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平成25年度 秋季学位記授与式(2013年9月24日)

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平成25年度 九州大学秋季学位記授与式告辞(2013年9月24日)

本日、ここに平成25年度秋季学位記授与式を挙行するにあたり、学士46名、修士97名、専門職学位課程修了者5名、博士195名(内、論文博士19名)、合計343名の皆様、この中の半数以上の178名は遠く故国を離れて九州大学で学んだ外国人留学生ですが、これら全ての皆さんに、これまでのたゆまぬ研鑽努力に対し深い敬意を表し、心からお祝い申し上げます。また、皆さんのこれまでの学習・研究を支えて下さったご家族に対しても、心からのお祝いと御礼を申し上げます。

日本では、一昨年から、秋入学が話題になっていますが、九州大学では、既に、2010年10月からグローバル30という教育の国際化プログラムにより設置した国際コースにおいて秋入学を実施しており、昨年度からは、国際コースだけではなく、留学生を中心にした大学院やJTW、JLCCといった短期プログラムも一緒にした、かなり大掛かりな秋季入学式を実施しております。また、今年になってから、クォーター制(4学期制)も話題になっていますが、これは、教育だけでなく研究面でも意味があると思います。九州大学でも、出来るところから導入することを検討しています。

皆さんが在学していた2年から6年の間、また、論文博士の皆さんが学位論文に取り組んでこられたこの数年間は、実に多難な時期でありました。

世界では、2007年のサブプライムローン問題、それがもとになって2008年には百年に一度ともいわれる世界的金融危機に陥り、2009年には、新型インフルエンザが世界的に流行しました。

2010年暮れに始まったアラブ諸国での反政府デモや暴動、政変など世界的な政情不安が続き、今なお、不安定な状況にあります。また、世界各地で洪水や寒波、地震などの自然災害が頻発しました。

日本では、一昨年、千年に一度とも言われる東日本大震災に遭遇しました。日本は現在、震災からの復興等の大きな困難に直面しており、科学技術や高等教育にも大きな影響が生じています。

昨年夏の政権交代以降、経済財政に多少明るい兆しが感じられるようになりましたが、他国に先行して直面している極端な少子高齢化、生産人口の減少の中で、いかに高齢者の年金等を確保していくのか、痛みや大きな意識改革なくしては、乗り越えられない課題が山積しています。

その中で、科学技術に関しては、化学や医学生理学分野においてノーベル賞が続き、はやぶさやコウノトリ、最近のイプシロン等、感動的な明るいニュースもありました。2020年の東京オリンピック開催決定というニュースもありました。今後、これもひとつの推進力として、原子力発電所の事故も含めて、震災からの復興、交通インフラ等の老朽化対策等が急ピッチで組織的に進むことを期待したいと思います。

九州大学では、伊都キャンパスへの移転が進行しています。既に、学生教職員合わせて約1万2千人の本学最大のキャンパスとなりました。昨年度から最終の第三ステージに入っています。昨年の4月には研究者向けの木造宿泊施設である「伊都ゲストハウス」も完成し、今年はカーボンニュートラル・エネルギー国際研究所と次世代燃料電池産学連携研究センターの開所式を行いました。また、来年の2月には基幹教育院棟が完成予定で、基幹教育院のカリキュラムが来年4月よりスタートします。震災等の影響により遅れていた理学系の建物は、起工式を終え、再来年秋には移転できることになりました。COIのビル(共進化社会システムイノベーションセンター)、I2CNERの第2ビル(カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所第2研究棟)、留学生のための国際村、ドーミトリー3等も今年中に着工します。2019年度の移転完了に向けて着実に整備が進んでいます。

一方で、2009年には、六本松キャンパスと田島寮が本学の手を離れました。また、この年の9月には病院の再開発も完了し、我が国最大級の最新機能を備えた大学病院が完成しました。患者さんに満足される医療が提供されています。

