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2024年度 春季入学式(大学院) 総長告辞

総長式辞・挨拶等

2024年度 (令和6年度)大学院入学式 総長告辞

新入生の皆さん、入学おめでとうございます。九州大学教職員一同、心からお祝い申し上げます。また、皆さんをいつも支え励まし見守ってこられたご家族、友人、関係者の方々にも心からお喜び申し上げます。
今年度、春季の大学院新入生は、修士1,810名、博士589名、専門職133名、合計2,532名です。この中には399名の留学生も含まれます。

ここにおられる皆さんは、学部時代がCOVID-19パンデミックの状況下にあり、様々な行動変容の中、戸惑い、悩ましい時期を過ごし、大変な思いをされたことと思います。そのような困難な時間を乗り越え、本日、大学院生になられた皆さんに敬意を表するとともに、九州大学は皆さんを心から歓迎いたします。

新入生の皆さん、学術の領域にようこそ。
九州大学には1911年の創立当初より大学院が設置され、今日まで113年間、研究と教育の歴史を紡いできました。本学が定める「学術憲章」では、長い歴史の中で探究され結実した九大知を尊び、将来に伝えること、その上ですべての学問の歴史と伝統を基盤に新しい展開、先進的な知的成果を生み出すことを使命としています。伝統に学び、そこにみられる知的探求を尊びつつ、現代に相応しい知の進化と発展とを指向すること、創造的かつ独創的な学術研究を重視し、学問の自由及び研究者の自律性を尊重すること、人間的叡智と科学的知識との協調に努めつつ、諸々の知の実践的価値を追求していくこと、科学が自然環境と人類の生存とに重大な影響を与えることを常に顧慮し、自らの良心と良識とに従って、社会の信頼に応え得る研究活動の遂行に努めること、を理念にうたっています。
 
大学院で学ぶとは、どういうことだと考えていますか。学部時代、皆さんは、自身で選び専攻した学びを、教育的に専門的にやり遂げ、体系的な知識や技術にしてきました。大学院では、更にその専門性を磨き、新しい知見を得る学術という領域に高めていくことです。そして、今日から始まる大学院生活は、皆さんの生涯の中でも自身の好奇心、探求心を満たすと言う「学問の楽しさ」を実感できる貴重な機会です。皆さんがこれから、その貴重な時間を使って、自分の研究課題に取り組んで考えを深め、発展させ、形にし、学術業績として、それぞれの論文に仕上げられたとき、大学は学位で皆さんの業績を保証します。

九州大学は、2030年に向けて「KYUSYU UNUVERSITY VISION 2030」を策定し、「総合知で社会変革を牽引する大学」を目指して、2022年に3つの新しい組織を立ち上げました。理想的な未来社会をデザインし、そこからバックキャストして、その理想的な未来社会にどのようにして到達するかを考える過程で、「総合知」を用いて社会的課題を解決に導く「未来社会デザイン統括本部」、DXの推進によって、データ駆動型の教育、研究、医療を展開する「データ駆動イノベーション推進本部」、そしてこの2つの本部の活動で総合的に生み出された研究成果を「オープン・イノベーション・プラットフォーム」で、社会実装につなげていくという戦略的なイノベーション推進構想です。この4月には「オープン・イノベーション・プラットフォーム」を大学とは別の法人とし、本学が生み出す研究成果を社会に役立てていくことを迅速に行うことが可能となり、本学が目指す姿「総合知で社会変革を牽引する大学」の実現に向けた活動が動き出しています。現代の様々な社会的問題は多様化・複雑化しており、単一の研究分野領域のみでは解決することが困難なことが多くなってきています。そのような問題を、多様な知の集合体である大学の力を結集し、つまり自然科学系や人文社会科学系、さらにはデザイン系の分野を複合、融合させ、問題解決に必要な「総合知」をあみだし、解決に導きたいと考えています。

