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有川総長 年頭の挨拶(2011年1月1日)

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有川総長 年頭の挨拶 「九大百年」(2011年1月1日)

 新年おめでとうございます。九州大学は本年1月1日、九州帝国大学として創設されて以来100周年を迎えました。九大百年。「知の新世紀を拓く」を目標に掲げ、数年にわたって様々な準備活動を展開してきました。今年は、九大百年を祝い、この大きな目標に向けて具体的な指針を示し、行動にとりかかる年です。

 一昨年9月に政権が変わり、高等教育や科学技術研究に関する施策や手法が大きく変化しました。マスコミ等で話題を呼んだ「事業仕分け」も、昨年秋にその第3弾が行われ、再び競争的資金による教育研究プログラムが対象になりました。スタートしたばかりの国際化拠点整備事業(G30)も一旦廃止、また、国内外で評価の高いグローバルCOEプログラム(GCOE)についても1割以上の縮減という厳しい評価が下されました。

 国立大学法人の基盤を支える運営費交付金についても、法人化以降毎年繰り返されてきた対前年比1%内外の削減をはるかに超えた、壊滅的な削減が示唆される等、大学の現場は、混乱と失望、無力感と閉塞感に支配されました。平成23年度の予算についても、今年は、通常の概算要求を大幅に抑えた上で「元気な日本復活特別枠」を設けて「概算要求・要望」という形で原案が提示され、これに対してパブリックコメントが求められました。大学関連の政策・要望に関しては、全体の約45%という、予想をはるかに超えた多数の学生や教職員、一般市民が反応しました。残念ながら政策コンテストの結果は、すべて、B、Cと判定され、またしても大学関係者に大きな失望感を与えました。

 しかしながら幸いにして、昨年末に閣議決定された来年度予算案では、こうしたパブリックコメントに十分に考慮がなされ、また、内閣総理大臣の科学技術重視という指導性と文部科学省の努力によって、運営費交付金に関しては対前年比で平均約0.5%の削減にとどまり、科学研究費補助金については要求・要望額を大きく超えた予算が盛り込まれ、画期的な基金化の導入と若手(B)、基盤(C)等の採択率30%確保への道も開かれることになりました。プログラムの維持と大学院学生や外国人研究者との雇用関係の維持さえ危ぶまれていたG30やGCOEについても、組み換えと削減はあったものの、存続できることになり、安堵感をもって新年を迎えることができました。

 こうした理解や配慮の背景には、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還や北海道大学の鈴木章名誉教授とパデュー大学の根岸英一特別教授のノーベル化学賞同時受賞が考えられます。幾多の試練を乗り越えて実に7年に及び60億キロの長旅を終え、身を焼きつくしながら帰還した「はやぶさ」に、そして鈴木・根岸両博士の快挙に、日本中が感動しました。それは、多くの国民が今でもまだ、高度な科学技術とそれを成し遂げた研究者・技術者に対する敬意と憧憬の念を持ち続けていることの証でもあり、国民の意識の高さと健全さに誇らしさを感じさせられました。

 九州大学では多くのポジティブな展開がありました。水素エネルギー研究から構想した低炭素社会実現のための統合的研究プロジェクトが、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に全国でただ一つ選ばれ、「カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)」がスタートしました。話題を呼んだ最先端研究開発支援プログラムでは、「スーパー有機ELデバイスとその革新的材料への挑戦」が中四国・九州でただ一つ選ばれ、「最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)」という研究センターを立上げ、活動が始まりました。「先端融合医療レドックスナビ研究拠点」も3年目の絞り込み再審査をパスし、今後7年間にわたる本格的な研究活動が始まりました。さらに、「先端医療イノベーション」構想が採択され、医学・薬学、医療工学における基礎研究と臨床応用への橋渡し、実用化への大幅な期間短縮をめざした重要な拠点が整備されることになりました。

 大学のグローバル化へ向けた取り組みも活発でした。ネパールやカンボジア等、外国の省庁との組織対応型連携協定の締結、G30による海外共同利用事務所としてのカイロオフィスと国際コース(工学、農学)学士課程の開設、「日本エジプト科学技術連携センター」やEUセンターの開設等が相次ぎました。高等研究院では、ノーベル化学賞受賞者のバリー・シャープレス博士とノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士を栄誉教授として迎え、講演を始めとする各種の事業を進めることができました。

 伊都新キャンパスの整備については、平成23年度までを予定していた第二期は平成21年度に前倒しで完了し、最大の課題である用地の再取得も残り10%を切り、平成24年度までの再取得完了への見通しが得られました。事務組織の整備も進み、本学最大のキャンパスとして教育研究活動が格段に活性化し、すべての新入生が最初に学ぶキャンパスとしても定着してきました。

 昨年4月に始まった第二期中期目標・中期計画期間においては、運営費交付金に対する効率化係数と経営改善係数は撤廃されたものの、1.8%の「臨時的削減」を伴う厳しいスタートでした。それでも、本学は、多くの構成員の努力と挑戦、創意工夫により、なんとか上記のように世界的な研究活動を推進し、それに基づいた高度な教育研究と診療活動を展開し、社会の期待に応えることができたものと思います。特に、長引く不況により就学が困難な学生の救済と博士課程の充実のために、独自の支援も始めました。

