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法人化に向けて(2004年1月1日)

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九州大学の現状・将来と国立大学法人化(2004年1月1日)

 昨年7月に国立大学法人法が国会で採決され、本年4月1日より始まる法人化体制に向けて各大学で準備が進められています。九州大学は、国立大学法人九州大学に名称が変わります。法人化により大学の運営・経営法、財務会計制度、人事関係制度等が変わり、大学活動の根幹である教育、研究、社会貢献、国際貢献にも各大学の特色・特徴を出すことが要請されています。

 国立大学法人化元年となる平成16年となり、ここに総長として九州大学の現状と将来に対する考えを述べ、さらに法人化により九州大学はどのように変革・改革すべきかを示したいと思います。そして、私が何よりも強調したいのは、平成16年度に九州大学の法人化体制を円滑にスタートさせるために、また法人化体制の下での本格的な競争が始まる平成17年度以降の生き残りをかけた活動を行うために、教職員一人一人の力強い支援と新たな決意、真摯な努力が必要不可欠であるということです。

1.法人化とは

 法人化の基本骨格は、「個性輝く大学」作りを目差した、

  1. 役員会、教育研究評議会、経営協議会を中心とした自主的、自律的な大学運営・経営 体制の確立
  2. 民間的発想と大学運営への学外者の参画
  3. 非公務員型人事システムの導入
  4. 第三者評価機関による透明性の高い評価に基づく改革サイクルの確立

にあります。九州大学では、これら法人化の基本理念を具体化することにより、世界レベルの教育研究の中核的拠点を構築することが求められています。しかし、教育研究の中核的拠点構築や、自主的・自律的大学運営組織の実現は、本来法人化とは関係なく国立大学自らが進んで行うべき改革・変革の一環であり、国立大学の教育・研究の成果や、社会貢献・国際貢献に関する活動を社会に対して目に見える形で示すことが、国立大学の責務です。国立大学の法人化という多分に強制的な仕掛けの大学改革には、大学人として抵抗を感じるところもありますが、大学運営のほとんどを公的資源に頼っている国立大学として、これまで社会的要請に充分に応えてこなかったことは反省すべきです。九州大学の活動の重点4分野(教育、研究、社会貢献、国際貢献)で他大学と比較して特徴のある活動と顕著な成果を出し、大学の活動、成果のピークを社会に対して分かりやすく目に見える形で情報発信することが、教育研究の世界的拠点大学として九州大学が生き残るための唯一の道です。そのために、教職員には、学生や社会という受益者側の発想に立って、活動の専門性、実行のスピード、責任感、倫理観を持った行動が求められます。

 法人化に伴い、大学運営・経営に対して総長のリーダーシップの発揮が強く求められるようになります。そのため従来より一層、教育研究の現場で活躍する教職員との意思の疎通及び意見の汲み上げが重要となります。法人化後も引き続き置かれる部局長会議や各種委員会での意見交換、あるいは組合との話合いもその重要な手段となります。大学の使命は人材育成と基礎研究です。法人化後は外部資金導入のために応用・実用研究が中心となり、基礎研究が疎かになるとの意見もありますが、私は人材育成と基礎研究を中核に据えていくことが九州大学の見識であると信じています。また、法人化後の運営費交付金の配分、就業規則等の法律・規則の適用に当たっては、柔軟で可能な限り教職員にとって効率良く、自由度の高い運用を行うつもりですが、それに対する社会的説明責任を忘れてはなりません。

2.九州大学の現状・将来

 九州大学の活動基盤、将来構想と改革・変革に関する仕掛けについて説明します。九州大学の4重点活動分野は、教育、研究、社会貢献、国際貢献です。これらの四つの活動は、「新科学領域への展開」と「アジア指向」という九州大学の将来構想の二本柱の中で実現され、成果を挙げていくことになります。教員の活動に対しては、教育研究のための資金、研究スペース及び研究員の重点配分と、教育研究に専念できる時間の確保の四つのインセンティブで支援します。これら4活動分野+2将来構想+4支援項目を「4+2+4九大アクションプラン」として、教育、研究の世界の中核的拠点構築のエンジンにしています。

