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平成22年度 入学式告辞(2010年4月7日)

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平成22年度 九州大学入学式告辞(2010年4月7日)

 本日、2654名の新入生を九州大学に迎えました。皆さんを心から歓迎いたします。厳しい競争に打ち勝ち合格し、入学された皆さんにお祝いを申し上げます。これまで、小学校、中学校、高等学校を通じて、また、受験生としての皆さんを物心両面からご支援いただいたご家族の皆様や関係者の皆様にもお祝いを申し上げます。

 最初に、私の約40年に及ぶ九州大学での教育・指導の経験に基づいて皆さんにお伝えしたいことがあります。それは、皆さんは、もちろん優秀であるから本学に合格し、入学しているわけですが、実は、ほとんど例外なく、自分で今思っている、あるいは感じているよりはるかに高い能力を持っているということです。皆さんの多くは未だそのことに気付いていない。九州大学の先生たちは、これから授業やゼミ等を通じて、皆さんのそうした並はずれた高い能力を引き出し、そのことに気付いてもらう教育を行ってくれるはずです。

 さて、九州大学は、来年、総合大学として創立100周年を迎えます。皆さんは、この記念すべき節目に立ち会うことになります。

 九州大学は、1903年(明治36年)3つ目の帝国大学を目指して、京都帝国大学の一分科として設置された福岡医科大学と、1911年(明治44年)に開設された工科大学とをもって、同年1911年1月に、東京、京都、東北に次ぐ四番目の帝国大学、九州帝国大学として活動を開始しました。

 それから8年後の1919年(大正8年)に農学部が、1924年(大正13年)に法文学部が、そして1939年(昭和14年)に理学部が設置され、人文社会と理医工農の学部をもつ総合大学としての九州大学の形が整います。その後、戦後の教育改革によって、1947年(昭和22年)に九州帝国大学は九州大学に改称されました。1949年(昭和24年)に法文学部を母体にして文学部、教育学部、法学部、経済学部が、1964年(昭和39年)に薬学部が、1967年(昭和42年)に歯学部が設置されています。また、1968年(昭和43年)には、2003年(平成15年)に九州大学と統合して、芸術工学部となる九州芸術工科大学が設置されています。今世紀に入って2001年には、こうした既存の学部の枠にとらわれず、自由に関心のある科目を選択履修でき、専門性と同時に高い総合性、国際性を目指す21世紀プログラムもスタートしています。

 こうした11の学部と一つのプログラムに加えて、昨年度は、大学院における教育研究を出口から統合的に考える統合新領域学府と分野を超えた最高の教育研究を展開するための高等研究院を開設しました。このように、九州大学は、18の大学院学府、4つの専門職大学院、17の研究院、3つの附置研究所、一つの大学病院を擁する我が国屈指の基幹総合大学として、高度の教育・研究と診療活動を展開し、社会の発展に寄与し続けています。

 我が国の国立大学は、2004年(平成16年)にすべて法人化しました。九州大学も、国立大学法人九州大学となり、法人としての裁量を可能な限り生かして数々のシステム改革を行っているところです。

 九州大学は、移転という大事業の過渡期にあります。2005年(平成17年)10月に工学系の半分が移転し、翌年度中に残りの工学系とシステム情報科学系が移転を完了しました。昨年は、これまで教養教育や全学教育等を行っていた六本松キャンパスが移転して、伊都キャンパスは、学生教職員あわせて約一万二千人が学び、研究し、働く、九州大学で最大のキャンパスとなりました。工学系とシステム情報科学系、数学系では、大学入学時から卒業時まで、そして大学院修了まで、同じキャンパスで学習し、教育を受け、研究できることになりました。皆さんの先輩達の勉強や研究、先生方の研究などに直に接しながら、勉強ができることになります。こうした一貫教育は、伊都新キャンパスへの統合移転の重要な目的の一つでもありました。

 学部における専攻教育を医学部、歯学部、薬学部のある馬出キャンパスや芸術工学部のある大橋、人文社会系学部、理学部、農学部のある箱崎で受講する学生も含めて、これから1年あるいは1年半の間、同じ伊都キャンパスで過ごすことになります。授業やクラブ活動等を通して、できるだけ多くの異分野の学生との交流に努めて下さい。

 伊都キャンパスは、生物多様性の保全等自然環境に配慮したキャンパスで、最先端の科学技術の実証実験の場です。そうしたキャンパスのメリットも享受してください。例えば、皆さんが持つことになる学生証は、本学で開発した特別なものです。セキュリティに十分配慮されたもので、使っている間に機能がどんどん進化してゆく新しいタイプのICカードです。これも、伊都キャンパスでの実証実験を通して実用化されたものです。水素エネルギーや風レンズ等のグリーン・イノベーションにも世界の拠点として取り組んでいます。そして、キャンパス周辺が都市機能を持つには、まだ多少時間がかかり、不便な面もあろうかと思いますが、日々整備が進む伊都キャンパスやその周辺の様子もしっかり観察し、記憶に留めておいてください。

