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平成26年度 学士学位記授与式(2015年3月25日)

総長式辞・挨拶等

平成26年度 九州大学学士学位記授与式告辞(2015年3月25日)

本日、九州大学から新たな一歩を踏み出す学部卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。今年は、2,575名(男性1787名、女性756名、留学生32名)の学部学生が九州大学を卒業します。九州大学教職員を代表して皆さんの卒業を心よりお祝いいたします。また、今日まで長きにわたって皆さんの勉学を支え、励まし、指導してこられたご家族や関係者の皆様に心からお慶び申し上げます。

九州大学でのこの4年間あるいは6年間で、先生方の指導を受け、学業、クラブ活動、友達・先輩・後輩たちとの交流、ボランティア活動などの社会活動そして読書などを通してさまざまなことを学び、体験し、成長したことと思います。

また、青年期は自己のアイデンティティーや方向性の確立の時期でありますが、皆さんは学生生活の中で確立されてきたことと思います。そして、今回学士という学位を授与されたわけです。これからは経済的にも親から独立して本当の意味での自立した社会人になるわけです。

ところで、学位記授与式は、昨年よりこの椎木講堂で行われるようになり、今回で2回目となります。この椎木講堂は九州大学の創立百周年記念事業の趣旨にご賛同を頂き、世界に冠たる最高水準の教育研究拠点を目指す九州大学の理念に共感し、人類社会の持続的発展に貢献する優れた人材が多く育っていくことを願って、椎木正和様のご好意によりできたものであります。このように最高に立派な講堂を寄贈して下さいました椎木正和様に、この場を借りて改めて深甚なる謝意を表したいと思います。

平成21年4月から、すべての入学生の授業すなわち全学教育はここ伊都キャンパスで行われています。今日卒業する皆さんは、九州大学での学生生活を伊都キャンパスで始めたことと思います。その頃からキャンパスは大きく発展してきています。

この伊都キャンパスは、平成17年秋に工学系の第一陣が移転して開校して以来、10年が経過しました。伊都キャンパスの整備が着実に進んでおります。伊都キャンパスは第1ステージから、第2ステージを経て現在第3ステージであります。

本年秋には理学系の建物が完成し、理学部等が移転してきます。附属図書館の建設や人文社会系と農学系の移転は4年後の平成30年度までには完了する予定です。そうしますと伊都キャンパスはさらに大きく発展します。
その他の病院地区、大橋地区、筑紫地区キャンパスの整備もなされています。一方、箱崎地区は売却に向けて順次建物の解体が行われています。

ところで皆さんが入学してから、国内外において、実に様々なことがありました。すこし、振り返ってみたいと思います。

国際的には6年前の2009年にはオバマ氏がアメリカ大統領に就任、新型インフルエンザ大流行、2010年にはアラブ諸国で反政府デモ、ギリシャ財政危機、2011年にはニュージーランド地震、2012年にはシリアの内戦泥沼化、2013年にはフィリピン台風被害、昨年の2014年にはエボラ出血熱の大流行、ISIL(イスラム国)の台頭などがありました。これらの出来事は現在まで引き続いております。

国内では、何といっても、一番大きな出来事は、4年前の2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。この地震とそれに伴って起こった津波によって1万6,000人近い貴い命が失われ、いまなお、2,586人の行方が分からず、約21万人が避難や転居を余儀なくされています。 また、福島第一原子力発電所事故の終息にはまだまだ長い年月がかかります。福島県では今も約12万人が県内外に避難しています。これらの方々に改めて衷心より哀悼の意とお見舞いを申し上げます。 明るい話題としては2020年の東京オリンピック開催が決定したこと、昨年は日本人3名がノーベル物理学賞を受賞したことなどがあります。 学内では昨年の主な出来事として本学出身の若田光一さんが日本人初の国際宇宙ステーション船長を務め、本学を訪問したこと、11月には國武豊喜名誉教授が文化勲章を受章したことなどがあげられます。

そして本日、九州大学公用車として燃料電池自動車「MIRAI」(ミライ)が納車され、そのゴールデンキーの受け渡しのセレモニーが行われます。「MIRAI」は椎木講堂の前に展示されております。今日はまさに水素社会の出発日であり、その記念すべき日に学位記授与式を迎えられたことは本当に喜ばしく思います。 この伊都キャンパスで未来のエネルギー社会の具現化に向けて、燃料電池自動車と水素ステーション、大型燃料電池を利用した社会実証実験を行い、自然エネルギーを利活用した将来社会の検討など、未来のエネルギー社会の姿を世界に発信していくことが可能となります。九州大学はエネルギー分野において世界の研究をリードしています。

