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平成25年度 学士学位記授与式(2014年3月25日)

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平成25年度 九州大学学士学位記授与式告辞(2014年3月25日)

みなさん、卒業おめでとうございます。今年は、2,492名の学部学生が九州大学を卒業します。今日まで卒業生を支え、励まし、指導してこられたご家族や教職員、ご関係の皆様に心から御礼とお祝いを申し上げます。 なお、本日午後の大学院学位記授与式と合わせますと、4,729名が九州大学から巣立つこととなります。

本日の学位記授与式は、この3月4日に落成式を済ませたばかりのこの椎木講堂で行われる最初の学位記授与式であります。九州大学では、平成18年度(19年3月)までは学位記授与式を箱崎キャンパスの創立五十周年記念講堂にて開催しておりましたが、平成15年10月に九州芸術工科大学と統合し、学生数が増加したことに伴い、平成19年度(20年3月)からは福岡国際センターにて挙行して参りました。

このように学位記授与式という大学にとって最も重要な行事を学外で開催せざるを得ない状況が続いておりました。九州大学の創立百周年記念事業の趣旨にご賛同を頂き、この講堂を寄贈して下さいました椎木正和様に、この場を借りて改めて深甚なる謝意を表したいと思います。

椎木講堂は学生、教職員や市民の方々が集うオープンスペースとして「ガレリア」、大学の中枢機関として本部機能が集まる「管理棟」、そして本日の会場となっております「ホール」があります。このホールは約3千名を収容でき、大学の講堂としては日本最大規模のものであります。本日、この椎木講堂での初めての学位記授与式を、多くの方々のご列席のもと挙行できますことを大変うれしく思います。

この伊都キャンパスは、平成17年秋に工学系の第一陣が移転して開校して以来、やがて10年になります。平成21年4月から、すべての入学生の授業すなわち全学教育はここ伊都キャンパスで行われておりますので、今日卒業する皆さんの多くは、九州大学での学生生活を伊都キャンパスで始めたことと思います。全学教育を受けた後は、それぞれのキャンパスで卒業までの学生生活を過ごしたわけですが、その間に伊都キャンパスの整備が日々進む様子を目の当たりにしてこられたことと思います。現在建築中の理学系の建物に、理学部等が平成27年の秋に移転してきます。その時点で、全体の約7割の教育研究棟が完成ということになります。残すところは、人文社会系と農学系。5年後の平成31年完了を目指しています。

みなさんの在学期間中に、九州大学創立100周年記念事業がありました。この椎木講堂や稲盛財団記念館等の建物に加えて、多くの個人や企業の皆さんから多額のご寄付を頂きました。それを基にしまして「九州大学基金」を創設して、学生や若手教職員の留学や海外渡航支援等、様々な支援・助成事業を始めました。皆さんの中にもその恩恵に浴した人が何人もいると思います。また、平成21年には、大学病院の再開発が完了し、平成22年にはカーボンニュートラルエネルギー国際研究所、平成23年にはマス・フォア・インダストリ研究所という世界的な研究拠点ができました。平成23年度には基幹教育院がスタートしました。

国内外においても、実に様々なことがあり、国際、外交、政治、経済等、社会全般にとっても、実に厳しい期間でありました。百年に一度といわれた金融危機、新型インフルエンザの流行、アラブ諸国での政変や暴動、EUにおける金融危機、昨年フィリピンを直撃した台風等の自然災害、近隣諸国との関係の悪化、クリミア問題等、枚挙に遑がありません。

しかし、何といっても、一番大きな出来事は、3年前の平成23年3月11日に発生した東日本大震災でした。この地震とそれに伴って起こった津波によって1万6,000人近い貴い命が失われ、いまなお、2,600人以上の方々の行方が分からず、約26万7,000人が避難や転居を余儀なくされています。これらの方々に改めて衷心より哀悼の意とお見舞いを申し上げます。この震災から我々は、想定外を無くする備え、被害を最小にする減災という考え、不十分な情報のもとでも機能する備えや訓練、広域的な対応のとれる制度、防災教育、経験の後世への伝承の必要性等、大規模な自然災害に関する多くの教訓を得ました。

科学技術に関しては、最近、世間を騒がせている研究者としてのモラル問題は、この数年、はやぶさの帰還や鈴木先生、根岸先生、山中先生のノーベル賞受賞、スーパーコンピュータ「京」の成功等を通じて、我が国の科学技術の素晴らしさを感じていただけに、残念なことであります。一方で、昨年の2020年の夏季オリンピックの東京開催決定やいわゆるアベノミクスの効果など、明るい兆しもいくらか見えてきたように思います。

このような学内や国内外の状況の中で、皆さんは、この4年間あるいは6年間、卓越した先生がたの指導を受け、仲間と共に勉学や部活に励み、また、先輩や後輩と共に過ごし、互いに影響を受け合いながら、社会との関わりを通じて成長し、大きな達成感をもって本日の卒業式を迎えたことと思います。

皆さんは、これから大学院に進学、あるいは就職して社会に踏み出すわけですが、そこでは様々なチャレンジが待っています。それらに、大胆に、粘り強く、しかもスピード感をもって対応しなければなりません。

そのためには、これから進学する大学院や就職する社会において、皆さんにどのようなことが期待され、求められているのか、それを知っておくことは極めて重要だと思います。そのような期待や要請は、実は、大学の取組みや文部科学省等の施策に現れています。そのいくつかを紹介しておきます。少なくとも、そこに現れるキーワードのいくつかについては意識しておいて頂きたいと思います。