 我々は、高度に発展したICT(情報通信技術)に支えられたグローバル社会にいます。数年前に顕在化したサブプライムローン問題に端を発する米国発の金融危機は、我が国にも波及し、大きなダメージを与え、景気や雇用に関しては、幾分好転の兆しは感じられるものの、回復にはまだ時間がかかると思われます。世界中がエネルギー・環境問題にも直面しています。日本では、昨年9月の歴史的な政権交代で、政策や意見の集約、政治の手法が大きく変わり、税収が極端に落ち込んだ中で、こうした変革を実現しようとしています。高齢化と少子化の進む社会における医療や福祉に関する大きな問題もあります。

 課題が山積した厳しい状況にありますが、皆さんは、そうした課題を直視し、解決策を模索し、少なくとも意識していて欲しい。そうすることによって、大学で学ぶ哲学や歴史、科学技術等の基礎や理論をより具体的に感じ、本質が理解できるようになると考えるからです。また、直面している具体的な課題を、歴史上の事実も含めて比較・分析し、一般化し、抽象化を試みて欲しい。そうすることによって、課題に対する理解が深まり、解決策をデザインすることが可能になり、刻々と、時として劇的に変化する社会情勢に的確に対応できる素地が生まれると考えるからです。このように、高い意識と主体性をもって能動的に広く深く学び、社会性を涵養しておく必要があります。

 皆さんは、今、本学の学部に入学したばかりですが、学術の高度化、知識基盤社会の発展にともなって、大学院への進学者は年々増加しています。昨年の本学への大学院修士課程、専門職大学院の入学者は1969名(約2000名)ですから、本学では、学部の定員の約75%に当たります。学部を卒業して大学院へ進学することも十分に想定しておく必要があります。

 私は、入学式などの機会をとらえて、九州大学の学生の皆さんに、アクティブで有意義な大学生活を送るために次のような二つのことをお勧めしています。

 まず、学生の本分は勉学にあります。常にそのことを第一に考え、中心において行動してください。大学の授業は、高校や予備校での授業と大きく異なります。先生たちは、皆さんに大人として接します。限られた時間内に多くの内容を効率的に教授しようとします。したがって、予習と復習、特に復習は、次の授業を理解する上で欠かせません。

 その日のことはその日のうちに、その週のことは、その週のうちに、図書館等の公的なオープンな空間で済ませてしまいましょう。公的な空間での読書、勉学によって社会性や、相互に「見る・見られる」という関係が芽生え、無言のうちに、お互いに刺激しあい、励ましあうという関係と学問的な雰囲気が醸成されます。また、例えば、日曜日の夕方から金曜日の夕方まではしっかり勉強して、週末にはそれ以外のことをして楽しむ。こういうことを習慣化し、オンとオフを明確に切り分け、メリハリの利いた学生生活を送りましょう。

 次に、「九大力」の涵養に努め、それを様々な場面において発揮して欲しい。「九大力」とは、少し洒落っ気を込めて「九州大学の力」に「九つの大きな力」をひっかけています。「九州大学の力」とは、九州大学の歴史や伝統、実績に基づいた実力のことです。みなさんには、これまでに蓄積された「九大力」を受け継ぎ、それに重要な1ページを書き込み、後輩たちに伝えてゆくことが期待されています。「九つの大きな力」とは、皆さんが、大きな節目や大きな課題に取り組む時に自分で定めるべきものです。

 本日、入学式に際して、これから九州大学で学生生活を送る皆さんに期待したい「九つの大きな力」とは、体力、学力、継続力、分析力、統合力、デザイン力、国際力、表現力、指導力の九つです。

 体力はすべての原点です。学力は、学習や読書によって身につくものです。学習には、知識の獲得と技能(スキル)の獲得があります。確かな技能がなければ、深い理解も高度な展開もできません。こうした学習には、高い志とそれを持ち続ける継続力が不可欠です。

 物事の本質を分析して見極め、様々な知識や発見を統合し、時に抽象化しデザインする力は、イノベーションにつながる重要な力です。

 国際力は、グローバル化した大学や企業、社会において、特に皆さんの世代では、最も重要な力です。そのツールとしての英語を、知識獲得ではなく技能獲得として日常生活に位置づけて反復継続して確実なものにしてください。皆さんには、こうして研鑽に励み、必要な時には自己を明確に表現し、世界を牽引する強い指導力が期待されています。

 九州大学の100年の歴史とその間に蓄積された先人たちの業績は偉大だと思います。しかし、皆さんの可能性には、それを凌駕し得るものがあります。皆さんのような挫折を知らない若者の力によってにしか解けない大きな問題・課題が数多くあります。ここで挙げた九大力を意識して、失敗を恐れず様々なことに果敢に取り組み、学生生活を真にエンジョイされることを期待して、入学に際しての告辞とします。

平成22年4月7日
九州大学総長
有 川 節 夫