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平成24年度 入学式告辞(2012年4月4日)

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平成24年度 九州大学入学式告辞(2012年4月4日)

 本日、九州大学は2,679人の新入生を迎えました。厳しい受験競争を勝ち抜いて入学した皆さんと、皆さんをこれまで物心両面から支援してこられたご家族や関係者の方々に心からお祝いを申し上げます。また、本日は皆さんの大先輩である、富士通株式会社代表取締役社長の山本正己(やまもと まさみ)様にご来賓としてお越しいただき、皆さんにご祝辞をいただくことになっています。山本様に九州大学を代表して厚くお礼申し上げます。

 昨年は、3月11日に東日本大震災という未曾有の災害が発生した大変な年でした。大地震と巨大な津波によって、行方不明者を含めて20,000人近い犠牲者を出し、さらに原子力発電所の事故も誘発し、多くの人々が未だに避難や仮設住宅、転居などで不自由な生活を余儀なくされています。被災地の一刻も早い復旧と日本全体の復興を願わずにはいられません。この大震災と事故から私たちは既に、科学技術、特に、社会のための科学技術、加工されない生のデータ・情報の迅速な公開、緊急時・非常時における統治機能を含めた社会システムの整備等の重要さについて多くの教訓を得、同時に、日本人の文化の力と倫理観の強さなどを学びましたが、皆さんも一人ひとりが、この災害を含め、日本や世界が直面している多くの課題に対して、特に、それぞれの分野の専門家を目指す若者として、何ができるか、何をすべきかも常に意識して、解を模索しながら大学生活を送っていただきたいと思います。

 九州大学は、昨年創立百周年を迎えました。5月には、延期していました記念行事等を行います。今年は、これからの新たな100年へ向けた第一歩となる年です。皆さんは、その重要な年に入学されました。九州大学は、1903年(明治36年)に京都帝国大学の1分科として設置された福岡医科大学と1911年(明治44年)1月に開設された九州帝国大学工科大学とが同年4月に一緒になり、医科大学と工科大学からなる九州帝国大学としてスタートしました。この1911年から起算して、昨年が100年目ということであります。

 創立以降、現在に至るまでの間に、様々な学部が次々に設置され、九州大学への改称、九州芸術工科大学との統合、21世紀プログラムの開設及び全ての授業を英語で行う国際コースの開講などが行われました。九州大学は、こうした11の学部とプログラムやコース、18の大学院学府、4つの専門職大学院、17の研究院、基幹教育院、5つの附置研究所及び大学病院を擁する我が国屈指の基幹総合大学として発展し、現在も、数々のシステム改革を行いながら絶えず成長を続けています。

 基幹教育院は、昨年10月に開設し、現在拡充を進め、教育の内容や具体的な方法等を整備している最中ですが、教養教育に新しい視点で責任を持って取り組む九州大学にとって最も重要な全学的な組織です。基幹教育とは、専門教育を学ぶ前に、学生に様々な選択肢と出会う学びの機会を創り、一人ひとりが自分の判断で、自分が依拠しようとする枠組みを選択できるように、幅広い知識や視野を身につけると同時に、生涯にわたって自律的に学び続けるアクティブ・ラーナーとしての「学び方を学び」、「考え方を学ぶ」ための姿勢と態度(基幹)を身につけるための教育です。この基幹教育院を中核にした教養教育(全学教育)の完全な実施は平成26年度からですが、皆さんへの全学教育の多くがこの理念に沿って行われることになります。

 また、九州大学は、伊都キャンパスへの移転という大事業を展開しています。平成21年から、本学に入学する全ての新入生はこの伊都キャンパスで大学生活を始めています。これから箱崎にある全ての学部や大学院が順次移転することになります。キャンパスが整備中であるため、多少不自由な面があるかもしれませんが、整備の状況を間近で見ることのできる極めて特別な期間でもあります。伊都キャンパスは、もとより環境や生態系、埋蔵文化財等に最大限に配慮したキャンパスとして計画されましたが、エネルギー、材料、ICT等、最先端の科学技術を先導する多くの研究が展開され、キャンパスが丸ごとそうした次世代技術や次世代社会システムの実証実験の場となっています。例えば、皆さんがこれから手にする学生証は、九州大学で開発した特別なもので、セキュリティに十分配慮され、機能が進化していく特別なICカードです。伊都キャンパスでは大小の風レンズ風車を見かけると思います。これらは、応用力学研究所による発明で、再生可能エネルギーへの新しい挑戦を象徴しています。水素という究極のクリーンエネルギーの研究は世界最大の拠点を形成しています。有機ELデバイスの研究も世界を先導しています。建物の整備では、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所や基幹教育院の工事が進んでいます。また、椎木正和様から建設費を寄附していただくこととなった大学講堂も着工し、2014年に完成する予定です。再来年から入学式や学位記授与式等の全学の大きなイベントはこの講堂で行うことになります。