 これらの他にも数多くの事業や改革を進めることができました。今年は、こうした実績に基づいて、第二期中期目標・中期計画期間の2年目として、その目標・計画を年次計画に沿って着実に実施する年になります。まず、数理学研究院を改組し、本学にとって第5番目の研究所「マス・フォア・インダストリ研究所」を創設し、産業界と連携した産業数理に関する国際的な共同利用・共同研究拠点を目指します。また、統合新領域学府に3番目の専攻として、「ライブラリーサイエンス専攻」を設置し、大学図書館や記録文書館、情報関連企業等で活躍する高度な専門性をもった図書館職員やアーキビスト、大規模なコンテンツを扱う情報技術者・研究者等の組織的な育成が始まります。

 九州新幹線の開通に合わせてオープンする新博多駅ビル「JR博多シティ」にサテライトオフィスを開設し、そこに社会人学生を主体とする「ビジネススクール」が入居します。このオフィスには、最も交通アクセスのいい「駅中オフィス」として、各種の産官学・社会連携活動の拠点としての機能も期待されています。社会科学関係ではさらに、本学の卒業生の寄付金を基にした、「ロバートファン/アントレプレナーシップセンター」を開設し、起業家養成に取り組みます。人文科学系では、「キャンパスアジア」構想の一環として「日韓海峡圏カレッジ」の開校が、さらに、教育に関しては、全学教育から大学院における専門教育を効果的、効率的に行うための「教材開発支援センター(仮称)」の設置が予定されています。

 次年度(平成23年度)からスタートする「リーディング大学院」プログラムにも世界的研究・教育の拠点大学として挑戦します。また、G30プログラムを使って構想を進めている「国際教養学部」についても、その前段階としての「国際教養学府・研究院」の具体的な検討に着手します。日本中で問題になっている若手研究者の充実、テニュアトラック制度の導入、女性研究者、外国人研究者の確保、学生や若手研究者の海外派遣促進等については、本学独自の制度を設計して取り組みを強化します。特に、学部学生の海外留学・派遣については、言語文化研究院や海外オフィスの協力・支援を得て、飛躍的に強化したいと考えています。

 教員系、事務系に並ぶ新しい職種として「リサーチアドミニストレーター(RA)」を、例えば機構として組織化し、構成員の学内外におけるキャリアパスも用意して、先導的な研究者を強力に支援し、大型研究プロジェクトの活性化を図ります。

 こうした改革や事業の展開には、運営費交付金や各種の競争的資金等の安定的確保が必要です。現政府が政権獲得前に掲げたマニフェストや最近の科学技術重視の表明、人材育成強化等の基本方針を信じて、たとえ多少の政策や財政状況の変動があっても続けられる永続性のある強靭な改革のスキームを確立しておくことが何より重要だと考えます。そのスキームによって確保される資源を大学及び各部局がそれぞれの将来計画の実現のために競争的に活用することによって、世界的な研究・教育拠点を実現し、常に社会や学界の要請に的確かつ迅速に応える形で改革し続けることが可能になります。このような競争的な改革の手法は、基礎科学や人文社会科学の分野においても重要な意味を持ちます。常に緊張感をもって研究を展開し、その意義と成果を学内外の関係者だけでなく一般市民にも説明して理解を得ておくことが、研究組織を維持するためにも必要とされるからであります。

 最近、様々な場面で全学教育や教養教育の重要性と同時に問題点が叫ばれています。問題点の多くは、ほとんどすべての大学が大学設置基準の大綱化の後、教養部という組織を廃止してしまい、小規模なセンターや委員会等でもって、全学教育や教養教育に対応していることに起因するといっていいでしょう。九州大学では、全学教育を大学における最も重要な事業として位置付け、しっかりとした組織を再構築し、そこに高度な研究実績があり、教育に強い意欲のある優秀な教員を多数配置して、その上で全学の教員が競って参加する全学出動態勢を構築したいと考えています。国際教養学部や大学院の共通教育、リーディング大学院も深く関係することになります。

 このように新しい改革のスキームを確立し、全学教育や教養教育のための組織を整備し、「知の新世紀を拓く」ための基盤を築くことが、九大百年の今年に行うべき最大の課題だと思います。

 新興国の急速な台頭による経済や教育、科学研究等に関する相対的な地位の低下、円高による国際競争力の低下、若者の内向き志向、少子化と高齢化社会、雇用状況の悪化等、閉塞感が充満しています。しかし、ただ批判し嘆いていても始まりません。大胆な発想で社会全体を活性化する挑戦をまず自分たち大学からはじめ、こうした逆境を順境に変えていきましょう。

 今年が、九州大学に学び働く全ての学生・教職員にとって、九大百年に相応しい素晴らしい年になるとともに、世界中の人々にとって、実りある年になることを祈念して新年の挨拶とします。

平成23年1月1日
九州大学総長 有川 節夫