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平成24年度 大学院学位記授与式(2013年3月26日)

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平成24年度 九州大学大学院学位記授与式告辞(2013年3月26日)

本日学位記を授与された博士 440名、修士1,771名、そして専門職大学院学位記を授与されました 150名の皆さん、おめでとうございます。皆さんのこれまでの勉学や研究を指導し、また様々な面で支えてくださった先生方、研究室、事務職員、技術系職員の皆様、そして、ご家族の皆様に対しまして御礼とお祝いを申し上げます。

九州大学は、一昨年、2011年に九州帝国大学として創設以来、百周年を迎えました。この間に、皆さんを含めて、約26,600名の博士を、そして、約48,000名の修士と約1,400名の専門職大学院修了者を世の中に送り出してきました。

皆さんの大学院学生としての在学期間は様々で、また、今日の式典には、論文博士を授与された方もいらっしゃいますが、九州大学は、この十年の間に大きく進化してきました。平成15年(2003年)には芸術工科大学と統合し、平成16年(2004年)には法人化し、平成17年(2005年)には伊都キャンパスへの移転を開始し、平成21年(2009年)には六本松キャンパスを廃止し、すべての新入生の授業が伊都キャンパスで行われるようになりました。この年には、移転事業と平行して展開していた大学病院の再開発という大事業が完了しました。伊都新キャンパスへの移転は、国家や大学の厳しい財政状況にも拘らず比較的に順調に進み、現在整備中の基幹教育院や椎木講堂等に加えて、平成27年(2015年)の理学系移転、そして平成31年の完了へ向けて着実に進展しています。また、来年からは、入学式や学位記授与式等も、現在伊都キャンパスに建設中の椎木講堂で行われることになります。ここ福岡国際センターで挙行される学位記授与式はこれが最後となる予定です。

学内はこのような状況にありますが、この数年間は、国際、外交、政治、経済等、社会全般にとっても、実に厳しい変化の多い期間でありました。百年に一度といわれる金融危機、アラブ諸国での政変や暴動、ギリシャや最近のキプロス等の財政危機に見られるようなEUにおける金融危機、洪水や寒波、地震等の自然災害、近隣諸国との関係、我が国における二度にわたる政権交代等、枚挙に遑がありません。

中でも、一昨年の東日本大震災は千年に一度という悲惨な大災害でした。一万九千人近い犠牲者と行方不明者、未だに避難生活を余儀なくされている三十万人を超える方々へ、改めて衷心から哀悼の意とお見舞いを申し上げずにはいられません。この大震災から、私たちは、現在の科学技術のレベルに慢心することなく、いうならば「想定外さえも想定しておく」ことや日頃の研究や評論活動を一段高いところからモニターしておく、あるいは、メタな立場から常に観察し、考察しておくことの必要性等、多くの教訓を得ました。

一方、科学技術に関しては、はやぶさの帰還に感動し、鈴木先生、根岸先生、そして昨年の山中先生のノーベル賞受賞、スーパーコンピュータ「京」の成功等を通じて、過去から現在に至る脈々として受け継がれている真摯で誠実な科学者の姿勢、日本の学術に対する取り組みの健全さを感じさせられました。また、日本における財政状況にも久方ぶりに明るい兆しを感じられるようになってきました。

このような国内外の情勢、学内の情勢の中で、皆さんは、この数年間、素晴らしい先生方の指導を受け、基礎的な、あるいは最先端の研究に取り組み、確かな方向を掴み、立派な研究成果を得る等、大きな達成感をもって本日の学位記授与式を迎えられたことと思います。

九州大学は、昨年五月に一年延期していました百周年記念式典等を実施しました。この九大百年に際して、新たな百年に向けて「自律的に改革を続け、教育の質を国際的に保証するとともに常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」という基本理念を掲げ、九つ目指す姿とその実現のための行動計画を宣言しています。この九つの目指す姿とは、

一、 社会の課題に応える大学
二、 最高水準の研究を推進する大学
三、 アクティブ・ラーナーを育成する大学
四、 骨太のリーダーを養成する大学
五、 先端医療により地域と国際社会に貢献する大学
六、 卓越した研究教育環境を構築・維持する大学
七、 グローバル社会と地域社会を牽引する大学
八、 自律的改革により進化し続ける大学
九、 知の蓄積と継承・発信を推進する大学

