、人々の多様な幸せを実現できる社会」を構築するためには、解決しなければならない数多くの問題があり、そのために大学が果たさなければならない役割は大きいと考え、九州大学も社会変革の一端を担いたいと考えています。また、これから本学で学ぶ皆さんにも、世の中を良い方向に導く力を身につけてほしいと考えています。

昨年12月のFIFA WORLD CUP や今年3月のWBCでの日本代表選手の活躍は目を見張るものがありました。私たち観衆は彼らの熱量に惹きつけられ、たくさんの勇気や希望を貰った気がします。日本の選手たちが世界を相手に互角に闘うことができるのはなぜか。それは多くの選手が海外のチームで切磋琢磨し、異文化の中で自分を鍛えているからではないかと分析する記事も多く目にしました。彼らは世界とまみえ、その真価を知る中で、自分を磨いています。WBCの準決勝でサヨナラ勝ちをした時のインタビューで大谷翔平選手が語った「絶対に諦めないという気持ちで、最後までつないで、ああいう結果になったと思う」という言葉は心を打ちました。彼らは日々、そういう気持ちで世界と向き合っているのだと思います。今日入学した皆さんには在学中にぜひ留学を経験してほしいと思っています。私自身も米国留学を経験しましたが、異文化に触れ、多様な考えの人々と交流することで、新しい考え方や視点を持つことが出来るのはもちろん、更に自分を強くすることができます。

また、九州大学には、卒業生や関係者などからの貴重な支援を基につくられた「九州大学基金」があり、その中に先ほど述べた山川健次郎先生の名前を冠した「山川賞」など、皆さんに対する修学支援制度があります。近年、大学院進学、特に博士課程への進学が減少傾向にあり、国も様々な支援を打ち出していますが、現代社会が抱える困難な課題を解決するためには、高度な学問が要求されます。4年後、または6年後、皆さんの学びの好奇心が、次の大学院進学につながることを期待します。

皆さんが学ぶ九州大学には4つのキャンパスがあります。ここ伊都キャンパスは「総合科学の中枢・実証実験拠点」で日々2万人が集い、最先端の研究や教育が行われています。美しい四季を充分に楽しめる豊かな自然に囲まれた東西に約3キロ、南北に約2.5キロ、272ヘクタールの広大な敷地には、最新の研究棟や椎木講堂などの様々な施設があります。中でも約350万冊の蔵書を誇る中央図書館はその機能も構造も秀逸です。この中央図書館4階には九州大学が誇りに思い、本学の卒業生である中村哲先生の多くの記録が集められた「中村哲医師メモリアルアーカイブ」があります。中村先生は1973年に医学部を卒業され、その後35年間、アフガニスタン復興のために尽くされました。「飢えと渇きは薬では治せない」と医師である先生が1600本もの井戸を掘り、およそ25キロの灌漑用水路を自ら先頭に立ち建設されたのです。近代技術に頼るのではなく、現地の人々が自らの力で、また後年、自分たちで補修などができるような方法を提案し、自身で重機を操作して水路建設に尽力されました。残念なことに先生は2019年に現地で凶弾に倒れられましたが、その後も先生を支えたペシャワール会の活動が続き、今年アフガンの人達だけで建設した水路が完成しました。先生の偉業がこのような形でつながれていることに改めて中村先生の確固たる生き方、揺るぎない想いを感じます。アーカイブを一度訪ねてみて下さい。その他、筑紫キャンパスは、物質・環境・エネルギー分野の「先端科学融合拠点」として、大橋キャンパスは、芸術工学部があり、アジアにおける「先端デザイン拠点」として、病院キャンパスは、世界最先端の医療設備を備え、アジアにおける「生命医療科学拠点」として、それぞれ特色ある研究教育を展開しています。

本日のご来賓のロバート・ファン博士は1968年に工学部を卒業され米国の大学院で学ばれたのち、IT関連部品を幅広く取り扱う会社を設立され、米国やアジアで大きな成功を収めておられます。また、本学在学中にはアイスホッケー部の設立にも尽力され、伝統あるアイスホッケー部の礎を築かれた方でもあります。特に2010年にファン博士のご寄附により設立された「ロバート・ファン/アントレプレナーシップセンター(QREC)」は、本学の特徴的な教育組織としてアントレプレナーの育成に貢献しています。本日はファン博士の興味深いお話が聞けるものと私も楽しみにしております。そして、すでに皆さんの手元には、ファン博士のご厚意により「ダークホース」というタイトルの本が贈られています。

最後に、皆さんの新しい大学生生活が希望と夢に満ちたものであることを祈り、そしてその実現に向けての一歩を踏み出された皆さんに、心からエールを贈ります。

本日はおめでとうございます。                  

2023年 4月 5日
九州大学 総長
石橋 達朗