About 九州大学について

有川総長 年頭の挨拶(2010年1月1日)

歴代総長メッセージ(有川節夫元総長)一覧

有川総長 年頭の挨拶(2010年1月1日)

 新年おめでとうございます。

 昨年8月末に行われた衆議院議員総選挙における民主党の躍進により、我が国における歴史的な政権交代が行われました。新政権のもとでは、予算編成の仕方も大きく変わり、前政権下で策定されていた補正予算や来年度概算要求原案が見直され、さらに、「国民的な観点から、国の予算、制度、その他国の行政全般の在り方を刷新するとともに、国、地方公共団体及び民間の役割の在り方の見直しを行う」(平成21年9月18日閣議決定)との目的で設置された「行政刷新会議」では、一般公開のもとで「事業仕分け」作業が行われ、高等教育や学術研究に係る多くの事業について縮減や見直し等の方針が示されました。この見直しについては、学術や高等教育の推進に対する大きな懸念と危機感から、本学を含め多くの研究機関や研究者個人、団体・グループから数多くの声明等が出されました。

 年末に閣議決定された来年度予算案では、依然として運営費交付金の削減や重要な競争的資金の削減等、深刻な状況が続いてはいますが、2007年に始まりいまだ終焉しない金融危機や、税収の減少とデフレ傾向という深刻な状況、さらにはマニフェストで掲げた多くの新規事業への取り組みなどを考慮すれば、学術や高等教育に関しては、ある程度の理解と配慮が示されたのではないかと思います。

 一方、九州大学においては、昨年は大きな変化・前進・成果が見られました。9月には、旧制福岡高等学校以来88年の歴史をもつ「六本松キャンパス」が閉校しました。また、「田島寮」も閉寮しました。誠に感慨深いものがあります。

 六本松キャンパスの閉校の一方、伊都キャンパスでは新たな施設がオープンしました。まず、4月には、「伊都キャンパスセンター・ゾーン」がオープンし、一・二年生を中心とする全学教育が始まり、伊都キャンパスは本学で最大のキャンパスとなりましたし、9月には「数理学研究教育棟」が竣工、理学部数学科、数理学府、数理学研究院が伊都に集結し、この時点で、平成6年の教養部廃止以来続いていた全学の研究院レベルでの分断状態が解消されました。また、10月には、百周年記念事業に賛同してご寄付を頂いた「稲盛財団記念館」がオープンし、これにより「稲盛フロンティア研究センター」における研究活動が本格化してきました。さらに、整備充実が進んでいる伊都キャンパスにおける共通の事務を円滑・迅速に遂行するために「伊都共通事務部」が設置されました。

 病院キャンパスでは、9月に、「新外来診療棟」が開院し、大学病院の再開発事業が完了しました。

 教育研究では、まず、4月に、新しい大学院「統合新領域学府」がスタートし、「ユーザー感性学専攻」と「オートモーティブサイエンス専攻」という他に例のない新しい大学院専攻における教育研究が始まりました。近年、環境問題はエネルギーやCO2削減という面で注目されていますが、6月には、より根源的な生態系や生物多様性保全、自然共生社会を扱うグローバルCOEプログラム「自然共生社会を拓くアジア保全生態学」が採択されました。このことは、これからの地球環境を考える上で極めて意義深いことだと思います。7月には、「国際化拠点整備事業(グローバル30)」にも採択され、本学が2020年を目途に構想を描いている究極の国際化に向けた具体的な活動に弾みがつきました。これを受ける形で、5月に既に箱崎地区に設置していた「外国人留学生・研究者サポートセンター」を11月に各キャンパスにも設置し、留学生や外国人研究者が本学で活動し、福岡で生活するために必要な諸手続きを一元的にサポートする事業が開始しました。

 7月には、本学独自の取り組みである「主幹教授」制度がスタートしました。大型の具体的なプロジェクトを展開中の主幹教授による新しい形の「研究センター」も既にいくつか開設され、研究活動が開始されています。また、10月には、既存の部局を超えた全学的な組織として、より高いレベルの国際的研究拠点としての飛躍が期待される「高等研究院」を設置し、ノーベル賞級の極めて高い研究業績を有する栄誉教授、特別主幹教授等のシニア研究者と(テニュア・トラックプログラムによる)特別准教授の若手研究者による実質的かつ高度の研究教育活動が始まりました。

