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創立百周年記念式典総長式辞(2012年5月12日)

歴代総長メッセージ(有川節夫元総長)一覧

九州大学創立百周年記念式典 総長式辞(2012年5月12日)

 本日ここに、平野博文文部科学大臣をはじめ多くのご来賓並びに関係の皆様のご臨席を賜り、九州大学創立百周年記念式典を執り行うことができますことは、本学にとりまして誠に光栄なことであり、ご多用のところご臨席賜りました皆様に、九州大学を代表いたしまして心より御礼申し上げます。

 本日は、ご祝辞を賜ります平野文部科学大臣、国立大学協会会長の濱田東京大学総長、小川福岡県知事、百周年記念事業推進会会長を務めていただきました松尾九州経済連合会会長、岡部九州大学東京同窓会会長、本学の創設時に深い関わりのございました京都大学の松本総長、本学と統合した九州芸術工科大学の最後の学長の瀧山様、並びに本学に多大なるご支援を賜りました渡邉様、古河様、麻生様、そして、本学の発展に尽力されました歴代総長の方々にご登壇いただいております。

 また、会場には、福岡県ゆかりの多くの国会議員の方々や官公庁関係の方々、多くの大学の学長先生方、各国領事館等の方々、常日頃から多大なご支援・ご協力をいただいております企業や団体の方々、及び本学の関係者等、実に多数の皆様にご出席いただいております。あらためまして厚く御礼申し上げます。

 九州大学は、昨年2011年に創立百周年を迎えましたが、百周年記念式典等の諸行事は、3月11日に発生した東日本大震災による甚大な被害に鑑み、1年間延期させていただき、本日、記念式典を挙行する運びとなった次第であります。九州大学は、震災発生直後から震災支援対策室を設置し、可能な限りの様々な支援を行ってまいりましたが、被災地の一刻も早い復旧と日本全体の復興を心から願っております。

 九州大学にとって、今年は、これまでの百年を礎に、これからの新たな百年へ向けた大きな第一歩を踏み出した年であります。

 九州大学の前身は、1879年(明治12年)の福岡医学校にあります。1900年に我が国の義務教育就学率は80%を超え、初等教育の発展は中等・高等教育の必要性を増加させました。やがて九州での帝国大学設置の可能性が浮上し、各県による激しい大学誘致運動が展開されました。

 そして、明治36年に、本日は松本京都大学総長にご出席いただいておりますが、ここ福岡の地に京都帝国大学福岡医科大学が設置されました。この設置に際し、資金のご支援をいただきましたのが福岡市の呉服商「紙与」のご長男、渡邊與八郎氏でございました。本日は壇上にご子孫の渡邊與三郎様にお越しいただいております。渡邊様にはその後の工科大学の設置の際にも、住吉の保有地を活用し、大学創設を成功に導いていただきました。

 工科大学の創立時は財政難でございましたが、現古河電気工業の古河虎之助氏より建物建設のご支援を受け、明治44年(1911年)に工科大学が新設され、これと京都帝国大学福岡医科大学が統合し、我が国第四番目の帝国大学、九州帝国大学が創設されました。この1911年から数えまして、昨年が百周年ということでございます。また、大正12年には工学部本館が焼失いたしましたが、再度古河様のご寄附により再建いただいています。本日は古河家のご子孫の古河潤之助様にお越しいただいております。

 その後、大正8年に農学部が、大正13年に法文学部が創設されました。昭和14年には麻生商店 2代目社長の麻生太賀吉氏より寄附金のご支援を賜り、理学部が創設されました。本日は麻生家から麻生誠様にご出席いただいています。

 渡邊家、古河家、麻生家などからの多大な資金のご支援や、福岡日日新聞(現西日本新聞)のご協力、また地元の福岡県、福岡市、糟屋郡、箱崎町などからの土地のご寄附などが九州大学の創設、学部創設時に果たしてきた役割は極めて大きなものでございます。創設来、ご支援いただきました方々にあらためて深く感謝申し上げます。