 平成14年度と15年度の文部科学省の「21世紀COEプログラム」に、九州大学からは9件が採択されました。九州大学の歴史と過去の実績を見れば、これは全く不本意な結果であったと残念に思っています。教育研究の拠点形成には、大学の制度や組織整備は重要ですが、教職員の教育研究に対する意欲や競争心も重要な因子です。教育研究における顕著な成果→競争的資金獲得額の増加→卓越した教育研究現場の形成→さらに高度な研究成果を生み出す研究環境の整備、という良循環が持続的に維持されるかどうかは、部局はもとより教員個人の積極性、意欲、競争心に強く依存しています。法人化後6年間の第一ステージで、九州大学及び各部局の社会的評価が決まります。法人化後は今より一層競争的資金が増加し、研究プロジェクトやプログラムが大型化することが予想されます。間接経費を獲得した大学には、間接経費を更に二重に支援する制度も考えられていますし、運営費交付金自体にも競争的資金が導入されています。九州大学構成員の教育研究活動に於けるなお一層の奮起が望まれるのも、九州大学が世界の教育研究の拠点大学として社会的に評価、支持されるか否かは、法人化後の短期間で決まるからです。過去に帝国大学の一つとして国から手厚い支援を受けてきたとか、九州で最高の大学という意識はもはや通用しなくなっています。

 次に、九州大学として今後重点的に行うべき教育、研究、社会貢献、国際貢献について解説します。これらの分野での九州大学の改革は、各種委員会で充分検討され実行に移されているものもありますが、私見も含めて取り組むべき内容を解説してみます。

2-1. 教育:学生の立場に立った授業と社会人教育

 人材育成は大学の最も重要な使命の一つです。全学教育、専攻教育を含む学士課程教育及び大学院教育において、人材育成という原点に戻って教育改革を行うべきです。人材育成の原点とは、

  1. 感動できる感性を養う教育
  2. 社会に役立つという意識を持たせる教育
  3. 社会性、人間性、国際性を身に付けさせる教育
  4. 倫理観を身に付けさせる教育
  5. 創造性・独創性を生み出す教育
  6. 資格を取得させる教育

のことです。

 今後の日本社会では、受益者側に立った政策、施策が行われるべきです。受益者とは、行政では住民、企業では消費者、利用者であり、大学では学生です。法人化後の九州大学でも学生の側に立った教育方法の改善が行われるべきです。学生の側に立った授業とは、学生が理解でき、上記の1)~6)を実現するための工夫がなされていることです。授業方法の改善として、

  1. 週複数回授業による理解度の向上
  2. プレースメントテストの実施と習熟度別クラス編成(英語、数学、物理、化学等)
  3. 学生による授業評価と活用
  4. 全学FDの実施
  5. 問題提起型授業による独創性・創造性の啓発
  6. 授業のIT化とe-learning教育の実施
  7. 授業科目のコード化
  8. インターンシップの実施
  9. 留学生に対する外国語による授業の組織化と一元化

等が挙げられます。九州大学は、今後学生に授業内容を習熟させ、どのような学生を育てたか(アウトプット)だけでなく、どのように社会に役立っているか(アウトカム)という評価に耐えられる人材育成を行うことができるよう、教育改善を行っていきます。

 九州大学の教育制度の特色である「21世紀プログラム」の6年間一貫教育と国際性を育むための制度の確立や、「学府・研究院制度」を利用した新教育組織(学府)の立ち上げ、それをトリガーにした新教育・研究組織の構築がなければ、九州大学の教育制度の特色を生かすことはできません。幸いにも「21世紀プログラム」は、文部科学省の平成15年度の「特色ある大学教育支援プログラム」に採択され、新しい展開と充実、さらにその考え方を基礎とした全学的展開を図っているところです。また、平成15年度は、「学府・研究院制度」の特色を活用して6研究院と2研究所の教員の協力により、システムバイオテクノロジーやゲノム研究者の育成、DNA診断・治療に関するベンチャー企業家の育成をも目差した「システム生命科学府」をスタートさせました。

