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平成23年度 秋季学位記授与式(2011年9月26日)

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平成23年度 九州大学秋季学位記授与式告辞(2011年9月26日)

 本日、ここに平成23年度秋季学位記授与式を挙行するにあたり、学士37名、修士93名(内、専門職学位課程3名)、博士150名(内、論文博士21名)、合計280名の皆様、この中の半数近くの133名は遠く故国を離れて九州大学で学んだ外国人留学生ですが、これら全ての皆さんに、これまでのたゆまぬ研鑽努力に対し深い敬意を表し、心からお祝い申し上げます。また、皆さんのこれまでの学習・研究を支えて下さったご家族に対しても、心からのお祝いと御礼を申し上げます。

 最近、日本における秋入学が話題になっていますが、九州大学では、既に、昨年からグローバル30という教育の国際化プログラムにより設置した国際コースにおいて、秋入学を実施しています。秋の学位記授与式については、博士の学位記授与式は年に数回挙行してきましたが、学士、修士、専門職大学院、博士の学位記授与式を同時に秋期に挙行するのは、はじめてのことであります。九州大学では、今後、こうした秋の入学式及び卒業式、即ち、学位記授与式を恒例の行事として定着させようと考えています。

 皆さんが在学していた2年から6年の間、また、論文博士の皆さんが学位論文と取り組んでこられたこの数年間は、実に多難な時期でありました。

 国外では、2005年に世界各地で大規模テロが繰り返されました。2007年には、サブプライムローン問題が顕在化し、それは2008年に米国発の金融危機となって100年に一度ともいわれる世界的金融危機を誘発し、2010年には、チリ鉱山落盤事故が起き、世界中が心配しました。また、中東・北アフリカにおいては、長期独裁政権に対する反政府デモが拡大し、今もなお不安な情勢が続いています。EU諸国の財政状況も予断を許さない状況にあります。

 日本国内においては、2009年に歴史的な政権交代が行われたものの、この5年間で6人の総理大臣が誕生するという異常な事態が繰り返され、衆議院と参議院の間のいわゆるねじれ状態も続き、安定を欠いた国政の状況が続いています。EUの数カ国やアメリカの財政状況の悪化、通貨の信頼性の低下に起因するとみられる極端な円高に伴う深刻な問題もあります。

 もちろん、最近の日本の女子サッカーチーム「なでしこジャパン」のワールドカップでの優勝や、昨年の「はやぶさ」の宇宙からの帰還、鈴木・根岸両先生のノーベル化学賞同時受賞、今年2月の、本学の卒業生である若田光一宇宙飛行士の活躍など、夢と希望をもたらす喜ばしいニュースもありました。

 しかし、最も大きな出来事は、3月11日に起こった東日本大震災であります。観測史上最大という巨大地震とそれに伴う津波によって2万人近くの犠牲者と行方不明者を出し、未だ数万人が避難を余儀なくされている悲惨な災害であります。また、直接的な犠牲者はありませんが、この地震と津波が引き起こした福島の原子力発電所の重大な事故は、様々な深刻な課題を惹起したまま、懸命の努力は続けられていますが、未だ収束とは程遠い状況にあります。被災された多くの犠牲者と被災者の皆様に対して、改めて衷心からのお悔やみとお見舞いを申し上げずにはいられません。

 政治や行政、各種団体や個人、医療や科学技術、人文社会科学等、全てが総力を傾けて一刻も早く事故を終焉させ、復旧・復興を果たさなければなりません。九州大学も「可能な限りの支援を迅速に行います。」というメッセージを直ちに発出して、被災地等からの要望に応じて様々な支援活動を展開しています。

 この事故から、皆さん一人一人がそうでしょうが、基幹的総合大学としての九州大学の全ての構成員が実に多くのことを学びつつあります。

 私達は、国際的な関係の中での長期的総合的なエネルギー政策の在り方をはじめ、文化や倫理のシステム、社会システム、科学技術システムの在り方、相互の関係等について、皮相的ではなく、また、感情的・感覚的に流されることなく真剣に理性をもって根源的に考察し、原因を究明し、将来に対する方向を示す責任があると思います。本日学位を授与された皆さんにも、本学で学び、培い、極めてきた学識や経験を生かして、こうした課題に果敢に挑戦されることを期待します。

