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有川総長 年頭の挨拶(2013年1月1日)

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有川総長 年頭の挨拶 「学修・教育・研究」(2013年1月1日)

 新年おめでとうございます。

 この数年間は、政権交代や東日本大震災という大きな転換や自然災害があったとはいえ、経済・財政や国際関係はもとより科学技術、教育、大学までもが翻弄されてきた感が否めません。そうした状況にも拘らず、昨年は、九州大学にとって極めて意義深い重要な年でありました。東日本大震災に鑑み一年間延期した創立百周年記念の諸行事を成功裏に収めることができました。2008年のリーマンショック以来、経済・財政状況の厳しい中で、多くの企業や団体、個人の皆様から多大なご寄附をいただき、稲盛財団記念館や椎木講堂の建設を始めとして、目的の明示された寄附金による教育研究活動支援、創設された九州大学基金による学生や若手の教職員の海外渡航等の支援、同窓会活動の支援等、長期にわたる様々な記念事業が始まりました。

 大学内部でも、九大百年の平成23年正月に、百周年に相応しい、今後の九大百年を見据えた最も重要な二つの課題を提示し、短期間に全学の合意を得てスタートさせることができました。ひとつは、教養教育を根底から見直し、基礎知識に加えて、アクティブ・ラーナーとして生涯学ぶ姿勢を身につけてもらうための基幹教育制度とその中核をなす教員組織としての基幹教育院の創設です。もうひとつは、永続的に改革を続けられる強靭なスキーム「大学改革活性化制度」です。この制度については、既に2回目の公募・審査・選定を済ませたところですが、昨年の国立大学法人評価委員会から「業務運営の改善及び効率化に関する目標」において、九州大学が全国で唯一、「中期計画の達成に向けて特筆すべき進捗状況にある」として最高の評価を獲得しました。評価に関しては、さらに、財務格付けも4回連続でAAA(安定的)を取得しました。一方で、九大百年に際し、「躍進百大」を目標に掲げ、九州大学のこれからの百年に向けての基本理念と目指す姿、行動計画を九つにまとめて示し、各学部・学府及び病院の目指す姿も含めて、「百年メッセージ」として表明しました。

 10月1日には、皇太子殿下に伊都キャンパスをご視察いただくという光栄に浴しました。また、9月の秋季学位記授与式に続いて、同じ10月1日には、初めて「秋季入学式」を挙行しました。文部科学省等の様々な競争的資金や人材育成プログラム等にも基幹総合大学として積極的に対応し、「博士課程教育リーディングプログラム」2件(環境:総理工、物質:工学)、「大学の世界展開力強化事業」2件(タイプⅠ:工学、タイプⅡ:法学)、「グローバル人材育成推進事業」1件(タイプB:農学)が採択され、それぞれ活動が始まりました。また、文部科学省の補助金を得て、URA(学術研究推進支援機構)に有能なリサーチ・アドミニストレーターを配置しこれを実質化しました。教育の社会連携活動の一環として、福岡県教育委員会との共催による小中高大連携に関するシンポジウムを開催しました。大学としては初めての企画で、多くの参加者を得て秋入学も含めて大学への入り口に関して有益な討論ができました。

 九州大学にとって最大の事業の一つである伊都新キャンパスへの移転事業に関しては、その中でも最大の難事業といわれてきたキャンパス用地の再取得が一年前倒しで完了し、すべての用地が本学のものになりました。建物については、「多様な手法による施設整備」が進みました。研究者向け木造のゲストハウスが完成し、既に多くの外国人研究者等に活用されています。WPIの拠点でもあるカーボンニュートラル・エネルギー国際研究所と次世代燃料電池産学連携研究センターの建物も完成し、披露式を待つだけになりました。椎木正和様のご寄附による椎木講堂も10月に起工式を済ませ、工事がはじまり、平成26年2月に完成という運びとなりました。平成26年3月の学位記授与式、4月の入学式はこの椎木講堂で挙行され、また、役員室等の法人本部の中枢もこの年にそこに移ることになります。

 このように昨年は、政権や経済・財政、国際関係等すべてが不安定で厳しい状況にあって、九州大学は可能な限りの創意工夫を重ね、学内各層の理解と努力を基盤にして、文部科学省を始めとする政府機関や自治体からの理解と支援、地域住民からの理解と協力を得ながら、社会の期待に応えるべく大きく前進することができたと思います。しかし、昨年の中教審答申や大学改革実行プラン、現在進行中のミッションの再定義に見られるように、大学には、特に国立大学には、なお一層の目に見える改革が求められています。幸い九州大学では、法人化以前の平成12年から学府・研究院制度を導入するなど、教育研究の制度面で大改革を行ってきました。加えて、この数年の間に研究者コミュニティでの評価の高い研究者が様々な形で報われるような主幹教授制度をはじめとして、研究組織の柔軟かつ迅速な設置や再編、組織改革に数多く取組んできました。また、百周年記念の事業として前述のように基幹教育という最重要課題に道筋をつけ、永続的な改革のエンジンを手に入れました。