 日本の国立大学は、従来、社会人教育にほとんど貢献してきませんでした。一度大学を卒業した後に大学で勉強することを希望する社会人のキャリア・アップ、資格・技術・法律知識の更新あるいは身に付けた専門と異なる専門職大学院への進学など、バラエティーに富み、深くて広い知識を身に付けた社会人の育成は、法人化後の国立大学の重要な社会貢献の一つです。18才就学人口減少による人材発掘として、社会人の再教育と優秀な留学生の獲得が、今後九州大学としても重要な教育政策と戦略になります。平成13年度に、九州大学は社会人教育あるいは専門職大学院として、医療を統合・調整・組織化できる人材育成のために、医学系学府に「医療経営・管理学専攻」を設置・スタートさせましたし、平成15年度には、技術の分かるアジアビジネスに精通したMBA育成のため「ビジネススクール」を開校しています。また平成16年度は、実務プロセス重視で真の法曹育成を目差して「ロースクール」を開校します。今後、九州大学の専門職大学院として「感性・デザインスクール」、「経営者育成スクール」、「知的財産管理者養成スクール」等の社会人教育コースを実現したいと思っています。さらに、各学府で特色ある寄附講座を獲得することも、九州大学の教育研究戦略として重要な課題となります。

2-2. 研究:基礎研究のレベルアップと世界レベルの研究拠点構築

 九州大学が質の高い基礎研究の成果の情報を発信し続けることは、文系、理系を問わず大学の存在理由であり、社会的使命の一つです。そのため法人化後も、大学として基礎研究を強力に支援することは九州大学の見識であり、責務と考えています。但し、基礎研究であってもその成果には評価が伴います。そして、その基礎・基盤研究が行われていることが、

  1. 若い人達へ学問的意欲と刺激を与えること
  2. 日本人あるいは地域住民として誇れること
  3. 次世代の基礎研究の進展に役立つこと

等の評価基準を定める必要があります。過去の科学の発展を見ますと、本質的かつ本物の基礎研究であればあるほど、必ず人類にとって役立つ応用・実用研究に発展しています。

 平成14年度と15年度に文部科学省へ申請した「21世紀COEプログラム」の採択結果は、総合大学として研究拠点校である九州大学にとって、必ずしも満足のいくものではありませんでした。九州大学として、特定研究領域でのスーパースターの養成や学際的研究の推進とレベル向上を真剣に考えないと、九州大学が研究拠点校から脱落する可能性があることを警告する結果であったと、総長としては真摯に受け止めています。世界レベルと比較して九州大学としての特色があり、かつ卓越した研究成果を、世界に向けて有効に情報発信してこなかったこともその一因です。「21世紀COEプログラム」の結果に対する反省点をチェックすることも重要ですが、それ以上に世界レベルの研究・教育の成果の情報を社会に発信し続け、九州大学の実力を世界に認知させておくことが、「21世紀COEプログラム」をはじめとする大型プロジェクトの採択には不可欠です。研究・教育拠点作りのための組織再編成は教員人事が成否を決めます。平成16年度の国立大学の法人化後は、教育、研究、社会貢献、国際貢献を含むあらゆる分野、領域でますます競争制度が導入されます。前述しましたように運営費交付金と言えども、過去の校費のように大学の規模等で一律に決まるのではなく、競争的資金がかなりの割合を占めます。「21世紀COEプログラム」の採択結果、科学研究費補助金の獲得状況、国の大型プロジェクトへの採択結果、奨学寄附金の受入れ状況から判断しますと、総合大学としての九州大学は、研究・教育の一流の拠点校として満足できる状況ではありません。法人化後の競争社会で、九州大学は拠点大学として勝ち残れるかどうかの瀬戸際に置かれていると、総長としては認識しています。

 九州大学が研究分野で今後行わなくてはならない事項としては、

  1. 特定研究領域でのスーパースターの育成と獲得
  2. 大学のランク付けの尺度となっている「21世紀COEプログラム」の平成16年度の 採択
  3. 地域として特色・特徴のある研究支援
  4. 重要研究プロジェクトの組織化、センター化
  5. 人材の先行投資による新研究・教育組織の重点整備
  6. 研究により得られた知的財産の保護と有効活用
  7. 九州大学関係者のノーベル賞受賞

等があります。

2-3. 社会貢献:社会人教育と産学連携

 現在、九州大学が行っている社会貢献関連事項として高大連携、公開講座、大学発成果発表、企業との共同研究等があります。社会貢献としては、今後、社会人教育と産学連携が二大重点項目になります。社会人教育については既に「2-1.教育」の項で述べましたので、ここでは産学連携関係に絞って解説します。