九州大学では、2011年の創立百周年を記念して、新たな百年に向けて、「九大百年 躍進百大」、すなわち、すべての分野において世界のトップ百大学に躍進する、というスローガンを掲げ、「自律的に改革を続け、教育の質を国際的に保証するとともに、常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」という基本理念のもとに、行動計画を宣言しています。

私は昨年10月に九大に総長就任するにあたり、5つの将来ビジョンを掲げました。

  1. 世界へ躍進する九州大学へ 
  2. 学生・教職員の誇りとなるキャンパス作り 
  3. グローバル人材の育成 
  4. イノベーション創出・研究力強化 
  5. 社会と共に発展する大学

この実現に向けて教職員や学生の皆さんと一緒に努力していきたいと思います。

皆さんは、これから大学院に進学、あるいは就職して社会に踏み出すわけですが、そこでは様々なことにぶつかったり、おもわぬ病気になったりします。そのような時の対処法についてお話したいと思います。

私は昭和48年に九大を卒業し、心身医学、心療内科を専門としてきました。心身医学は体と心の結びつき、すなわち心身相関を研究し、人を身体・心理・社会的側面から全体的にみていく学問です。診療では過敏性腸症候群、拒食症、過食症、慢性疼痛、うつ病、不安症などのストレス関連疾患の多くの患者さんを診てきました。その結果、“病気はその人の素因と人生体験の結晶である”ということです。 素因については高血圧、糖尿病、アレルギーなどのさまざまな病気と遺伝との関連が研究され、解明されてきています。一方、病気の発症や経過には食事、睡眠、運動、仕事、趣味、などの生活習慣や気象、放射線、細菌、ウイルス、ストレス、などの環境因子の多くの人生体験が大きく影響を及ぼします。例えば、私がしました栄養の影響をみた動物実験でも、同じ遺伝子を持っていても栄養の与え方によって寿命が2~3倍異なってきます。

ところで、ストレスと言う言葉は、最初物理学の言葉でしたが、医学の分野に導入したのがカナダの生理学者のハンス・セリエという方であります。ストレスは内的、外的因子によって生体が歪んだ状態を言います。私たちは、生活している以上誰でもさまざまなストレスに直面しています。適度なストレスは抵抗力を高めたりします。しかし、ストレスの期間が長かったり、多くのストレスが一度に来た場合は生体のホメオスターシス(恒常性)が崩れ、体の病気や心の病気を発症します。そのためにストレス対処法やリラックス法を持つことが重要です。

ストレス対策は、ストレス場面から離れる、ストレスを上手に発散する、ストレスを解決する、相談相手を持つ、などです。そして、自分の心身の状態について知ることが重要です。自分の状態に気づくことによってストレスへの対応が柔軟になります。 一方、ストレス反応は同じストレスがきても個人の年齢、性別、人生観、価値観などによって大きく異なります。困難なことに直面した時、自分を励ます言葉や考え方を持っていることは重要です。

先に紹介しましたセリエはストレス対処法について次のように述べています。 “利己的・利他的生き方”が良いとのことです。利己的・利己的でも利他的・利他的でもダメなのです。自分が好きなことをして、それが他人の為になるような生き方ができれば、ストレスが少なく、理想的であります。 私はストレスで悩む患者さんには“昨日のことは悔やまず、明日のことは憂えず、今ここを大切に”などと話したりしております。

さらに、もし病気になった時でもマイナスの側面だけではありません。立ち止まって心身の状態を考えてみることにより、これからの新たな生き方や方向性を見つけることもあります。 皆さんはこれから広い世界に羽ばたいていくことになります。

終わりにあたり、九州大学は、皆さんが卒業されても皆さんと共にあり、皆さんの活動を応援し、各種の同窓会等を通じて繋がりを大事にします。 皆さんが九州大学を卒業したことに誇りをもって、学んだことを生かし、夢を持って今後の未来を切り開いて、大きく飛躍し、グローバル社会を力強く牽引するリーダーとして大成されることを期待しまして告辞といたします。

平成27年3月25日
九州大学総長 久保千春