 これらをベースにして、「九大百年」に際して表明した「躍進百大」に向けてのメッセージに示した九つの目指す姿、即ち、

  1. 社会の課題に応える大学
  2. 最高水準の研究を推進する大学
  3. アクティブ・ラーナーを育成する大学
  4. 骨太のリーダーを養成する大学
  5. 先端医療により地域と国際社会に貢献する大学
  6.  卓越した研究教育環境を構築・維持する大学
  7. グローバル社会と地域社会を牽引する大学
  8. 自律的改革により進化し続ける大学
  9. 知の蓄積と継承・発信を推進する大学

をイメージして努力することによって、九州大学は、これまでに国や財界等から指摘されてきた諸課題に応えるだけでなく、今後想定される様々な要請にも、それらを先取りした形で対応することができると思います。そのための基本は、「学修と教育」にあり、その道筋を立てるのが今年の重要な課題であると考えます。それができると、目指す姿の3、4は自動的に達成され、研究や医療に新風が吹き込み活性化され、最高水準の研究と先端医療が可能になり2、5が達成され、3、4で育成されるリーダーと相まって1、7、9が実現できます。6を実現するのは伊都キャンパス等整備です。8については、既に大学活性化制度が機能しています。

 そのためには、すなわち、「学修と教育」に確かな道筋を立てるためには、まず、教員が客観性のある、つまり国際的な評価に耐え得る明確な学修・教育指針を示して熱意をもって教育に当たり、学生が主体性をもって意欲的に学修に勤しむようにし、職員は、そうした教育・学修活動を様々な側面から効果的に支援し、そして大学は、十分な環境整備を行う必要があります。

 具体的には、平成23年度に設置した教員組織としての基幹教育院を人事や建物の整備も含めて完成させ、平成26年4月入学生からの基幹教育の実施に向けたカリキュラムや授業計画(シラバス)や学修指針の整備、基幹教育に関する全学出動体制の具体化が急がれます。専攻教育について、学位プログラムの明確化、授業科目のナンバリングの導入、学部における教育内容と学修内容の可視化を行い、教育の質の国際的保証をする必要があります。また、秋入学等、入学時期や卒業時期の多様化、教育の国際化に備えてセメスター制についても可能な学部・学府から検討を始める必要があります。さらに、国際教養学部構想を新たにスタートする基幹教育と関連付けて具体化すること、アクティブ・ラーナーとして学び方と考え方を身に付け、未知・未修のことを必要に応じて自ら学び、主体的に問題を発見し、解を見出すことのできる人材を育成するための革新的な基本方針を示すことも今年の重要な課題です。

 こうした教育制度に関する改革に加えて、大学への入り口である高大接続や入学者選抜、また、出口としてのキャリア形成支援にも注力し、そうした学修・教育環境の整備という観点からも、国立大学法人として文部科学省等の理解と財政的支援を得て、理学系の移転を始めとする伊都新キャンパスへの移転を急ぐ必要があります。

 こうした本質的で困難な課題に、教職員は、役員も同じですが、給与の大幅な減額支給が続き、退職金についても十分な準備期間もなく大きな減額が求められ、大学にとっては問題の多い改正労働契約法が施行されるという、生活設計の見直しを余儀なくされ意欲を萎えさせるような厳しい境遇と状況の中で、取り組まなければなりません。しかし、新年に当たり、何故、大学に、就中、九州大学に籍をおいているかを初心に立ち返って考え直し、また、大学における教育研究の本質を捉え直し、敢えて研究の前に教育を、そしてその前に学修をおき、「学修・教育・研究」という順番で大学を考えてみましょう。そうすることによって、研究面を含めて「躍進百大」への、また、九つの目指す姿への道筋が拓けてくるのではないかと思います。

 今年こそ、日本社会が混乱と低迷、閉塞感から脱却して、希望のもてる輝かしい年になることを願って、また、九州大学のすべての学生、教職員、役員の皆様にとって素晴らしい年になることを祈って新年の挨拶とします。

平成25年1月1日
九州大学総長 有川 節夫