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平成23年度 学士学位記授与式(2012年3月27日)

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平成23年度 九州大学学士学位記授与式告辞(2012年3月27日)

 平成23年度九州大学学士学位記授与式にあたり、めでたく卒業される2,549名の学部卒業生の皆さんに、心からお祝いを申し上げます。これまで皆さんを物心両面から支え、励ましていただいたご家族の皆様、卒業生たちの指導にあたってこられた先生方や学習教育活動を様々な形で支えてこられた事務系・技術系職員の皆様に、心からお礼を申し上げます。

 昨年は、3月11日に東日本大震災という未曾有の災害が発生した大変な年でした。大地震と巨大な津波によって、行方不明者を含めて20,000人近い犠牲者を出し、さらに原子力発電所の事故も誘発し、多くの人々が未だに避難や仮設住宅、転居などで不自由な生活を余儀なくされています。この大震災と事故から私たちは、科学技術、特に、社会のための科学技術、加工されていない生の情報の迅速な公開、緊急時・非常時における統治機能を含めた社会システムの整備等の重要さについて多くの教訓を得、同時に、日本人の文化の力と倫理観の強さなど実に多くのことを学びましたが、被災地の一刻も早い復旧と日本全体の復興を願わずにはいられません。

 卒業生の皆さんの多くは、2006年4月あるいは2008年4月に入学し、それぞれ4年間あるいは6年間、九州大学で教育を受け、勉学に励み、また、同級生や先輩後輩との付き合い、社会との関わりを通じて成長し、大きな達成感をもって本日の卒業式を迎えられたことと思います。

 この4年から6年の間に世界で、日本で、そして本学で実に様々なことが起こりました。

 世界では、2007年のサブプライムローン問題、それがもとになって2008年には、100年に一度ともいわれる世界的金融危機に陥り、2009年には、新型インフルエンザが世界的に流行しました。2010年暮れに始まったアラブ諸国での反政府デモや暴動、政変など世界的な政情不安が続きました。また、世界各地で洪水や寒波、地震などの自然災害も頻発しました。

 日本では、2006年以来内閣は、歴史的な政権交代後も短期交代を繰り返し、衆議院と参議院の間でねじれ状態、厳しい財政状況が続く中で、昨年、東日本大震災に遭遇しました。我が国は大きな困難に直面しており、科学技術や高等教育にも大きな影響が生じています。

 そうした中で、一昨年の「はやぶさ」の宇宙からの帰還や鈴木先生、根岸先生のノーベル化学賞同時受賞、昨年、開発中のスーパーコンピュータ「京」が2回連続世界一位を獲得したことなどは、過去及び現在における我が国の基礎科学政策の正しさを再認識させ、今後の方向性を示唆する明るいニュースでありました。

 九州大学では、伊都新キャンパスへの移転が進行しています。既に、学生教職員合わせて約12,000人の本学にとって最大のキャンパスとなりました。震災等の影響により理学系の移転が予定より少し遅れることとなりましたが、2019年度の移転完了に向けて努力を続けていきます。

 一方で、2009年には、皆さんが九大に入って最初に通った六本松キャンパスと田島寮は、本学の手を離れました。また、この年の9月には病院の再開発も完了し、我が国最大級の最新機能を備えた大学病院が完成しました。

 2010年には、世界トップレベル研究拠点プログラムという文部科学省の事業に全国で唯一採択され、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所がスタートし、大学の国際化に拍車がかかりました。

 昨年は、新博多駅ビルにビジネススクールが進出し、市民にとってより身近な存在となりました。本学5番目の研究所、アジア初のマス・フォア・インダストリ研究所がスタートしました。また、図書館や文書館などについて本格的に学び研究するライブラリーサイエンス専攻も設置され、教育研究体制が一層充実したものになりました。

 そして、九州大学は、昨年、2011年、創立百周年を迎えました。この九大百年に際して、これからの九州大学の飛躍の礎を築くために、「大学改革活性化制度」と「基幹教育院」の設置という高度な難事業を企画し、これを全学の協力と理解を得て成功させました。

