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2025年度 春季入学式(大学院) 総長告辞

総長式辞・挨拶等

2025年度 (令和7年度)大学院入学式 総長告辞

新入生の皆さん、入学おめでとうございます。九州大学教職員一同、心からお祝い申し上げます。また、皆さんをいつも支え励まし見守ってこられたご家族、友人、関係者の方々にも心からお喜び申し上げます。
今年度、春季の大学院新入生は、修士1,873 名、博士612 名、専門職130 名、合計2,615 名です。この中には486 名の留学生も含まれます。

新入生の皆さん、学術の領域にようこそ。
九州大学は1911 年の創立当初から大学院を設置し、今日まで114 年間の歴史と伝統の中で育まれ培われた叡智により、現在の高い水準の教育と最先端の研究を進めています。本学が定める『学術憲章』では、長い歴史の中で探究され結実した九大知を尊び、将来に伝えること、その上ですべての学問の歴史と伝統を基盤に新しい展開、先進的な知的成果を生み出すことを使命としています。伝統に学び、そこにみられる知的探求を尊びつつ、現代に相応しい知の進化と発展とを指向すること、創造的かつ独創的な学術研究を重視し、学問の自由及び研究者の自律性を尊重すること、人間的叡智と科学的知識との協調に努めつつ、諸々の知の実践的価値を追求していくこと、科学が自然環境と人類の生存とに重大な影響を与えることを常に顧慮し、自らの良心と良識とに従って、社会の信頼に応え得る研究活動の遂行に努めることを理念にうたっています。

大学院で学ぶとは、どういうことだと考えていますか。
皆さんは、学部時代の「学び」で、自身で選択した学問を探究し、深め、体系的な知識や技術にし、自分自身の考えを掘り下げ、形にしてきました。大学院では、更にその専門性に磨きをかけ、新しい知見を得る「学術」という領域に高めていくことです。そして、今日から始まる大学院生活は、皆さんの生涯の中でも自身の好奇心、探求心を満たすと言う「学問の楽しさ」を実感できる貴重な機会です。皆さんがこれから、その貴重な時間を使って、自分の研究課題に取り組んで考えを深め、発展させ、形にし、学術業績として、それぞれの論文に仕上げられた時、大学は学位でその業績を保証します。

九州大学は、2030 年に向けて「Kyushu University VISION 2030」を策定し、「総合知で社会変革を牽引する大学」への道を進んでいます。本学が生み出す様々な知識、知見から総合知を導きだし、活用して、社会的課題を解決していくことと、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、教育・研究はもとより、社会変革に貢献する活動に取り組んでいます。いくつかの組織が立ち上がり、ビジョンの遂行が始まっていますが、本学は昨年、大学内にあった産学官連携組織「オープン・イノベーション・プラットフォーム OIP」を独立させ、「九大OIP 株式会社」を設立し、産学官連携活動がゴールではなく、産学官連携を通じて産業創生や雇用創出を目指しています。また、この新たなゴールに向かって、「九大OIP 株式会社」の下に開発法人を設立し、大学・開発法人・産業界という新たな連携を開始しています。さらに、大学発ベンチャーを組成するための仕組み、すなわちイノベーションチャレンジファンドを作り、福岡県や福岡市の大きな支援も受けてファンドがスタートしました。本学ではこれまでに、宇宙領域のQPS 研究所、再生医療のサイフューズなど、いくつかの大学発ベンチャー企業が誕生しています。このようなベンチャー企業を大学が支援し、成長させ、新たな研究を生み出し、教育を進化させる原動力としていきます。これらはいずれも日本の大学では初の試みであり、新しい大学のあるべき姿を本学が提案できると考えています。

皆さんも大学院生活の中でこの取り組みに参加することになります。人類は科学技術と経済の発展により、便利な社会を築くことができましたが、その反面、人間の快適さが優先された結果、地球温暖化による自然災害の多発、行き過ぎた森林開発などによって生じた生態系の崩壊、ウクライナ侵攻やガザの戦闘、その他多くの地域での紛争など、私たちの世界は今までにない不安定な世の中になっています。私たちが目指す、より良い未来の「持続可能で、人々の多様な幸せを実現できる社会」を構築するためには、多くの困難な問題に取り組み、解決しなければなりません。そのために大学が果たさなければならない役割は大きく、本学はこのビジョンの実現に取り組むことで、社会変革の一端を担いたいと考えています。そして、皆さんは、それぞれの研究を究める中で、自身の研究がどう社会的課題の解決につながるのかという視野も持って下さい。

