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平成24年度 学士学位記授与式(2013年3月26日)

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平成24年度 九州大学学士学位記授与式告辞(2013年3月26日)

卒業おめでとうございます。今年は、2,563人の皆さんが九州大学を卒業します。この日まで学生を支え、励まし、指導してこられたご家族や教職員、ご関係の皆様に心からお礼と祝いを申し上げます。

九州大学は、平成3年に伊都新キャンパスへの移転を学内で決定して、平成17年に工学系の第一陣が移転をし、平成21年からすべての入学生が九州大学での教育を伊都キャンパスで始めることになりました。本日卒業する多くの皆さんは、九州大学での学生生活を伊都キャンパスで迎えた最初の学生です。また、来年からは学位記授与式や入学式は、現在建設中の椎木講堂で行われますので、この福岡国際センターでの学位記授与式はこれが最後ということになります。このように九州大学の最大の事業である移転事業は着実に進展しています。

多くの皆さんが九州大学で過ごしたこの数年間は、学内では、この移転事業に加えて、病院の再開発の完了というもうひとつの記念すべき大事業もありました。

国際、外交、政治、経済等、社会全般にとっても、実に厳しい期間でありました。百年に一度といわれる金融危機、新型インフルエンザの流行、アラブ諸国での政変や暴動、ギリシャや最近のキプロス等の財政危機に見られるようなEUにおける金融危機、洪水や寒波、地震等の自然災害、近隣諸国との関係、我が国における二度にわたる政権交代等、枚挙に遑がありません。

中でも、一昨年の東日本大震災は千年に一度という悲惨な大災害でした。一万九千人近い犠牲者と行方不明者、未だに避難生活を余儀なくされている三十万人を超える方々へ、改めて衷心から哀悼の意とお見舞いを申し上げずにはいられません。この大震災から、私たちは、現在の科学技術のレベルに慢心することなく、いうならば「想定外さえも想定しておく」ことの必要性等、多くの教訓を得ました。

一方、科学技術に関しては、はやぶさの帰還に感動し、鈴木先生、根岸先生、そして昨年の山中先生のノーベル賞受賞、スーパーコンピュータ「京」の成功等を通じて、過去から現在に至る脈々として受け継がれている真摯で誠実な科学者の姿勢、日本の学術に対する取り組みの健全さを感じさせられました。また、日本における財政状況にも久方ぶりに明るい兆しを感じられるようになってきました。

このような国内外の情勢、学内の情勢の中で、皆さんは、この4年間あるいは6年間、卓越した先生方の指導を受け、仲間と共に勉学に励み、また、先輩や後輩と共に過ごし、互いに影響を受け合いながら、社会との関わりを通じて成長し、大きな達成感をもって本日の卒業式を迎えられたことと思います。

九州大学は、一昨年、2011年、九州大学としての創立百周年を迎え、東日本大震災に配慮して一年延期していましたが、昨年5月に記念式典やいくつかの事業を実施しました。この九大百年に際して、九州大学は、新たな百年に向けて「自律的に改革を続け、教育の質を国際的に保証するとともに常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」という基本理念を掲げ、九つの目指す姿とその実現のための行動計画を宣言しています。この九つの目指す姿とは、

一、社会の課題に応える大学
二、最高水準の研究を推進する大学
三、アクティブ・ラーナーを育成する大学
四、骨太のリーダーを養成する大学
五、先端医療により地域と国際社会に貢献する大学
六、卓越した研究教育環境を構築・維持する大学
七、グローバル社会と地域社会を牽引する大学
八、自律的改革により進化し続ける大学
九、知の蓄積と継承・発信を推進する大学

の九つです。そして、「九大百年、躍進百大」、すなわち、すべての分野において世界のトップ百大学に躍進することをキーフレーズとして掲げています。これらは、役員や教職員の側から教育・研究・診療活動に関する決意を示したものになっていますが、これから大学院に進学し、あるいは企業等に就職する皆さんの力なくしては達成できるものではありません。その意味でも、これからの皆さんが築き上げる指導的な立場での素晴らしい挑戦と活躍を期待しています。このうちの六番目は、大学が法人としてすべきことですが、「大学」というところを「私」という風に少し置き換えて頂くと分かりますが、これらはすべて、卒業生の皆さんがこれから目指すべき「姿」にもなっていると思います。

さて、そうした目指すべき姿を実現し、これから次々に直面する挑戦に立ち向かうために、皆さんに意識していただきたいことがいくつかあります。それは、各種のメディア等を通じて耳にしていると思いますが、学生や若い人に対する危惧や期待に関係したことであります。

ひとつは、「答えのない課題への挑戦」あるいは、「生涯学び続け、どんな環境でも勝負できる能力」です。大学でこれまで基礎的知識は数多く学び、重要なスキルも身に付けてきたと思います。しかし、知識の有効期限はどんどん短くなっています。しかも、次々に生み出される新しい技術にも常に対応しなければなりません。これまで、大学では、個々の基礎的な知識やスキルの獲得を通じて、「獲得の仕方」、つまり「学び方」を教わり、「学び方」を学んできたのです。つまり、アクティブ・ラーナーとしての素養・姿勢・態度を身につけてきたのです。それが身に付いていれば、答えのない課題への挑戦と解決は可能なはずです。

二つ目は、それまで信じてきたことを棄却する勇気です。アクティブ・ラーナーに学びの終わりはない。学び続けるということは、ただ均質な知識を身に付け、増やすだけではない。それらを仮説や理念、信念として一般化し、いわば体系として身に付けることでもあります。しかし、それらは、時として、新しい事実や状況に直面し、矛盾があらわになり、対応しきれない事態が生じ、変更や棄却さえも余儀なくされることがあります。そうした場合、新しい事実を認識し、受け入れる謙虚さと度量の広さと、時間をかけて培ってきたそうした体系さえも棄却する勇気もまた必要になります。

三つ目は、内向き志向の打破です。最近、若者や学生が国外、特にアメリカへの留学や仕事での出張を躊躇する傾向が強い。つまり、内向き志向が強いと様々な委員会やメディアで繰り返し指摘されています。そのため、九州大学では、グローバル30やグローバル人材育成、世界展開力強化、キャンパスアジア、リーディング大学院といった国からの様々な支援プログラムを活用し、また、九州大学基金に代表されるいくつかの学内プログラムの支援を得ながら、教育のグローバル化に力を注いでいます。社会に出てからも、また、大学院に進学後も様々な留学等の機会がありますので、それらに積極的に応募して、グローバル人材として活躍し大成して欲しいと願っています。そのために、語学力やコミュニケーション能力に加えて、主体性や積極性、協調性、責任感、使命感、日本文化と異文化に対する理解力も日頃から意識して強化しておく必要があります。

最後に、私は、自分の教授時代の経験に基づいて、入学式の時に必ず新入生に話してきたことですが、皆さんの能力は皆さんが思っているよりはるかに高い。そのことを信じて、こうした社会の要請に応え、グローバル社会を牽引し、それぞれの分野で圧倒的な存在感を発揮してくれること祈念して告辞とします。

平成25年3月26日
九州大学総長
有川節夫