 皆さんは、伊都キャンパスでの全学教育の期間が終わると伊都や箱崎、病院地区、大橋地区に分散して学部専攻教育を受けることになります。この伊都での全学教育の期間に授業や図書館での学習、課外活動等を通して、専攻分野の違ういろいろな学生と交流を深め、沢山の生涯の友達という財産を作ってください。

 最近、「秋入学」問題が各方面から注目され、企業や政界からも理解と関心が示されています。実は、九州大学では、既に、工学部と農学部にある国際コースについては、一昨年から秋入学を実施し、秋卒業式(秋季学位記授与式)も昨年度から実施しています。今年度からは、国際コースだけでなく、留学生を中心にした大学院、J T Wという短期プログラムなども一緒にした、かなり大掛かりな秋入学式を始めることにしていたところでした。今、秋入学が大きく話題になっているのは、東京大学が秋入学に全面的に移行しようと提案しているからです。実施に向けては、様々な課題も指摘されていますが、日本社会とその牽引力としての基幹大学の国際化を推進するために、大学と社会が連携して改革を進める格好の契機になると考えています。これによって、日本の社会が変わり、入学や卒業、入社、国家試験等の時期が多様化すれば、皆さんが、海外留学を始めとして様々な活動に躊躇なく積極的に取り組めるようになり、若者を元気付け、日本に大きな活力をもたらすと期待できます。

 また、つい先日、3月26日に中央教育審議会の大学教育部会から「審議のまとめ」が出されましたが、そのタイトルは、「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」となっています。これは、昨年設置した本学の「基幹教育院」の考えとも軌を一にするものでありますが、特に、総学修時間の確保、すなわち、大学での授業だけでなく、そのための事前の準備や事後の展開等、主体的な学修(学び)に取り組む時間を確保する必要性があると指摘しています。学修時間の確保の問題は、教育の質保証や国際化の観点からも重要だと思います。授業の合間や終了後に図書館や情報学習室等を活用することをお勧めします。

 さて、私は入学式に際して、新入生の皆さんにいくつかのことを必ず話すことにしています。まず、「皆さんの能力は、今自分で感じているより遥かに高い」ということです。これは、私の40年に及ぶ教育、指導の経験に基づくものです。授業やそのための事前の準備、事後の展開、演習、部活等に主体的にアクティブに取り組んで、そのことに気付いていただきたいと思います。

 次に、皆さんは、今学部に入学したばかりですが、学部を卒業後、大学院に進学する学生が、特に、理工系では増加しています。また、国際的には、理工系はもとより人文社会系の分野でも、重要な地位で仕事をする人の非常に多くが博士の学位を持っています。したがって、これから、大学で学修し、学部を卒業して、修士課程に進み、さらに博士課程に進学するという選択肢も十分に意識しておく必要があります。

 最後は「九大力」です。これは、九大百年の事業を推進する中で、意識し始めたことですが、これまでも、入学式や卒業式で話してきました。これからの九州大学での活動を通じて九大力を磨き、また、様々な場面で九大力を発揮していただきたい。「九大力」には、「九州大学の力」という意味と「九つの大きな力」という二つの意味を持たせています。前者は、100年の歴史を持つ九州大学の伝統や実績に基づいた実力のことです。皆さんには、これまでに蓄積された「九大力」を受け継ぎ、それに重要な1ページを書き込み、後輩たちに伝えてゆくことが期待されています。

 後者、「九つの大きな力」は、今日の入学式のような特別な日に、今後の目標として皆さんが自分で定めて欲しいと思います。本日、私からは、最近の情勢や大学生への期待、要請を反映させて、基礎力、継続力、学修力、観察力、統合力、表現力、連携力、国際力、指導力の九大力を挙げておきます。基礎力には体力や学力、気力なども含めています。また、学修力とは「学び修める力」のことです。

 九大百年に際して、九州大学の力としての九大力の偉大さを歴史上の事実からも感じさせられます。しかし、繰り返しますが、皆さんの能力は極めて高く、可能性は図り知れません。先ずそのことに気付き、実感していただきたい。それと同時に、大学入学を目標にして発揮してきた能力に慢心することは慎んでいただきたい。学問の奥深さと同級生・仲間に畏敬の念を抱いて九大力を磨き、山積する国内外の課題を解決し、明るい未来を先導するグローバル社会でのリーダーとして大成するための基盤づくりに邁進されることを期待し、告辞とします。

平成24年4月4日
九州大学総長
有 川 節 夫