 九州大学については、他の国立大学同様2004年に法人化し、「国立大学法人九州大学」となり、現在第二期中期目標期間の2年目を迎えました。運営費交付金が毎年削減される中にあって、九州大学は、教職員のたゆまぬ努力と法人としての裁量も生かしながら、多くのシステム改革を行っています。

 最大の課題はキャンパスの整備です。病院の再開発については10年がかりの事業でしたが、一昨年9月に完了し、我が国最大級の最新機能を備えた大学病院が完成しました。また、1991年から取り組んでいる伊都新キャンパスへの統合移転については、既に、学生教職員合わせて約1万2千人の本学最大のキャンパスとなりました。幾多の難問に直面しながら、いよいよ、残り約半分の建物を整備する第3期に入ります。一刻も早くこの統合移転事業が完了するように、最大限の努力を続けているところであります。

 組織面やシステム面では、統合新領域学府や高等研究院、新しい研究所、専攻、センター等が次々にオープンし、教育・研究・診療が一層充実したものとなってきました。

 今年、2011年は、九州大学が1911年に日本で4番目の帝国大学として創設以来、百周年を迎えた記念すべき年であります。九大百年の祝賀行事は、東日本大震災に鑑みて来年の5月に延期しましたが、全国の数多くの企業団体や個人、本学の関係者、幾人かの篤志家から多額のご寄付をいただきました。

 これをもとにして、直ちに、研究施設等の充実に取り組み、また、これから、九大基金を創設し、学生や若手の教職員の活動を支援する各種事業を中心にした記念事業を展開することにしています。

 また、この九大百年の年に、これからの百年を考えて、九州大学の絶えざる発展と改革を推進する画期的な改革のスキームを全学の深い理解のもとにスタートさせ、この10月には、新入生の基幹教育を充実させるために基幹教育院という新しい組織を立ち上げることになっています。

 このように皆さんは、世界的に見ても、国内をみても、また、九州大学にとっても極めて多難で重要な時期に在学し、研鑽を積んできたわけです。

 日本では、明治以来の教育政策、産業政策によって、近代化を成し遂げ、先進国の仲間入りを果たし、戦後の卓越した政策や国民の勤勉さ、創意工夫によって、高度な科学技術力を身につけ、世界有数の経済大国に発展しました。日本におけるこの経験と実績は、多くの国にいろいろな形で影響を与えてきたと思います。

 最近では、中国や韓国、台湾をはじめとするアジアの多くの国や地域が驚異的な勢いで発展し、グローバル社会において圧倒的な存在感を示してきています。日本を含めたアジア諸国が同じ土俵に立ち、世界の繁栄と平和、人類の幸福を目指して連携・協力し合うことができる時代になり、また、そのことが強く求められる時代になってきたことを実感します。

 当然、次々に大きな課題を突き付けられ、時折、未曾有といわれるような困難に直面することもあることと思います。そのような時には、皆さんが九州大学で培ってきた貴重な経験や知見を総動員して、また、日本が、これまでに経験し、今また取り組んでいる難問への対応と解決の仕方を、ポジティブ、ネガティブ双方の例として活かして、果敢に解決に向けて挑戦していただきたい。

 これから大学院に進学する学士や修士の皆さんには、自分で定めた目標に向かって、一層の研鑽に努め、しっかりした研究の成果を出し、国際社会で存在感を示すべく努力をして欲しい。

 これは、学士、修士、博士の皆さんに共通することですが、物事を深く極めようとすると視野が狭くなりがちです。「深く掘った分だけ、高みに登り、周囲を俯瞰する」ように心がけて欲しい。

 皆さんが本日手にした学位の基準のもとになっている、例えば、大学院設置基準やそれに基づいて制定された九州大学規則において、博士については、「高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を有する」とし、修士については、「広い視野に立った精深な学識を身につけ、…」という風に記述されています。

 こうした広い修養の必要性は、既に、丁度百年前の九州大学の創設時に初代総長の山川健次郎先生が本学における最初の訓示の中で述べておられます。先生の慧眼に感服している次第ですが、その言葉を、繰り返して、本日の告辞の結びとします。

 『修養が広くなければ完全な士と云う可からず。』

平成23年9月26日
九州大学総長
有川節夫