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平成25年度 大学院学位記授与式(2014年3月25日)

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平成25年度 九州大学大学院学位記授与式告辞(2014年3月25日)

本日学位記を授与された博士387名、修士1,702名、そして専門職大学院学位記を授与されました148名、合計2,237名の皆さん、おめでとうございます。皆さんのこれまでの勉学や研究を指導し、また様々な面で支えてくださった先生がた、研究室、事務職員、技術系職員の皆様、そして、ご家族の皆様に対しまして御礼とお祝いを申し上げます。

九州大学では、平成18年度(19年3月)までは学位記授与式を箱崎キャンパスの創立五十周年記念講堂にて開催しておりましたが、平成15年10月に九州芸術工科大学と統合し、学生数が増加したことに伴い、平成19年度(20年3月)より福岡国際センターにて挙行しておりました。学位記授与式という大学にとって最も重要な行事を学外で開催せざるを得ない状況が続いていたわけです。九州大学の創立百周年記念事業の趣旨にご賛同を頂き、この講堂を寄贈して下さいました、椎木正和様に、この場を借りて改めて深甚なる謝意を表したいと思います。

椎木講堂は学生や教職員、市民の方々が集うオープンスペースとしての「ガレリア」、大学の中枢機関として本部機能が集まる「管理棟」、そして本日の会場となっております「ホール」があります。このホールは約3千名を収容でき、大学の講堂としては日本最大規模のものであります。本日、この椎木講堂での初めての学位記授与式を、多くの方々のご列席のもと挙行できますことを大変喜ばしく思います。

さて、皆さんの大学院学生としての在学期間は様々ですが、九州大学は、この十年程の間に大きく進化しました。平成15年(2003年)には九州芸術工科大学と統合し、平成16年(2004年)には法人化し、平成17年(2005年)には工学系の第一陣を皮切りに伊都キャンパスへの移転が始まり、平成21年(2009年)には六本松キャンパスを廃止し、すべての新入生の授業が伊都キャンパスで行われるようになりました。同時に、六本松にあった比較社会文化研究院・学府や言語文化研究院等も伊都キャンパスに移転し、三カ所に分散していた数理学研究院・学府も伊都に集結し、理学部数学科も一緒に移転しました。この年、平成21年(2009年)には、移転事業と併行して展開していた大学病院の再開発というもひとつの大事業が完了しました。伊都新キャンパスへの移転は、厳しい財政状況にも拘らず比較的に順調に進み、平成27年(2015年)の理学系移転の時点で、建物の整備でいうと全体の70%が完了することになります。こうして平成31年の移転完了へ向けて着実に進展しています。

学内はこのような状況にありますが、この数年間は、国際、外交、政治、経済等、社会全般にとっても、実に厳しい変化の多い期間でありました。百年に一度といわれる金融危機、アラブ諸国での政変や暴動、ギリシャやキプロス等の財政危機に見られるようなEUにおける金融危機、昨年フィリピンを直撃した台風等の自然災害、近隣諸国との関係、クリミア問題等、枚挙に遑がありません。

中でも一番大きな出来事は、3年前の平成23年3月11日に発生した東日本大震災でした。この地震とそれに伴って起こった津波によって1万6,000人近い貴い命を失い、いまなお、2,600人以上の方々の行方が不明で、約26万7,000人が避難や転居を余儀なくされています。これらの方々に改めて衷心より哀悼の意とお見舞いを申し上げます。この震災から、科学技術の在り方を含めて大きな課題を突きつけられました。大学では、あらゆる可能性を見極めながら、それぞれの専門分野を中心にして、新たな発想で深い研究を展開しているところであります。

科学技術に関しては、この数ヶ月、研究者の信頼やモラルに関する初歩的問題で世間を騒がせている状況は、最近の「はやぶさの帰還」や山中先生のノーベル賞受賞、スーパーコンピュータ「京」の成功等を通じて、我が国の科学技術の確かさを感じ、喜びを噛み締めていただけに、残念でなりません。停滞感や閉塞感に支配されていた日本社会について、2020年の夏季オリンピックの東京開催決定やいわゆるアベノミクスの効果等、明るい兆しも所々で感じられるようになってきました。

このような学内外の情勢の中で、皆さんは、この数年間、卓越した先生がたの指導を受け、基礎的な、あるいは最先端の研究に取り組み、確かな方向を掴み、立派な研究成果を得る等、大きな達成感をもって本日の学位記授与式を迎え、そして、更なる高みを目指して、次のステージに進むことになります。

その際、社会が皆さんに何を期待しているのかについて、もう一度確認しておくことが大事だと思います。それは、最近、大学院修了者、特に、博士の皆さんに対する世間の風当たりが強くなっているからでもあります。もちろん、その中には、むしろ、文化や価値観、気質、慣習等に起因する社会の側も問題もあり、社会の側にこそ変化が求められるところも多々あるのですが、自分たちに求められているのは何か、自分たちに欠けているものがあるとしたらそれは何かについて、このような機会にしっかり見極めておくことは、意義深いことであると考えます。

社会の期待や要請は、公式的な形では、国の大学設置基準や本学の学位規則に表れています。もちろん、皆さんよく知っていることですが、例えば、博士課程については、国の大学院設置基準や九州大学の学位規則では、「専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門的な業務に従事するために必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養う」ことを目的としています。同様なことは、修士課程に対しても書かれています。専門職大学院については、職業の専門性に基づく記述になっています。皆さんは、こうした基準に沿って、教育を受け、論文等の審査を受け、めでたく本日の学位記が授与されたわけであります。

