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2023年度 春季入学式(大学院) 総長告辞

総長式辞・挨拶等

2023年度 (令和5年度)大学院入学式 総長告辞

新入生の皆さん、入学おめでとうございます。九州大学教職員一同、心からお祝い申し上げます。また、皆さんをいつも支え励まし見守ってこられたご家族、友人、関係者の方々にも心からお喜び申し上げます。

今年度春季の大学院新入生は修士1,796名、博士524名、専門職144名、合計2,464名です。この中には397名の留学生も含まれます。

2019年末から続く新型コロナウイルス感染症は、この5月から「5類感染症」に引き下げられ、多くの感染防止対策が緩和されてきています。本日の入学式もパンデミック以前の形で、新入生の皆さんが一堂に会し式典が行われることを心より嬉しく思います。

ここにおられる皆さんは学部時代と大学院入試準備期間がパンデミック下にあり、様々な行動変容の中、戸惑い、悩ましい時期を過ごし、大変な思いをされたことと思います。そのような困難な時間を乗り越え本日、大学院生になられた皆さんに敬意を表するとともに、九州大学は皆さんを心から歓迎いたします。

新入生の皆さん、学術の領域にようこそ。
九州大学は1911年に設立され、今年で創立112年を迎えます。本学が定める「学術憲章」では、長い歴史の中で探究され結実した九大知を尊び、将来に伝えること、その上ですべての学問の歴史と伝統を基盤に新しい展開、先進的な知的成果を生み出すことを使命としています。伝統に学び、そこにみられる知的探求を尊びつつ、現代に相応しい知の進化と発展とを指向すること、創造的かつ独創的な学術研究を重視し、学問の自由及び研究者の自律性を尊重すること、人間的叡智と科学的知識との協調に努めつつ、諸々の知の実践的価値を追求していくこと、科学が自然環境と人類の生存とに重大な影響を与えることを常に顧慮し、自らの良心と良識とに従って、社会の信頼に応え得る研究活動の遂行に努めること、を理念にうたっています。大学院は、「創造性豊かな優れた研究・開発能力の養成」、「高度な専門的知識・能力を持つ高度専門職業人の養成」、「確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員の養成」及び「知識基盤社会を多様に支える高度で知的素養のある人材の養成」という4つの人材養成機能を担っています。高等教育の中でも、とりわけ大学院は知の創出、価値創造を先導する高度な人材を育成する役割を中心的に担うことが期待されるところです。

大学院での「学び」とは、学部時代の「学び」即ち、自身で選び専攻した学びを教育的に専門的にやり遂げ、体系的な知識や技術にしてきたものを、更にその専門性を磨き、新しい知見を得る学術という領域に高めていくことです。そして今日から始まる大学院生生活は、皆さんの生涯の中でも自身の好奇心、探求心を満たすと言う「学問の楽しさ」を実感できる貴重な機会です。皆さんがこれからその貴重な時間を使って自分の研究課題に取り組んで考えを深め、発展させ、形にし、学術業績としてそれぞれの論文に仕上げられたとき、大学は学位で皆さんの業績を保証します。

九州大学は、2021年に「指定国立大学法人」の指定を受け、その構想を基に「KYUSYU UNUVERSITY VISION 2030」を策定し、「総合知で社会変革を牽引する大学」を目指しています。ここでいう「総合知」とは、人文社会科学系から、自然科学系、さらにはデザイン系の「知」も組み合わせ、現代社会の複雑に絡む事象を一分野だけではなく、複数の分野の「知」を活用し、多様な視点で課題の解決に導く新しい知識や斬新な考え方のことで、九州大学はこの「総合知」をあみ出し、社会課題解決に広く活用して行きたいと考えています。

人類は科学技術と経済の発展で、便利な社会を築くことが出来ましたが、その反面、人間の快適さが優先された結果、地球温暖化による自然災害の多発、行き過ぎた森林開発などによって生じた生態系の崩壊、ウクライナ侵攻や地域の紛争など、私たちの世界は今までにない不安定な世の中になっています。私たちが目指すより良い未来の「持続可能で、人々の多様な幸せを実現できる社会」を構築するためには、多くの困難な問題に取り組み解決しなければなりません。そのために大学が果たさなければならない役割は大きいと考えており、本学はこのビションの実現に取り組むことで、社会変革の一端を担いたいと考えています。