 その後、昭和22年に九州帝国大学は九州大学と改称され、次いで24年には法文学部が法学部、文学部、経済学部に分立、同年5月には新制の九州大学が誕生し、教育学部と三つの分校ができました。六本松の分校は昭和38年に正式に教養部となります。昭和39年には薬学部、42年には歯学部が創設され、昭和57年には、4番目のキャンパスとして筑紫地区が開設されました。

 平成に入ると九州大学は大きな改革の時期を迎え、平成6年には教養部が廃止、大学院重点化が進められ、12年には学府・研究院制度が始まります。15年には九州芸術工科大学と統合しました。そして、平成16年に国立大学法人九州大学となり、17年には、さらなる改革の理念を実現し、新たな教育・研究の中核的拠点を実現するために、伊都キャンパスへの移転を開始しました。この広大な伊都キャンパスは、遺跡を大切にし、生物多様性の保全等に配慮した歴史と自然環境と共生したキャンパスであるとともに、様々な最先端科学技術の実証実験を行うキャンパスとして整備・発展を続けています。

 九州大学は、初代総長の山川健次郎先生をはじめとする諸先輩のご努力と卓越した見識、成果の蓄積が、九州大学の力となり、現在では11学部、18学府、17研究院、5研究所と病院、附属図書館、数多くの教育・研究施設等を有し、学生・大学院生約19,000名、教職員7,600名を擁する「我が国を代表する基幹的総合大学」として、最高水準の教育、研究、診療活動を行い、優れた人材を数多く輩出しています。

 これまでの長きにわたり、ご指導とご支援をいただいてまいりました平野大臣をはじめとします文部科学省の皆様、多くの関係の皆様に、あらためて深く感謝申し上げます。

 この百年の間、大学を取り巻く国内外の環境は大きく変化しましたが、九州大学はその時代時代の地域社会、国際社会、学界の要請に応えながら、自らの理念や方向性を明確にし、様々な改革に取り組んできました。

 特に近年は、国立大学の法人化に先立ち、平成7年に「九州大学の改革の大綱案」、平成12年に「九州大学教育憲章」、平成14年に「九州大学学術憲章」を制定し、大学の在り方を示すとともに、教育組織と研究組織を分離させた「学府・研究院制度」を発足させ、柔軟な組織連携と迅速な改革への対応を可能としています。

 このような改革の理念や方向性、制度により、平成16年の法人化後も「統合新領域学府」や「高等研究院」、「カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所」、「マス・フォア・インダストリ研究所」等の新たな教育組織や研究組織の新設改編を意欲的に継続し、先進的な事業を展開しています。

 さらに、百周年を迎えました昨年は、新たな百年のための礎として、新しい視点で全学教育に責任を持って取り組む「基幹教育院」を創設し、また、社会や学界の要請に迅速に応えるべく、自律的に改革を継続するための「永続性のある強靱な改革のスキーム」として「大学改革活性化制度」を導入しました。

 また、平成17年から「知の新世紀を拓く」をスローガンとして取り組んでまいりました創立百周年記念事業といたしましては、経済界をはじめ地元自治体、関係団体の皆様にご協力頂き、百周年記念事業推進会を組織し、記念事業の推進にご尽力をいただきました。お陰様をもちまして、建物として、公益財団法人稲盛財団様から平成21年8月竣工の稲盛財団記念館、椎木正和様から26年2月に完成予定の椎木講堂を寄附いただき、さらに、卒業生をはじめ、企業、団体、保護者、名誉教授、退職者及び教職員、学生の皆様から多くのご寄附をいただき、建物も合わせまして、総勢1万名以上、総額98億円以上という多額のご支援を賜りました。多大なるご尽力をいただきました百周年記念事業推進会の皆様並びにご支援を賜りました皆様に対し、厚く御礼申し上げます。