皆さんも大学院生活の中でこの取り組みに参加することになります。人類は科学技術と経済の発展で、便利な社会を築くことが出来ましたが、その反面、人間の快適さが優先された結果、地球温暖化による自然災害の多発、行き過ぎた森林開発などによって生じた生態系の崩壊、ウクライナ侵攻やガザの戦闘、その他多くの地域での紛争など、私たちの世界は今までにない不安定な世の中になっています。私たちが目指す、より良い未来の「持続可能で、人々の多様な幸せを実現できる社会」を構築するためには、多くの困難な問題に取り組み、解決しなければなりません。そのために大学が果たさなければならない役割は大きいと考えており、本学はこのビションの実現に取り組むことで、社会変革の一端を担いたいと考えています。そして、皆さんには、研究を究める中で、それがどう社会課題の解決につながるのか、その2つの道の両方を、いわゆる「二刀流」として追求してほしいと思っています。

近年、博士後期課程への進学率が減少していることや若手研究者の研究環境が不十分であることが危惧され、その改善、向上が課題となっています。皆さんは、まさにその「若手研究者」です。若い研究者の安定した研究活動と環境をつくり上げることは研究力の向上につながり、ひいては、学術の発展につながると考えます。国が準備した博士課程学生の就学や生活への経済的支援事業があり、本学の博士課程学生もその支援を受けています。また、本学独自の取り組みとして、卒業生などからの寄付により設立された「九州大学基金」により、大学院生を対象とした奨学金制度も設けています。このように、本学では経済的理由により博士進学を諦めることがないように支援を充実し、次世代を担う若手研究者の育成と研究環境の整備に力を注いでいます。安心して本学での「学び」や「研究」を続け、「KYUSHU UNIVERSITY VISION 2030」の実現に一緒に取り組み、より高みを目指しましょう。

また、皆さんには早い時期に留学を経験してほしいと思います。異文化の中、違った環境の中で、自分を見つめ、自身の力を見極め、さらに磨いてください。世界とまみえ、その真価を知る中で、自分を磨く。今まで知らなかった異なる文化やそれに基づく違った価値観のなかで、自分の研究活動を深めさらに高め、多様な人々との信頼できる人間関係を築いてください。その広く豊かなつながりは研究活動のみならず、人生においても何物にも代えがたい宝物になります。

本日初めて伊都キャンパスに足を踏み入れた方もおられるのではと思い、少しだけキャンパスの紹介をします。ここ伊都キャンパスは美しい四季を存分に楽しめる豊かな自然に囲まれ、東西に約3キロ、南北に約2.5キロ、272ヘクタールの広大な敷地に、今から皆さんが使う最新の研究棟や椎木講堂などの様々な施設があります。中でも約350万冊の蔵書を誇る中央図書館はその建物も機能も秀逸です。その4階に「中村哲医師メモリアルアーカイブ」があります。本学が誇りに思う卒業生である中村哲先生の「アフガンに寄り添った35年」を伝えること、また先生の活動がPMS(ピースジャパンメディカルサービス)と、同じく本学の卒業生である村上優先生が代表を務めるペシャワール会の支援によって、アフガンの人々が自力で先生の活動をさらに推し進めて継続されていることは九州大学がとても大切に思っていることで、先生の確固たる生き方と揺るぎない想いを伝え、つないでいく特別な場所となっています。他の3つのキャンパス、筑紫キャンパスは、物質・環境・エネルギー分野の「先端科学融合拠点」として、大橋キャンパスは、芸術工学部があり、アジアにおける「先端デザイン拠点」として、病院キャンパスは、世界最先端の医療設備を備え、アジアにおける「生命医療科学拠点」として、それぞれ特色ある研究教育を展開しています。今日から、このキャンパスが皆さんのインスピレーションと研究を支えます。

最後に、これからの研究活動が充実し、実り多いものであることを祈り、その実現に向けて第一歩を踏み出した皆さんに、心からエールを贈ります。
本日はおめでとうございます。

2024年4月3日
九州大学 総長
石橋 達朗