2011年には、ビジネススクールが新博多駅ビルに進出し、市民にとってより身近な存在となりました。本学5番目の研究所、アジア初のマス・フォア・インダストリ研究所がスタートしました。この数学の研究所は、今年の4月に文部科学省より、「共同利用・共同研究拠点」に認定されました。

また、図書館や文書館などについて本格的に学び研究する大学院ライブラリーサイエンス専攻が設置され、今年4月にはその博士課程もできるなど、教育研究体制が一層充実したものになりました。

そして、2011年に創立百周年を迎え、記念式典等の行事を昨年5月に開催しました。この九大百年に際して、これからの飛躍の礎を築くために、「基幹教育院」の設置と「大学改革活性化制度」という難易度の高い事業を企画し、これを全学の協力と理解を得て成功させました。基幹教育院を中心に、全学の教職員の協力を得て、周到に準備をし、いよいよ来年の4月に入学する学部学生から、新しい教養教育、すなわち、基幹教育が行われることになります。また、大学改革活性化制度を使って、次々に重要な研究組織が新設、あるいは強化されています。

さらに、頂いた寄附金をもとにした「九州大学基金」を創設し、学生や若手研究者、職員の支援、教育・研究・診療などの環境整備や卒業生、同窓会との連携活動の支援等を開始しました。椎木正和様からは、大学講堂(椎木講堂)の建設費を寄附していただき、現在工事が進んでおります。今年の12月には竣工予定で、来年3月の学位記授与式から全学の大きなイベントはこの講堂で行うことになります。

このように皆さんは、世界的に見ても、国内をみても、また、九州大学にとっても極めて重要な時期に在学し、研鑽を積んできたわけです。

日本は、明治以来の教育政策、産業政策によって、近代化を成し遂げ、先進国の仲間入りを果たし、戦後の卓越した政策や国民の勤勉さ、創意工夫によって、高度な科学技術力を身につけ、世界有数の経済大国に発展しました。最近では、アジア諸国・地域の急速な追い上げ、成長によって、我が国の存在感が希薄になりつつありますが、日本のこうした経験と実績は、アジアを始めとする多くの国や地域にいろいろな形で、いい影響を与え、その意味で貢献してきたのではないかと思います。アジア諸国・地域が、お互いの文化や価値観、歴史観を尊重して、大局的な立場から、いたずらに対立を煽り、顕在化させるのではなく、世界の平和、人類の幸福を目指して連携・協力し合うことが、ますます重要になってきたと思います。

さて、一昨年の東日本大震災や巨大津波、原子力発電所の事故、最近の中東の問題、東アジア緊張等、自然災害や国内、国際社会における人的災害や緊張、紛争等がこれからも次々に発生し、時折、未曾有といわれるような困難に直面することがあることと思います。そのような時には、皆さんが九州大学で培ってきた貴重な経験や知見を総動員して、また、日本が、これまでに経験したことや、今取り組んでいる難問への対応と解決の仕方を、ポジティブ、ネガティブ双方の例(イグザンプル)として活かして、果敢に解決に向けて挑戦していただきたい。

これから大学院に進学する学士や修士の皆さんには、自分で定めた目標に向かって、一層の研鑽に努め、しっかりした研究の成果を出し、国際社会で存在感を示すべく努力をして欲しい。

博士の皆さんに、学位記授与式に必ず言っていることですが、物事を深く極めようと努力をすればするほど視野が狭くなりがちです。「深く掘った分だけ、高みに登り、周囲を俯瞰する」ように心がけて欲しい。最近、日本の中央教育審議会などでも、「俯瞰力」を身に付けよ、言っています。一方、専門を極めた経験のある人だけにできること、見える世界がある、ともいわれています。それは、そうした経験に基づいた深い類推(アナロジー)利くからであります。経験や観測を一般化し、帰納する力とこうした類推する力を鍛えることをお勧めします。

最後に、皆さんの今後の活躍を、特に、グローバル社会におけるリーダーとしての活躍を祈念して、告辞とします。

平成25年9月24日
九州大学総長
有川節夫