 本学出身の宇宙飛行士若田光一博士が国際宇宙ステーションでの長期滞在を成功させ、11月には、伊都キャンパスで帰国報告会が開催されました。また、8月には、若田宇宙飛行士の所属先でもある「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」との組織対応型連携がスタートしました。10月には、100年の伝統を誇る九大フィルが福岡市民文化活動功労賞を受賞しました。11月には、整備が進んでいる伊都キャンパスが福岡市都市景観賞に選ばれました。運営面においては、3月に、二回目の財務格付けで最高の「AAA」を更新しました。

 運営費交付金が毎年約1%削減され、大学病院も毎年2%の経営改善係数が課せられ予算削減が続く厳しい財政状況の中で、法人のメリットを最大限に活用すべく、上記のことも含めて、様々な改革・事業を推し進め、今年4月から始まる次期中期目標・中期計画期間に向けての基盤整備を行ってきました。

 今年は、国立大学法人としての第二期中期目標・中期計画期間のスタートの年でもあります。次期中期目標・中期計画の達成実現に向けた具体的な取り組みが始まりますが、これまでの国立大学法人としての教育・研究・診療活動に加えて、新政権が打ち出している「国民的な観点」を常に意識して、なお一層の公平性・透明性を確保し、具体的な形での国民各層への理解を求める努力が必要になると思います。しかし、それは通常の費用対効果の考えだけでなく、科学技術・学術の振興と次世代を担う高度な人材の育成という、社会的・国民的な投資という観点から、日本をそして世界を根底から支えるための息の長い地道な取り組みに基づいたものでなければなりません。

 大学としてまず揺籃期の研究を支え、それを科学研究費補助金のような自由な発想に基づく研究活動へ繋ぎ、国などが定める政策課題解決のためのプロジェクト研究へと羽ばたいてもらうよう、環境の整備を行う必要があります。また、低炭素社会やクリーンエネルギー、環境問題をはじめとする持続可能社会の実現や高度先進医療等を先導する「戦略的な研究」にも果敢にチャレンジする必要があります。また、人文社会科学の役割がこれまで以上に強くなり、各方面から期待されています。そうした期待に根底から、またタイムリーに応えていく必要があります。こうした研究に本学の研究者が存分に力を発揮できるよう環境整備と有効な制度の設計に取り組みたいと考えています。

 教育面では、特に、博士後期課程の充実、博士取得者のキャリアパス、ポストドクター、職業教育等の問題がクローズアップされています。これは、21世紀を担う高度な研究者・技術者の養成と活用に関する根源的な問題を包含しています。また、内向き傾向にあるといわれている研究者や学生の問題、広い視野と関心をもった研究者・指導者の育成という大きな課題もあります。こうした問題等に対する抜本的な解決策を探し、国などへ具体的な提案を行い、できるところから大学独自の取り組みを始める必要もあります。長引く不況下における学生の修学支援についても考えなければなりません。

 様々な制度改革や事業の展開には、多くの事務量が発生します。そうした事務に係る人件費や人員を削減しながら、また、障害者雇用問題も解決しながら対応しなければなりません。ICT等を存分に活用することは当然ですが、業務の効率化へ向けた全学協力体制を確立し、すべての大学構成員がそれぞれの立場で、存分に持てる能力を発揮し、効率的なマネージメントができるように工夫する必要があります。

 創立百周年は、いよいよ来年になりました。「知の新世紀を拓く」を基本テーマとした記念事業の準備作業を具体化する年になります。大学の改革と課題解決に連動した新しい記念事業を成功させるためには、募金事業を始めとした様々な行事に教職員が一体となって取り組むことが不可欠だと思います。

 学内外、国内外の課題が山積し、先行き不透明な部分もありますが、こうした課題へのチャレンジは我が国を代表する基幹総合大学としての存在感を示す好機でもあると考えます。本年が、世界中の人々、そして九州大学に学び働くすべての学生・教職員にとって、実りある年になることを祈念して新年の挨拶とします。

平成22年1月1日
九州大学総長 有川 節夫