 法人化後の産学連携を意識して、九州大学は新しいビジネスモデルとして企業に対して包括型産学連携を提案し、複数企業との間で新しい制度の共同研究が既にスタートしています。包括型産学連携とは、従来型の「企業」対「教授(講座)」の線的関係から、「企業」対「大学の研究グループ(リサーチコア等)」という面的関係となることです。共同研究の進行状況のチェック、知的財産配分等、共同研究に関するあらゆる問題を、企業と大学双方のスタッフからなる推進協議会が全責任をもって解決していくものです。大学側からの研究成果に大学として責任を持つという制度の確立は、大学と企業の間に信頼が醸成されるという意味では非常に重要です。新制度の下では、共同研究遂行中の組織の再編成や、研究内容の変化等が容易になり、従来の問題解決型から課題発展型の共同研究体制となっています。また、共同研究のスタート時から企業・大学の研究者が互いの研究室を利用して共同研究を推進するという形式になっていることも、従来型の大学に於ける共同研究体制と異なるところです。現在の包括型産学連携は、九州大学と各企業との共同研究ですが、将来は九州大学と同種企業の連合体との共同研究、即ち産業別包括型産学連携に発展させたいと思います。平成15年10月に文部科学省の支援により設置された知的財産本部と、現在43ある、九州大学の特色ある研究グループである「リサーチコア」が包括型産学連携の推進に多大な貢献をしています。九州大学では国内外の包括型産学連携の推進、ベンチャービジネスの展開、特許の取得、知的財産の保護等に産学連携チームが活躍しています。産学連携チームは、国内外でビジネスマインドと社会貢献のノウハウを身に付けた文系、理系を問わない若い教員で構成されており、異なった文化と経験を身に付けた集団がその個々の特色を如何なく発揮しています。

 今後九州大学が社会連携として推進すべき事項は、

  1. 実効ある高大連携
  2. インターンシップの拡大
  3. 新領域の専門職大学院の設置
  4. 機関所属の特許数の増大と企業への利用の拡大
  5. 大学発ベンチャービジネスの支援
  6. 包括型産学連携の拡充と産業別産学連携の組織化
  7. 知的財産本部と(株)産学連携機構九州(TLO)との共同展開

等があります。

2-4. 国際貢献:実質的で実効ある国際交流を目差して

 九州大学は、世界の多くの大学との間に大学間、部局間あるいは学生のための交流協定を結び、既に教職員や学生が活発に交流しています。現在進めているアジア地域での国際交流は、従来の九州大学と個々の海外の大学との間で結ばれた線的交流から、九州大学とアジアの拠点大学の集合組織との交流、即ち面的国際交流へと変化しています。その例として、九州大学が中心となって構築した、アジアの拠点大学を面で結ぶユニバーシティネットワークがあります。また、平成15年よりアジアの拠点大学と九州大学との間で互いにブランチオフィスを開設しており、国際交流は勿論のこと教育と研究分野の協力や産学連携を目に見える形で実質的に進めていきます。また、東アジアの拠点大学に九州大学の研究センターを開設する交渉も進めています。これらのブランチオフィスや研究センターの開設は、アジアの拠点大学との間の学術交流、学生交流の促進に役立ちますが、それに加えてアジアからの優秀な留学生獲得の一方策としても利用したいと思っています。東アジア地域の研究拠点大学の連合への加盟も、九州大学を東アジアの拠点大学の一つとして認知させるために不可欠です。世界の拠点大学との教職員派遣、学生の単位互換等実質的交流が、九州大学の名を世界に広めるための重要な手段となり、九州大学を教育研究の拠点大学として世界に認知させることに繋がります。九州大学ブランドを世界的に認知させることが、法人化後の国際競争社会での九州大学の生き残りに不可欠となっています。また、アジアだけでなく欧米にも九州大学のオフィスを設置し、世界の学術情報の収集と九州大学の情報発信を行います。