 また、頂きました寄附金をもとにした「九州大学基金」を創設し、学生や若手研究者、職員の支援、教育・研究・診療などの環境整備や卒業生、同窓会との連携活動の支援等を行うことになりました。さらに、椎木正和様から大学講堂の建設費を寄附していただき、2014年に竣工することになりました。再来年から学位記授与式や入学式等の全学の大きなイベントはこの講堂で行うことになります。

 もう少し長い期間で見てみると、日本は、明治以来の教育政策、産業政策によって、驚異的な速さで近代化を成し遂げ、先進国の仲間入りを果たしました。戦後の卓越した政策や国民の勤勉さ、創意工夫によって、圧倒的な科学技術力を身につけ、世界有数の経済大国に発展し、繁栄を享受してきました。そして、平成3年(1991年)のいわゆるバブル崩壊以降、日本の経済は低迷し、一方で、アジア諸国を始めとする途上国の急速な台頭により、世界における日本の地位は相対的かつ絶対的に低下し、「失われた20年」ともいわれる状況になっていることが分かります。加えて、更に進行する少子高齢化社会の問題、そして東日本大震災からの復旧・復興という困難な課題に直面しています。

 皆さんは、このような明るい未来を予感することが困難な閉塞感に満ちた社会情勢のもとで、九州大学を卒業し、やがて社会や学界を牽引することが求められています。まさに試練の時代です。しかし、皆さんの若さと皆さんの英知や創意工夫、勤勉さ、誠実さ、高い倫理観でもって、これまで、公害問題やオイルショック、環境問題等をことごとく解決してきたように、必ずや復活させ、この難局もまた克服できるものと信じます。社会も、皆さんのそうした将来に向かっての挑戦を鼓舞し、勇気づけるように大変革する必要があります。大学もまた社会と連携し、そのための最大限の努力をしなければなりません。現在は、明治維新、戦後の復興に次ぐ第三の大きな変革が必要な時期であるとさえ思われます。

 そうした挑戦のために、また、変革に立ち向かうために、皆さんに意識しておいてほしいことがあります。まず、皆さんの能力は皆さんが思っているよりはるかに高いということです。これは、私が教授時代に担当した学生たちから学んだことで、入学式のたびに新入生には話してきたことです。ただ、多くの人はそのことに気付いていない。ぜひ、自分の能力の高さに気付いてほしい。

 皆さんは、講義や演習、課外活動などを通じて、多くの知識や技能を獲得してきました。しかし、より重要なことは、これが意識していてほしいことの二つ目ですが、そうした個々の知識や技能の「獲得の仕方」、すなわち「学習の仕方」を学んできたということです。獲得した知識そのものの半減期あるいは有効期限はどんどん短くなっているといわれています。今日、列挙したような国内外で発生した多くの問題は、これまでに獲得した知識だけでは解決できません。個々の新しい問題に正面から向き合って、そこから学び、解決の手法を考案しなければなりません。

 三つ目は、そうした学習には終わりはないということです。生涯学び続けなければなりません。現在得ている知識は、それまでに提示されたそうしたデータや情報から獲得したものであり、新たなデータや情報によって度々変更を余儀なくされます。そういうふうに心得ておいていただきたいと思います。

 この数年間、九大百年の事業を進める中で、私は「九大力」という言葉を強く意識するようになりました。皆さんには、「九大力」、すなわち、百年の伝統に基づく「九州大学の力」を継承・発展させていただきたい。この「九大力」には、「九つの大きな力」という意味もあります。これは皆さんが、卒業式や入社式、あるいは大学院の入学式など人生の節目に自分自身で目標として選び定めるべきものだと思いますが、本日は、次の九つの力を挙げておきます。「観察力」、「分析力」、「統合力」、「俯瞰力」、「表現力」、「指導力」、「交渉力」、「国際力」、「連携力」の九つです。

 このような「九大力」を常に意識し、困難、混迷を極めるわが国を変革し、グローバル社会を牽引し、リーダーとしての存在感を発揮できるように成長されることを期待して告辞とします。

平成24年3月27日
九州大学総長
有川節夫