 九州大学では皆様からいただきましたご寄附を基に「九州大学基金」を創設し、学生、若手教職員への様々な支援を行い、人類の未来を切り拓くリーダーを育成し、社会に輩出し続けます。また、産業界、地域、卒業生、同窓会との連携も視野に入れて、この基金を活用させていただくこととしています。

 今般の東日本大震災により、大学人として多くのことを考えさせられました。自然の測り知れない力、科学技術の意外な脆弱さ、危機や大災害に対する社会システムの不完全さなど、多くの課題を突き付けられました。一方で、日本が長年かけて培ってきた文化と倫理のシステムは、大災害にあっても、怯まず、冷静沈着で、忍耐強く、互いに分かち合い、支え合い、そして、整然として、規律正しく、時には多くを失いながら少しだけは残されたことに対する感謝の気持ちさえも表わす国民性として、この壊滅的な極限状況にあっても驚異的な形で十全に機能した、と言えると思います。科学技術のシステムや政治経済等の社会のシステムにおいても、そうした機能と制御が可能であると考えます。九州大学は、今後、あらゆる自然災害や事件・事故に対して、最悪の事態を想定したリスク管理の課題に全学をあげて組織的に取り組んで参ります。

 少子高齢化と労働力人口の減少、雇用問題や財政状況の悪化等の国内問題に加え、地球環境問題、資源・エネルギー問題、感染症など地球規模の課題も顕在化し深刻化しています。このような状況において、我が国が自然環境と調和しながら持続的な成長を成し遂げ、また地球規模の課題解決に向けて存在感を発揮し続けるためには、大学がその中核となる人材を育成し、新たな価値や技術を絶えず創造していかなければなりません。特に、グローバルに活動を展開する企業や大学、研究機関等において国籍を問わず優れた人材を獲得する動きが活発化しています。そのため、産学官を問わず、国内外の様々な分野においてリーダーシップを発揮できる高い専門性と広い教養・俯瞰力を身に付けた高度なイノベーション人材を育成していく必要があります。

 九州大学には、時代の変化を的確に捉え、機敏に対応でき、柔軟で力強い学問の場として、地球規模での課題を見据え、長期的視座に立って、潜在的需要を開拓し、また、既成の枠組みを超える新たな分野を開拓してきた伝統があります。こうした伝統を生かして、人類の課題に誠実かつ大胆に取り組んでいきたいと思います。

 近年、大学の教育・研究・診療を支える基盤的経費は減少傾向にありますが、我が国の教育研究水準を維持し、向上させるためには、安定した財政基盤が確保される必要があります。このため、大学は、国の公財政負担について国民から理解・合意が得られるように、展開する研究や診療、育成する人材像や運営方針を明確にするとともに、社会や学界の要請に対して迅速に応えられるよう常に改革を進め、説明責任を果たしていく必要があります。このためにも、昨年九大百年に際して創設した、「大学改革活性化制度」及び「基幹教育院」の制度、体制が機能すると思います。

 以上のようなことを念頭に置き、本日皆様にリーフレットをお配りしていますが、九州大学は、自律的に改革を続け、教育の質を国際的に保証するとともに、常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となることを基本理念とし、次のような大学を目指すことをここに宣言し、百周年記念式典の式辞とさせていただきます。

  1. 社会の課題に応える大学
  2. 最高水準の研究を推進する大学
  3. アクティブ・ラーナーを育成する大学
  4. 骨太のリーダーを養成する大学
  5. 先端医療により地域と国際社会に貢献する大学
  6. 卓越した研究教育環境を構築・維持する大学
  7. グローバル社会と地域社会を牽引する大学
  8. 自律的改革により進化し続ける大学
  9. 知の蓄積と継承・発信を推進する大学

 「九大百年、躍進百大」。九州大学がどの分野においても世界のトップ百大学に躍進すべく、これからの百年の発展を築いて参ります。

 本日は誠にありがとうございます。

平成24年5月12日
九州大学総長 有川 節夫