の九つです。そして、「九大百年、躍進百大」、すなわち、すべての分野において世界のトップ百大学に躍進することをキーフレーズとして掲げています。これらは、役員や教職員の側から教育・研究・診療活動に関する決意を示したものになっていますが、これから博士課程に進学し、あるいは企業や研究機関等に就職する皆さんの活躍と支援、協力なくしては達成できるものではありません。

また、六番目は九州大学の法人としての目指すべきものですが、それ以外は、これからの皆さんの「目指す姿」にもなっていると思います。このような目標を掲げて、これから皆さんが指導的な立場で国際社会を牽引し、困難な課題に対して果敢に挑戦されることを期待します。

最近、博士号取得者について、就職や気質等について様々なネガティブな論評がなされています。先生方も含めて皆さんはよくご存知のことですが、特に、博士課程は、国の大学院設置基準や九州大学の学位規則では、「専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門的な業務に従事するために必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養う」ことを目的としています。これに従って審査され、めでたく本日の学位記が授与されたのであります。

したがって、大学等における「研究者」としてだけでなく、様々な業務で、いわば「総合職としての博士」としての見識と対応も期待されます。そのことを常に意識して活動して欲しいと思います。同じことを、これから博士後期課程に進学される皆さんにもお願いしておきたいと思います。

博士論文の成果がそのまま企業等ですぐに役に立つことは稀ですし、皆さんへの期待は、また、皆さんが真価を発揮できるのは、一定の期間、一つの課題に集中して取組み、深く掘り下げ、それを解決して、立派な論文としてまとめ上げた、という「経験」にあると思います。そのような経験を活かすためには、深く掘り下げた分だけ、高みに登り周囲を俯瞰する習慣を身につけることが重要です。そして、事態を総合的に見極めて、新しい有効な解決の方向を提言し、社会を先導しようと心がけていただきたい。

そのための手法としてよく使われるのが、演繹(ディダクション)、帰納(インダクション)、アブダクション、あるいは、歴史に学ぶことも含めた類推(アナロジー)です。最近では、ビッグデータの活用も注目されています。このうちインダクションとアブダクションは、観測等で得られたデータや事実の集合から仮説を形成するときに役立つ推論ですが、これらには、いわばアクティブ・ラーナーのような側面があります。絶えず学び続け、データや事実との整合性のチェックが欠かせません。そして、時には勇気をもって、それまでに得られた仮説や仮説を生み出す空間そのものさえも棄却しなければならないことさえあることを忘れてはなりません。

スーパーコンピュータ「京」に代表される計算機によるシミュレーションは、「計算科学」と呼ばれ、「理論科学」と「実験科学」に続く第三の科学技術の方法論として注目されてきました。最近では、各種のセンサーデータ、メディアデータ、カスタマーデータ、メディカルデータ等の巨大なデータが日常的に、社会のあらゆる場面で集積しています。そのため、その有効活用が、ビッグデータというバズワードのもとで、急速に、特にビジネスの世界で注目されるようになり、統計的推測やデータマイニング、機械学習等を駆使した「データセントリック科学(データ中心科学)」という第四の科学とも呼ばれる方法論が浮上しています。しかし、科学技術に関係した分野では、地震等災害データや気象データ、各種の実験・観測・計測によって得られた超巨大ともいえるデータが蓄積し、ゼタ、すなわち、10の21乗を遥かに超える量になるともいわれています。そこでは、これまでの科学的方法論と全く違った、新たなデータの見方や現象の理解の仕方、すなわち、新しい哲学さえもが必要になってきます。

このような新しい時代の到来を予感して、確かな推論や分析に基づき、時として俯瞰力と統合力を発揮して、難問を解決に導き、本日出席している多くの外国人留学生とも共同して国際社会で大きく貢献されることを期待します。

九州大学の外国人留学生は、二千人を超えており、留学生の多くは大学院で学んでいます。秋季入学の留学生も増えています。昨年十月には、本学としては初めての秋季入学式を挙行しました。九州大学は、グローバル30や世界展開力強化事業、キャンパスアジア、リーディング大学院等、数多くの国際事業を推進しています。留学生の皆さん、修了後も共同研究や共同教育プログラム、あるいは同窓会活動等を通じて、九州大学との関係を強固なものとして維持し、発展させてくださるよう期待します。

本日学位記を授与された皆さんの今後のご活躍と成功を願いまして、告辞といたします。

平成25年3月26日
九州大学総長
有川節夫