まず、九州大学では、2011年の創立百周年を記念して、先ほど触れた九州大学基金を始め、様々な事業を実施しています。また、新たな百年に向けて、「九大百年、躍進百大」、すなわち,すべての分野において世界のトップ百大学に躍進する、というスローガンを掲げ、「自律的に改革を続け,教育の質を国際的に保証するとともに、常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」という基本理念のもとに、次のような九つの目指す姿とその実現のための行動計画を宣言しています。

一、社会の課題に応える大学
二、最高水準の研究を推進する大学
三、アクティブ・ラーナーを育成する大学
四、骨太のリーダーを養成する大学
五、先端医療により地域と国際社会に貢献する大学
六、卓越した研究教育環境を構築・維持する大学
七、グローバル社会と地域社会を牽引する大学
八、自律的改革により進化し続ける大学
九、知の蓄積と継承・発信を推進する大学

これらは、九州大学としての目指す姿ですが、当然、社会や学界等からの本学に対する期待や要請を反映したものになっています。これから大学院に進学し、あるいは企業等に就職する皆さんの今後の活躍なしではこの目指す姿は達成できるものではありません。このスローガン、理念、目指す姿を皆さんに共有して頂き、皆さんの目標にもして頂きたいと思います。

また、九州大学は、九大百年に際して、平成23年10月に「基幹教育院」を創設し、これまでの教養教育あるいは全学教育というものを全面的に見直し、2年半に亘る周到な準備を行って参りました。いよいよこの4月入学の新入生から「基幹教育」がスタートします。この基幹教育とは、先ほどの「目指す姿」の3番目にもありますが、学生が、自律的に生涯にわたって「ものの見方を学び、考え方を学び、学び方を学び」続けるアクティブ・ラーナーを育成するものです。

皆さんは、この新しいシステムとしての「基幹教育」を直接は受けてはいませんが、大事なことは、生涯学び続けるという態度とチャレンジ精神、行動力を身につけることです。それらは、これからでも可能です。皆さんは、これまで、個々の知識だけを学んできたのではない。それぞれの知識を学ぶプロセスを通じて、「学び方」や「考え方」を学んできたのです。つまり、皆さんも実は、アクティブ・ラーナーとしての基本を身に付けているのです。ですから、未知のこと、未経験の課題や事態への対応の仕方の基本は身に付いているのです。是非、そのように考えて巣立って頂きたいと思います。

さらに、九州大学では、文部科学省等の支援を得て、国際化推進のための様々な教育プログラムに取組んでおります。例えば、G30プログラムやグローバル人材育成推進事業、世界展開力強化事業、博士課程教育リーディングプログラム等です。これらは、社会からの大学や学生、若い世代に対する要請や期待を反映したものになっています。

G30は、留学生30万人計画を推進しようとするもので、本学でもこの5年間に留学生数はほぼ倍増しました。「グローバル人材育成推進事業」は、最近の日本における若い世代の「内向き志向」を克服し、国際的な産業競争力の向上や国と国の絆の強化の基盤として、グローバルな舞台に積極的に挑戦し、活躍できる人材の育成を図るため、大学教育のグローバル化を推進しようとするものです。本学では、農学部が「国際的アグリバイオリーダー育成」に取組んでいます。

「大学の世界展開力強化事業」は、世界に雄飛する人材の育成、教育の国際的な質保証、日本人学生の海外留学と外国人学生の戦略的受入、アジア・米国等の大学との協働教育等を行う事業です。本学では、エネルギー環境理工学、地球資源工学、法学のスパイラル型恊働教育に関して、アジア諸国との協働教育を展開しています。

「博士課程教育リーディングプログラム」は、優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え、広く社会にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くため、 産学官の参画を得つつ、専門分野の枠を越えて博士課程前期・後期一貫した質の保証された学位プログラムです。本学では、全学府が参加できる「持続可能な社会を拓く決断科学」、工学府を中心にした「分子システムデバイス」、総合理工学府を中心にした「グリーンアジア国際戦略」の3件が文部科学省の事業として採択されています。これに加えて、本学独自のリーディングプログラムもあり、地球社会統合科学府の「フューチャーアジア創生」、数理学府の「キーテクノロジーを牽引する数学博士」、医学府の「新世代コホート」がスタートします。

以上、少し時間を割いて、九州大学で取組んでいる重要な教育プログラムについて紹介しました。社会はどのような人材を求めているか、理解して頂けたと思います。

皆さんの中には、卒業後大学院に進学する人が大勢いると思います。最近、大学院への進学率は高く、主要な大学の理工系では70%~90%に及んでいます。今日の午後に大学院学位記授与式がありますが、修了生は2200名を超えています。大学院進学者は、こうした特別な教育プログラムに、特に、ハードルは高いですが、リーディングプログラムに是非挑戦して下さい。また、企業等に就職する卒業生も、機会があったら、学び直しのため、あるいは、社会人学生として大学院に戻って来て下さい。学びに終わりはありません。

九州大学は、卒業後も皆さんと共にあり、皆さんのためにあります。九州大学は、各種の同窓会等を通じた皆さんとの繋がりを大事にします。九州大学は、皆さんの活動を応援し、皆さんの活躍と成功を通して、様々な分野に貢献し、存在感を示していきたいと考えています。

最後に、自分の教授時代の経験に基づいて、機会あるごとに言っているのですが、皆さんの能力は皆さんが今思っているよりはるかに高い。そのことを信じて、大きく飛躍し、グローバル社会を力強く牽引するリーダーとして大成されることを期待して告辞とします。

平成26年3月25日
九州大学総長
有川節夫