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平成17年度 学士学位記授与式(2006年3月27日)

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平成17年度 九州大学学士学位記授与式告辞(2006年3月27日)

 本日、ここに集われている2,250名の学部卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。九州大学で教育・研究を受け、大学生活の中で自己啓発をされ、九州大学の卒業生として誇りを持って晴れて社会へ巣立たれる皆さん、さらに国内外の教育・研究機関における大学院教育等で一層研鑽を積み努力をされる予定の皆さんを前にして、希望、誇り、満足感という皆さんの熱気を、今私自身、直に感じています。また、本日は皆さんの大先輩である日本通運株式会社代表取締役会長の岡部正彦様をご来賓としてお迎えし、祝辞を頂戴できますことを、九州大学を代表して厚く御礼申し上げます。

 皆さんが九州大学で教育を受け、卒業研究あるいはゼミでの課題研究などに合格し、学部卒業という輝かしい到達点に達することができましたのも、学生の皆さんの努力の賜であることは勿論ですが、経済面から精神面に至るまで学生生活を支えていただいたご家族の愛情、人間的、社会的に独立できるよう教育・研究・ゼミの指導をしていただいた大学の教職員の励まし、さらに人の心の温かみと痛み、人間的絆とは何かなど直に接して教えてくれた先輩、友人らの深く広い支えを忘れてはなりません。皆さんは、若さがある故の、全て自分でできるという自信はよいのですが、この人生の節目である新しい門出を迎えられたのも、数知れない多くの方々の目立たない支援があったことも忘れてはなりません。

 第二次世界大戦終了より61年、日本は、80年代の経済的バブルとそれに続く経済的破綻と長い期間のデフレと低成長を経験してきましたが、依然として世界第2位の工業生産力を維持し、世界平和の確保と世界市民の生活向上、さらに世界経済発展に力強く貢献しています。しかし、近年、私達の身の回りで起こる社会的・政治的・経済的事件を見ても、戦後61年で、日本国民の中で何か箍が緩んできたのではないかと残念でなりません。戦後の家庭教育・初等・中等教育、高等教育さらに社会での青少年教育にその原因を負わせることは簡単ですが、そのことだけを議論しても何の解決にもなりません。建物の強度不足、資本主義社会の自由経済でのモラル欠如、乳幼児に対する痛ましい事件等、日本人はいつから社会的に無責任で、政治倫理の欠如や他人を思いやる愛情の乏しい国民になってしまったのでしょうか。社会を先導し規範となるべき人達が、私利私欲を追い求める社会現象を、私達はただ嘆いていても仕方がありません。

 社会への門出という卒業式で、皆さんは九州大学で何を学び、これから社会へ如何に貢献できるか、考えてみましょう。九州大学の教育憲章には人間性、社会性、国際性と専門性を身に付けた学生を育成するとあります。九州大学での4年間に、大学という教育・研究の現場で、学生としてあるいは社会人として学んだことは数知れずあったと信じています。大学で身に付けた社会人としての知識と見識、さらに専門性、人間性をもってすれば、皆さんは今後計り知れない程の社会的貢献を行なうことができます。21世紀社会で日本ではどの様な人間を求めているのでしょうか。卓越した知能と見識で日本あるいは世界をリードする人間が求められているのは確かですが、私達全てがこの様に超人的な能力をもち、行動ができるわけではありません。私達、個人個人が、個人の能力に見合った社会貢献をすることは、それ程難しいことではありません。これからの社会が求める21世紀型市民とは、人間性、社会性に優れ、倫理観を持ち、社会常識と専門性を身に付け、かつ自分の能力、行動力に合わせて日本社会を先導することのできる人材です。日本社会で政治不信、経済的モラルの欠如、社会的信頼性の低下等数多くの問題がありますが、これらをひとつでも改善できるのは皆さんの純粋な気持ちと積極的な行動しかありません。九州大学で4年間勉強した皆さんには、自ら進んで日本社会を先導するという社会的貢献と責務が求められていると私は信じています。社会を先導するといっても、日本社会・政治・経済を変えると言った大袈裟な行動でなくても、自ら意識的に社会との接点を持ち、日常生活の中から地道に社会に積極的に参加する、例えば地域ボランティア等、皆さんが今すぐ実行できることは身の回りに沢山あります。九州大学で学部教育を受けた皆さんは、高い道徳心と高邁な理想を追い求める実行力を身に付けられ、協調性と正義心を持った社会の先導者となることが期待されています。皆さんの一人一人の小さな努力の積み重ねが、やがて日本を良い方向に変える大きなエネルギーとなると私は確信致しております。

 今まで述べてきました「社会への積極参加」の具体例として、九州大学の学部四年間で人文科学、社会科学、自然科学、芸術工学を学んできた皆さんの学習成果の社会遷元について、次にお話しましょう。

 平成18年度から始まる第三期科学技術基本計画には、安心・安全で質の高い生活ができる国を実現するとありますが、地球上の全ての国でこのことが可能になるよう、日本を含めた先進国が義務として努力しなくてはなりません。私達の地球には多くの人が異なった環境で暮らしています。地球上の多くの人々の生活環境は、地勢・地形、気候、水資源など様々な要因によって異なります。即ち地球がもたらす豊かさと貧しさ、温和さや苛酷さ、あるいは住み易さ・住み難さなど、地球上には様々な生活環境があります。また、地球規模の地理や気候条件が同じであっても、政治的、経済的、文化的、宗教的要因によって、私達の生活の状況は著しく異なってきます。さらに自然災害、感染症などの病気あるいは内戦や宗教的争い、さらにテロにより多くの国々の人が悲惨な生活を強いられています。私達、人間は地球上で幸せに、豊かに生活をするという人間として等しい権利を持っているにもかかわらず、地球上での生活状態は国、地域、民族によってあまりにも異なっていて本来、生まれてくるときは平等であるべき生存権利が全く不平等で、様々な苛酷な条件で生活をすることを余儀なくされています。これらの理不尽な地球上の不平等を平等にできるのが芸術・文化と科学・技術の有効な活用なのです。そのための努力と「地球上の平等」の実現こそ、九州大学教育憲章の人間性・社会性・国際性・専門性の具現化であるのです。確かに科学・技術の進展・発展とその活用は、国、地域、企業等に利益をもたらすためにも重要ですが、私達が科学・技術の発展のため、目覚ましい成果を挙げる努力をする最終目標・目的は「生存に対する地球上での平等」の実現であることを、また、それが地球上に住む私達に等しく与えられた責務であることを、九州大学で教育を受けた皆さんに自覚して欲しいのです。

 科学・技術の発展・進展は、皆さんの独創性・創造性なくしては不可能です。独創性・創造性は各個人の学術的、文化・芸術的個性の集積から生み出されるものであり、それを皆さんは九州大学での学生生活の中で個々に身に付けてこられたものと信じています。そのためにも、常にあらゆる事柄に、あらゆる場面で自ら問題を提起し、自分自身で解決する能力を磨いて下さい。

 九州大学は昨年10月1日より伊都キャンパスで教育・研究をスタートさせました。国立大学法人の精神を生かし、市民参加という新しい理念の大学作りに教職員一同邁進してまいります。皆さんが積極的に社会に参加・貢献することにより、世界中の人々が心豊かで安心・安全の生活が実現するよう祈って、告辞と致します。

「人間愛と社会貢献」
平成18年3月27日
九州大学総長  梶山 千里