近年、博士後期課程への進学率が減少していることや若手研究者の研究環境が不十分であることが危惧され、その改善、向上が課題となっています。皆さんは、まさにその「若手研究者」です。若い研究者の安定した研究活動と環境をつくり上げることは研究力の向上につながり、ひいては、学術の発展につながると考えます。国が準備した博士課程学生の就学や生活への経済的支援事業があり、本学の博士課程学生もその支援を受けています。また、本学独自の取り組みとして、卒業生などからの寄付により設立された「九州大学基金」により、大学院生を対象とした奨学金制度も設けています。このように、本学では経済的理由により博士進学を諦めることがないように支援を充実し、次世代を担う若手研究者の育成と研究環境の整備に注力しています。安心して本学での「学び」や「研究」を続け、「KYUSHU UNIVERSITY VISION 2030」の実現に一緒に取り組み、より高みを目指しましょう。

また、皆さんには早い時期に留学を経験してほしいと思います。異文化の中、違った環境の中で、自分を見つめ、自身の力を見極め、さらに磨いてください。昨年12月のFIFA WORLD CUPや今年3月のWBCでなぜ日本代表選手があんなに活躍できたのか。海外に進出し、異文化の中で、多様な考え方を持つ人々と交流し、自分を磨く機会を持った選手が増えたからだと考えます。世界とまみえ、その真価を知る中で、自分を磨く。私もロスアンゼルスの南カリフォルニア大学に留学したのですが、そこで出会った恩師が私のキャリアを決めたといっても過言ではありません。1980年代の米国の研究室はその設備もシステムも、日本とは比べようもなく快適な環境で研究生活ができました。そして、その教授は留学期間だけではなく、その後の私の人生のメンターになり、研究室に世界各国から集っていた当時の同僚たちとは今もよい関係が続いています。留学により得られた多様な人々との人間関係と、その広く豊かなつながりは研究活動のみならず、人生においても何物にも代えがたい宝物です。

本日初めて伊都キャンパスに足を踏み入れた方もおられるのではと思い、少しだけキャンパスの紹介をします。ここ伊都キャンパスは美しい四季を存分に楽しめる豊かな自然に囲まれ、東西に約3キロ、南北に約2.5キロ、272ヘクタールの広大な敷地に、今から皆さんが使う最新の研究棟や椎木講堂などの様々な施設があります。中でも約350万冊の蔵書を誇る中央図書館はその建物も機能も秀逸です。その4階に「中村哲医師メモリアルアーカイブ」があります。本学が誇り、かけがえのない存在である卒業生で、特別主幹教授だった中村哲先生の「アフガンに寄り添った35年」を伝えることは九州大学がとても大切にしていることで、先生の確固たる生き方と揺るぎない想いを伝え、つないでいく特別な場所となっています。他の3つのキャンパス、筑紫キャンパスは、物質・環境・エネルギー分野の「先端科学融合拠点」として,大橋キャンパスは、芸術工学部があり、アジアにおける「先端デザイン拠点」として、病院キャンパスは、世界最先端の医療設備を備え、アジアにおける「生命医療科学拠点」として、それぞれ特色ある研究教育を展開しています。特に伊都キャンパスでは、持続可能な社会の実現のための実証実験を行っていますが、今後、これら4つのキャンパスを連携させ、異なる役割を持つ分野、それに関係する人々がお互いに不可欠な関係を築く「イノベーション・コモンズ」に発展させ、持続可能な社会の実現と、人々の多様な幸せを得ることが出来る社会の実現に取り組んでいきたいと考えています。今日からこのキャンパスが皆さんのインスピレーションと研究を支えます。

最後に、これからの研究活動が充実し、実り多いものであることを祈り、その実現に向けて第一歩を踏み出した皆さんに、心からエールを贈ります。

本日はおめでとうございます。

2023年 4月 5日
九州大学 総長
石橋 達朗