また、皆さんには早い時期に留学を経験してほしいと思います。異文化の中、違った環境の中で、自分を見つめ、自身の力を見極め、さらに磨いて下さい。世界とまみえ、その真価を知る中で、自分の研究活動を深め、さらに高めて下さい。自分を高める中で築いていく、多様な考え方を持つ人々との人間関係は、研究活動のみならず、人生においても何物にも代えがたい宝物になります。
そして、近年、博士後期課程への進学率が減少していることや若手研究者の研究環境が不十分であることが危惧され、その改善、向上が課題となっています。皆さんは、まさにその「若手研究者」です。若手研究者の安定した研究活動と環境をつくり上げることは研究力の向上につながり、ひいては、学術の発展につながると考えます。国が準備した博士課程学生の就学や生活への経済的支援事業があり、本学の博士課程学生もその支援を受けています。また、本学独自の取り組みとして、卒業生などからの寄付により設立された「九州大学基金」により、大学院生を対象とした奨学金制度も設けています。このように、本学では経済的理由により博士課程への進学を諦めることがないように支援を充実し、次世代を担う若手研究者の育成と研究環境の整備に力を注いでいます。安心して本学での「学び」や「研究」を続け、「Kyushu University VISION 2030」の実現に一緒に取り組み、より高みを目指しましょう。

本日初めて伊都キャンパスに足を踏み入れた方もおられるのではと思い、少しだけキャンパスの紹介をします。ここ伊都キャンパスは美しい四季を存分に楽しめる豊かな自然に囲まれ、東西に約3 キロ、南北に約2.5 キロ、272 ヘクタールの広大な敷地に、今から皆さんが使う最新の研究棟や椎木講堂などの様々な施設があります。中でも約350 万冊の蔵書を誇る中央図書館はその建物も機能も秀逸です。その4 階に「中村哲医師メモリアルアーカイブ」があります。本学が誇りに思う卒業生である中村哲先生の「アフガンに寄り添った35 年」を伝えること、また先生の活動がPMS(ピースジャパンメディカルサービス)と、同じく本学の卒業生である村上優先生が代表を務めるペシャワール会の支援によって、アフガンの人々が自力で先生の活動をさらに推し進めて継続されていることは九州大学がとても大切に思っていることで、先生の確固たる生き方と揺るぎない想いを伝え、つないでいく特別な場所となっています。他の3つのキャンパス、筑紫キャンパスは、物質・環境・エネルギー分野の「先端科学融合拠点」として、大橋キャンパスは、芸術工学部があり、アジアにおける「先端デザイン拠点」として、病院キャンパスは、世界最先端の医療設備を備え、アジアにおける「生命医療科学拠点」として、それぞれ特色ある研究教育を展開しています。また、箱崎キャンパス跡地は、「HAKOZAKI Green Innovation Campus」をコンセプトに掲げ、九州大学の歴史を継承した上で、環境先進都市としての新たな街づくりを進めることとなっています。
今日から、これらのキャンパスが皆さんのインスピレーションと研究を支えます。

3 月26 日、京都大学数理解析研究所の柏原正樹特任教授がノルウェー科学文学アカデミーから贈られる数学のノーベル賞といわれるアーベル賞に選ばれました。賞が創設された2002 年以降日本人が受賞するのは初めてです。柏原博士は代数解析学の重要な論理を構築され多くの業績を残しておられます。博士は「数学は美しい」と述べ、「数学はいかに物事を抽象化するかだ。記憶力の良い人に向いていると誤解している子供が多いと聞くが、面白い発想で新しいものを創造することが大切だ」と言っておられます。また多くの共同研究者に恵まれたことが博士の研究を豊かにしたとも言われ、「新しいものを創造すること、新しいことに挑戦していくことは大事なこと、私の数学研究の大きな糧となった」と話されました。博士の今回の受賞は日本にとって大きな誇りであると共に、「創造」「挑戦」「協働」は、学問を究めていくキーワードです。博士のこれらの言葉を覚えておいてほしいと考えます。
最後に、これからの研究活動が充実し、実り多いものであることを祈り、その実現に向けて第一歩を踏み出した皆さんに、心からエールを贈ります。
本日はおめでとうございます。

2025 年4 月3 日
九州大学 総長
石橋 達朗