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平成26年度 秋季学位記授与式(2014年9月25日)

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平成26年度 九州大学秋季学位記授与式告辞(2014年9月25日)

本日は、学士64名、修士107名、専門職学位課程修了者2名、博士185名、合計358名の皆さんが卒業・修了します。この内、留学生は197名です。皆さんの、これまでのたゆまぬ研鑽努力に対し深い敬意を表し、心からお祝い申し上げます。

また、皆さんのこれまでの学習・研究を支えて下さったご家族、ご指導を頂いた先生がた、学科・専攻・研究室等の関係者に対しても、心からのお祝いと御礼を申し上げます。

九州大学では、210年10月からグローバル30という教育の国際化プログラムにより設置した国際コースの入学生を対象にして秋入学を実施してきました。この国際コースには、工学部と農学部、大学院では、すべての学府が対応し、合計60近くのコースを設けています。2012年度からは、これらの国際コースに加えて、大学院やJTW、JLCCといった短期プログラムへの入学生も一緒にした、秋季入学式を実施しています。

博士の学位記授与式は、過去においては、毎年何回も行ってきましたが、最近では、春の他は、学部や修士課程も一緒にして、秋に行うようにしています。秋季の入学式は日本語に不慣れな留学生が主体ということもあり、英語で行っています。今年は、G30の国際コースの学部学生20名が初めて卒業します。入学式からすべて英語で行われて来ましたが、卒業式(学位記授与式)は、皆さんの日本語能力も向上しているということで、例年に倣って日本語で行っています。

さて、皆さんが在学していた2年から6年の間に、また、論文博士の皆さんが学位論文に取り組んできたこの数年間に、九州大学は大きく変わりました。

まず、大学における教養教育を基本から考え直し、アクティブラーナーの育成を目標にして、学び方を学び、考え方を学ぶ、主体的で能動的な学びの姿勢を身に付けてもらう「基幹教育」を、2011年に新設した「基幹教育院」の先生方を中心に2年半に及ぶ周到な準備をして、この4月から全学の先生方が参加して開始しました。今年の新入生から「学びのモード」が変わりました。同時に、先生方の「教えのモード」も変わりました。

この伊都キャンパスへの移転事業は国の財政状況の厳しい中にありながらも順調に進んでいます。既に、学生、教職員、合わせて12000人が集う、本学最大のキャンパスになっています。来年の秋には、理学系が移転し、2018年度までには、残りの農学系、人文社会系等すべての移転が完了する予定です。今年の2月には、この椎木講堂が完成し、4月には大学の本部機能も移転しました。また、つい先日、留学生と日本人学生が一緒に生活する伊都協奏館とドミトリー3が完成しました。

移転の効果が教育・研究に目に見える形で現れてきました。もともと、このキャンパス用地は、遺跡等の考古学的資源に恵まれ、また、自然に恵まれていました。そこで、日本を代表する基幹総合大学の責任と誇りを持って、造成に関しては、遺跡や自然環境、生物多様性に最大限の配慮を行って来ました。こうした分野において、例えば、「アジア埋蔵文化財研究センター」の設立や大学院「地球社会統合科学府」の創設、リーディング大学院プログラム「決断科学」の採択・活動に見られるように、各方面から高い評価を得て、注目されるようになってきました。

また、それまで、3カ所に分散していた数学系は伊都キャンパスに初めて集結してその活動は劇的に活発化し、21世紀COEプログラムをグローバルCOEに繋ぎ、それらの実績をもとにして、アジアで始めての産業数理学の研究所「マス・フォア・インダストリ研究所」を設置し、全国の共同利用・共同研究拠点としての認可を得て、日本のそして世界のこの分野の中核拠点として脱皮し、際立った活動を始めています。

最初に移転した工学系の機械工学や応用化学が中心になり、究極のクリーンエネルギーである水素エネルギーやCO2削減、貯留等に関する研究に組織的に取組み、WPI、すなわち、世界トップレベル研究拠点に選定され「カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所」設置し、米国イリノイ大学からSofronis教授を所長に迎えて、文字通り世界トップレベルの研究が展開されています。また、水素エネルギー関係では、経済産業省の支援を得て、「次世代燃料電池産学連携研究センター」が設置され、新キャンパス移転直後から活動していた「水素エネルギー国際研究センター」やNEDOの支援を得て設置された「水素材料先端科学研究センター」、「水素ステーション」等も含めて、施設面でも研究面でも世界NO.1の拠点が形成されています。