 アジアの拠点大学との目に見える形での交流の一例として、上海交通大学との国際的包括型産学連携があります。上海交通大学は江沢民前中国国家主席の出身大学であり、中国の最重要拠点大学の一つです。九州大学と上海交通大学が協力して、両地域の地場産業の活性化と、中小企業間のビジネスのスタートを支援しています。中小企業中心の地場産業に対して、両地域の企業間のビジネススタートに向けて必要な信頼感を両大学が保障するという組織体制を作っています。この国際的包括型産学連携組織には地域行政も参画し、現在、機械、自動車産業を中心に、両地域の中小企業間にビジネスチャンスが拡がりつつあります。勿論、九州大学としては、上海交通大学のベンチャービジネスへの展開や同大学が持つ上場企業の経営法を学ぶチャンスにします。

 国際交流として九州大学が展開すべき事項としては、

  1. 東アジアの研究拠点大学連合への加盟
  2. 情報発信、収集のための九州大学のオフィスを世界の主要国に設置
  3. 九州大学研究センター、ブランチオフィスをアジアの拠点大学に開設
  4. 国際的包括型産学連携校の拡大・拡充
  5. 有効な教職員交換、学生の単位互換の実施

等があります。

3.大学改革

 大学の構造改革や運営・経営戦略の策定は、国立大学の法人化と直接結びついているものではなく、法人化と関係なく国立大学が自主的、自律的に行うべきものです。大学の運営の大部分を国費に頼っている現状では、大学の教育研究の成果、即ち「知」を創造しそれを社会に還元することは当然の責務です。九州大学が教育研究分野で世界の拠点大学として生き残るためには、制度、組織の変革も必要ですが、世界の一流大学となるという教職員の意識改革と意欲、さらに競争心がまず不可欠となります。教育研究に対して常に積極的でチャレンジ精神を持つことは、教員個々の意識、努力と情熱に頼らざるを得ないからです。また一方、外部資金、競争資金の更なる獲得が、教育研究環境を一層良くすることは疑いもありません。教育研究における教員の卓越した成果と競争資金の獲得に対して、学内に評価制度を確立し、研究資金、研究スペース、研究員の配分、研究時間の増加等により、顕著な活躍をしている教員への優遇措置を明確にしたいと思います。

 事務職員の意識改革と事務組織の再編も、法人化後の大学運営・経営に総長のリーダーシップを発揮するために不可欠です。法人化後の大学運営組織は各担当理事の下に対応した事務組織が直結し、事務職員が担当理事の職務と責任を直接支える組織にするつもりです。この組織化により、教育、研究、社会貢献、国際貢献、キャンパス問題等、大学で協議、検討されている諸事項が直ちに総長に伝わり、大学運営・経営に対する総長のリーダーシップが発揮しやすくなります。法人化後の大学運営に、教員組織と事務組織の間で意識や認識の不一致があってはならないし、九州大学を教育研究の世界レベルの中核的拠点校とするためにも、教職員が一丸となって行動することが望まれます。

 大学運営、組織、人事、研究に係る現在の課題としては、

  1. 講座制度の見直し
  2. 高度専門職員の育成、確保(知的財産本部、産学連携、国際交流、社会人教育、留学 生教育、医療経営等)
  3. 人材の先行投資による先端教育・研究拠点形成
  4. 契約制、年俸制、任期付雇用の拡充
  5. 教員選考方法の改善
  6. 若手教員への重点的支援
  7. サバティカル制度の導入
  8. 兼業の規制緩和
  9. 競争的スペースの拡充
  10. 世界レベルの研究拠点形成
  11. 教員の申告による教育・研究義務時間の配分決定と評価制度の確立

等があります。

 以上、法人化後の問題、九州大学の現状、将来構想について、総長として個人的見解も含めて解説しました。法人化一年目の平成16年度は、法人化体制確立への移行期と考えており、教育研究現場における教職員の意見の汲み上げの仕組みや待遇等は、国立大学時代とほとんど変わらないと思っています。但し、法人化の精神である特色ある優れた大学への移行や、法人化体制の下で可能となる規制緩和等は着々と進めていくべきですし、法人化後も九州大学の現状が何も変わらないのでは、社会的にも認められません。私立大学を含めて本格的な大学間の競争が始まるこれから、九州大学がブランド大学として生き残れるかどうかは、平成16年度の法人化移行期における大学構成員の意識革命、組織改革、財務体制構築、産学連携、国際交流活動、評価等にかかっています。九州大学の全構成員の融和、信頼、協力がこれ程求められている時はありません。

2004年1月1日
九州大学総長 梶山 千里