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有川総長 年頭の挨拶(2009年1月1日)

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有川総長 年頭の挨拶(2009年1月1日)

 新年おめでとうございます。

 昨年10月に総長に就任して3ケ月が過ぎました。この間、就任に際して示した「これからの九州大学」の目標に沿った基本的なプランの策定や、それを実現するための具体的な作業を開始し、次年度(平成21年度)の概算要求事項の実現、伊都新キャンパスの整備等についての関係各方面への働きかけ等、様々な活動を行ってまいりました。また、国立大学法人としての第1期の中期目標・中期計画の評価を受け、次期の中期目標・中期計画案の策定も順調に進み、既に概形がまとまりつつあります。

 国立大学は、法人化してこの5年間に、毎年効率化係数や附属病院の経営改善係数に基づく運営費交付金の削減を受け、九州大学では毎年約9億円の減少が続いています。国立大学法人全体では、この5年間に、ほぼ京都大学1校分あるいは単科大学21校分に相当する運営費交付金が削減されていることになります。国家公務員の定員削減に相当する人件費削減も毎年行われています。

 また、世界経済では、一昨年のアメリカのサブプライムローンの焦げ付きやリーマン・ブラザーズ社の経営破綻に端を発する金融危機が全世界に波及し、金融に留まらず、自動車やIT等の基幹的製造業にも未曾有のダメージを与えており、派遣社員の削減・契約更新中止等といった事態が発生しています。その他、原油の高騰・暴落、株安・円高の問題、さらには、食品の偽装や安全性、エネルギー・環境の問題も大きくクローズアップされました。

 一方で昨年は、南部、益川、小林、下村の4氏のノーベル賞受賞に日本中が沸きました。我が国の基礎科学の実力の高さに加えて、自由な発想に基づく基礎研究の重要性、我が国が長年にわたって続けてきた基礎科学への投資の意義も実証され、大学関係者を勇気づける明るいニュースもありました。

 このように厳しい経済状況、深刻な社会状況の中で、一筋の明るい方向性・可能性を感じながら迎えた新年です。九州大学は本年4月に、六本松キャンパスの学生・教職員が伊都新キャンパスへ移転し、約12,000人の学生・教職員等が集う本学最大のキャンパスになります。この移転を契機に、平成6年の教養部廃止や平成12年度の学府・研究院制度の導入以来続いていた、研究院レベルでの分断状態が解消されます。同じ研究院の先生方が同じキャンパスの同じ建物に入ることによって、研究上の相互のコミュニケーションだけでなく、担当している学部や大学院学府における教育活動もスムースに行え、教育研究活動が活性化するものと期待されます。

 再開発が進む病院地区では、9月に外来診療棟が開院します。これをもって平成10年以来続けてきた病院の再開発という一大事業が完了し、我が国屈指の最先端医療を担う大学病院が完成します。新病院を中心に、この数年間に展開してきた様々な施設の改修・耐震補強や各種センターの設置整備等も効果的に機能して、生命科学から基礎医学、臨床研究、臨床応用、治験を体系的に包含する生命科学、医歯薬、保健科学に関する世界の中核拠点としての研究教育診療活動が飛躍的に進むものと期待されます。

 研究活動においては、文部科学省科学技術振興調整費「戦略的研究拠点育成プログラム」による「ユーザーサイエンス」事業が最終年を迎え、最終評価を受けます。5年間にわたってユーザーサイエンスという新しい切り口の学問領域の確立と普及に向けて、様々な研究活動を展開し、多くのユニークな成果を上げてきました。また、この成果を教育システムとして定着させるための「ユーザー感性学専攻」も、同専攻が入る「統合新領域学府」とともに設置が認められ、4月にスタートします。この統合新領域学府には、自動車に係る学問分野を、機械や材料、情報制御といった工学分野のみならず、社会科学や人間科学をも包含した統合新領域として体系的に教育し、研究する世界初の「オートモーティブサイエンス専攻」も含まれています。社会からの様々な要請と期待に新しい視点に立って応えようとする教育研究がいよいよスタートします。

 また本年は、自由闊達な発想に基づく研究から一層の発展が期待できる研究者や研究者グループ、生命科学・未来化学・産業数理学・炭素資源学等のグローバルCOEプログラム、水素関連プロジェクト、ソフト界面プロジェクト、先端融合医療レドックスナビ研究拠点、橋渡し研究支援推進プログラム、先端医療開発特区(スーパー特区)をはじめとする競争的資金や外部資金等による研究教育診療活動をさらに活性化するための施策を具体化します。この他、総長就任時の所信表明に基づいたアクションを具体化する年でもあります。この中には、留学生30万人計画やグローバル30に対応するための計画も含まれます。また、世界的な課題である環境問題、エネルギー問題についても、東アジア環境問題プロジェクトや未来型炭素資源エネルギー拠点形成等の活動を中心として着実に推進します。金融危機の解決や持続可能社会の構築、ビッグサイエンスへの参画等、新たな人文社会科学や基礎科学の課題へも果敢に挑戦します。

 大学は、様々な制約や厳しい財政状況の中で、絶えず自ら変革していくことが強く求められています。それに応えることができない大学は淘汰されることになるでしょう。世界的研究・教育拠点を目指す九州大学においても、対処療法的ではなく、根本的かつ大胆に発想することによって、永続性があり、すべての要請に応えることができ、しかもすべての構成員が元気の出るような基本理念を構築し、それに基づく解決策を探っていきます。

 創立100周年を2年後の2011年に控え、本年は「知の新世紀を拓く」を基本テーマとした記念事業の準備活動にとっても重要な一年になります。募金活動を始めとして計画を具体化し、大学の改革と課題解決に連動した新しい記念事業を成功させるために、教職員が一体となって最大限の努力をいたしたいと考えております。

 本年が、世界中の人々、そして九州大学に学び働くすべての学生・教職員にとって、実りある年になることを祈念して新年の挨拶とします。

平成21年1月1日
九州大学総長 有川 節夫