世界最先端の有機ELデバイス研究や味覚・嗅覚研究、水中グリーンケミストリー等、際立った研究が進み、世界中から注目されています。これらすべてが、この新キャンパスという舞台があってこその成果であると言えるでしょう。これから、続く理学系はじめ農学系、人文社会系にもそうした飛躍を皆さんと共に期待したいと思います。

大学としては、2011年に百周年を迎えました。創立100周年という節目に相応しいいくつかの重要な記念事業を行いました。稲盛財団からのご寄付による稲盛財団記念館や椎木正和様からのご寄付により椎木講堂などの建物の整備、京セラからの寄付金を活用した稲盛フロンティア研究センター等の研究組織の創設等を行い、さらに、卒業生や一般市民、企業など1万件を超える個人・団体から頂いた多額のご寄付を元手にした、「九州大学基金」を創設し、学生や若手教職員の海外研究支援等、数多くの支援助成活動を既に開始しています。

その中のひとつで、本学初代総長山川健次郎先生のお名前を冠した「山川賞」は本日第三回目の授賞式を行います。受賞者の学生諸君から、受賞者の能力の高さ、勉学への意欲、コニュにケーション能力の高さ、グローバル社会を牽引しようとする高い志など、若い学生にグローバル人材としての資質と可能性を確信させられています。

日本では、3年半前に起きた東日本大震災から復旧・復興がままならない状況にあって、度重なる大水害等の自然災害が頻発しています。予報を含めた科学技術がこれほど進んできても、依然として自然の力の凄まじさを認識させられています。政治や経済財政に関しても不安定で低迷した状況が長く続いていましたが、第2次安倍内閣誕生以来、安定感と景気や雇用にも好転の兆しが感じられるようになって来ました。しかし、少子高齢化社会の進行、人口減少、地方の過疎化・衰退等のように深刻さを増しつつある数多くの問題に直面しています。国も具体的な指針を示し、政策も掲げていますが、大学にも、そうした社会の未来に対する処方箋を示し、新しい価値観や文化の方向性を提案し、発信することが求められていると思います。

アラブ諸国での反政府デモや暴動、政変など世界的な政情不安が続き、民族間や、宗教・宗派間の深刻な対立や暴動、各種のテロ行為等、深刻の度合いはますます大きくなっています。日本を取り巻くアジア諸国においても、不毛な対立や特に政府間の不要な緊張が続いています。こういう状況にあっても、特に、我々大学人は、民族や宗教、文化や認識等の違いや多様性をお互いに認め合い、尊重し合い、研究や教育を始めとする様々な交流を推進し、維持することが重要です。この意味でも皆さんのこれからの活躍に期待されるところが大きいと思います。

博士の皆さんに、学位記授与式に必ず言っていることですが、物事を深く極めようと努力をすればするほど視野が狭くなりがちです。「深く掘った分だけ、高みに登り、周囲を俯瞰する」ように心がけて欲しい。そうして、社会や学界が求めている課題を見極め、これまでの知識を活用して、また、時には、援用して、解決策を模索し、タイムリーに提言を行うなど、様々な形で世の中の期待に応えて頂きたい。

そのためには、これは、学士や修士の皆さんにも、お勧めしたいのですが、研究で得た事例や日常生活での経験を、出来るだけ、しかし、過度にならないように、一般化して、その一例として、その事例や経験を捉え直して見ることを習慣付けて下さい。そうすると新たな広がりが見え、新しい局面に際しても、迅速な決断が出来るようになると思います。これは、問題解決に使われるインダクションやアブダクションと呼ばれる推論に関係することでもあります。問題解決には、過去に経験した類例に学ぶ類推(アナロジー)を援用することも大事です。大学では、いくつかの事例を学び、経験してきたのです。それらは、自分で一般化し、また、援用し、直面した新たな課題や事象に適用しなければ、意味がありません。

最後に、皆さんの今後の活躍を、特に、文化の多様性に対する深い理解に基づくグローバル社会のリーダーとしての活躍を祈念して、告辞とします。

平成26年9月25日
九州大学総長
有川節夫