したがって、「研究者としての博士(修士)」だけでなく、様々な高度な業務で、いわば「総合職としての博士(修士)」としての見識や活動、対応も期待されているのです。このことを特に強く意識して活動して下さい。そのような「総合職」としての見識や活動は、皆さんのようにひとつの分野で高度に専門的な問題解決の実績があるから可能になるのです。その実績と経験を援用することによってのみ可能なのです。そのような見識と態度で事に当たれば、未知の課題に対して独創性のある効果的・効率的な解決策が提示できるはずです。そうすると、「自分の専門に閉じ篭っていて、融通は利かず、俯瞰力もない」といった不当な苦言を呈されることも無くなり、その結果、皆さんや皆さんの後輩達の進路や活躍の場も広がってくるものと思います。

また、学び続けるという姿勢も重要です。九州大学では、九大百年に際して、平成23年10月に「基幹教育院」を創設しました。これまでの教養教育あるいは全学教育といったものを全面的に見直し、2年半にわたって周到な準備をしてきました。基幹教育院の教員を中核にして全学の教員が参画して、いよいよこの4月入学の新入生から「基幹教育」が始まります。この基幹教育とは、学生が、自律的に生涯にわたって「ものの見方を学び、考え方を学び、学び方を学び」続けるアクティブ・ラーナーを育成するものです。新入生は全員1年間、伊都キャンパスでこの理念に基づく「基幹教育」を受けますが、学部や大学院でも、ある程度の専門性を経験し、必要性を実感したときに、基幹教育が受けられることになっております。

この基幹教育は、皆さんの在学中には間に合いませんでしたが、皆さんは、大学院において、ひとつの専門分野を極めました。あるいは、身に付けました。同時に、そのプロセスにおいて、自分が取組んできた課題や専門領域について、ものの見方を学び、考え方、学び方を極め、身に付けてきました。そうした特定の課題を通じてのそうした経験は、敷衍できるのです。一般化できるのです。そう意識してみて下さい。そうすると、皆さんは、専門を極め、身に付けただけでなく、ものの見方、考え方、学び方を学んできたことに気付くと思います。その意味で、皆さんも、立派なアクティブ・ラーナーなのです。

こうした九州大学の教育改革は、社会や学界からの期待や要請を真摯に受け止めて自主的に自律的に実現したものですが、国の方は、財界や一般社会からの要請に応じて様々なプログラムやプロジェクトを競争的な環境のもとで用意しています。多くは、国際化を推進し、グローバル社会の中で活躍するリーダー養成を目的とするものです。九州大学は基幹総合大学でありますので、当然、すべての事業に応募して、挑戦しています。例えば、グローバル人材育成推進事業や世界展開力強化事業、博士課程教育リーディングプログラム等です。

「グローバル人材育成推進事業」は、最近の日本における若い世代の「内向き志向」を克服し、国際的な産業競争力の向上や国と国の絆の強化の基盤として、グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材の育成を図るため、大学教育のグローバル化を推進しようとするものです。本学では、農学部が取組んでいます。

「大学の世界展開力強化事業」は、世界に雄飛する人材の育成、教育の国際的な質保証、日本人学生の海外留学と外国人学生の戦略的受入、アジア・米国等の大学との協働教育等を行う事業です。本学では、エネルギー環境や地球資源、法学に関する事業が採択され、アジア諸国との協働教育を展開しています。

「博士課程教育リーディングプログラム」は、優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え、広く社会にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くため、 産学官の参画を得つつ、専門分野の枠を越えて博士課程前期・後期一貫した質の保証された学位プログラムです。本学では、全学府が参加できる「持続可能な社会を拓く決断科学大学院プログラム」、「分子システムデバイス」、「グリーンアジア国際戦略」の文部科学省の3事業に加えて、本学独自のリーディングプログラムとして、「フューチャーアジア創生」、「キーテクノロジーを牽引する数学博士養成」「新世代コホート」に関する3つの博士課程教育がスタートしております。

こうした事業や取組みの中に、少なくとも、こうした事業に含まれているキーワードに大学への、特に大学院教育に対する社会の期待を読み取り、皆さん方、明日からの生活や活動の目標として頂きたいと思います。

最後に、九州大学の外国人留学生は、この5年間に倍増し、二千人を優に超えています。本学の場合、留学生の多くは大学院で学んでいます。秋季入学の留学生も増えていますので、数年前から秋季学位記授与式に加えて、秋季入学式を挙行しています。九州大学は、グローバル30プログラムに熱心に取組み、先程述べた、グローバル人材育成推進事業や世界展開力強化事業、リーディング大学院等、数多くの国際事業を推進しています。留学生の皆さんは、修了後も出身の研究室の先生がたや仲間との共同研究や共同教育プログラム、あるいは同窓会活動等を通じて、九州大学との関係を強固なものとして維持し、さらに発展させてください。

皆さんが、留学生の皆さんと共に、勇気を持って未知の世界に飛び込み、新しい世界を拓き、迅速かつ的確に決断できる、専門性、総合力、俯瞰力を兼ね備えたグローバルリーダーとして大成されることを期待して、告辞とします。

平成26年3月25日
九州大学総長
有川節夫