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平成29年度 大学院入学式告辞(2017年4月5日)

平成29年度 九州大学大学院入学式告辞(2017年4月5日)

 このたび、九州大学大学院に入学される皆さん、誠におめでとうございます。九州大学教職員を代表して心よりお祝い申し上げます。九州大学の学部から進学して来られた方、他大学や社会人から入学して来られた方など色々な方がおられます。新たな気持ちで今日を迎えられたと思います。また、今日まで長きにわたって皆さんの勉学と生活を支え、励ましてこられたご家族や関係者の皆様にも心からお慶び申し上げます。

 今年度の大学院入学生の数は2,496名です。そのうち、博士課程556名、修士課程1,813名、専門職課程127名です。男子1,889名、女子607名で女子が24.3%になります。また、外国人留学生は31ヶ国 392名15.7%です。
 ところで、皆さんがいるこの椎木講堂ですが、3年前に完成し、ここで入学式が行われるようになりました。椎木講堂は九州大学の創立百周年記念事業にご賛同を頂き、世界で活躍し、社会に役立つ人材育成を願って、椎木正和様のご厚意により、できたものであります。このホールは約3,000名を収容でき、この講堂で入学式を挙行できますことを大変喜ばしく思います。

 さて、皆さんがこれから過ごす九州大学の歴史と現状についてご紹介したいと思います。1903年(明治36年)今から114年前に京都帝国大学福岡医科大学が設置されました。その8年後の1911年(明治44年)に工科大学が設置され、医科大学と工科大学が一緒になり、九州帝国大学の歩みがスタートしました。日本で4番目にできた国立大学です。初代総長は、山川健次郎氏でありました。“修養が広くなければ完全な士と云う可からず”という言葉を残しておられます。
 以来、学部等の増設、2003年(平成15年)九州芸術工科大学との統合、2004年(平成16年)大学法人化などを経て現在に至っています。
 九州大学は現在、11の学部と21世紀プログラム、16の大学院研究院、18の大学院学府、4つの専門職大学院、そして高等研究院、基幹教育院、5つの研究所及び最先端の医療を提供する国内最大級の大学病院、420万冊余りの蔵書を誇る図書館などを擁する我が国屈指の基幹総合大学として発展を続けています。
 現在の学生数は、学部学生11,758名、大学院生6,901名、合計18,659名、教職員8,024名、総合計26,683名の大きな組織です。土地面積は、箱崎キャンパス、病院キャンパス、筑紫キャンパス、大橋キャンパスそして伊都キャンパス、附属農場、4つの演習林などを合わせて合計76km2であり、日本で3番目に広い敷地を持つ大学です。

 次にこの伊都キャンパスを紹介します。この伊都キャンパスは、古来より大陸文化を取り入れた伊都の国としての歴史ある場所であります。豊かな自然環境に恵まれた丘陵地で、東西3km、南北2.5kmの広大な敷地です。伊都キャンパスの建設にあたっては自然環境に配慮し、生物多様性の保全に努め、古墳などの貴重な文化財の保存に可能な限りの工夫と努力がされてきています。近くには糸島のきれいな海岸線や田園が広がっております。福岡市の中心部からは離れてはいますが、勉学や研究にいそしむ素晴らしい環境です。
 この伊都キャンパスは、平成17年秋に工学系の第一陣が箱崎から移転して開校以来、12年が経過しました。伊都キャンパスの整備は着実に進んでおります。第1ステージから、第2ステージを経て、現在最終の第3ステージであります。残りは新中央図書館、人文社会学系及び農学系の建物です。最近出来た建物として椎木講堂、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所、センター3号館、一昨年10月に完成した理学系総合教育研究棟などがあります。基幹教育院の建物、九大ゲートブリッジ、寄宿舎のドミトリーⅢ、留学生と日本人の混住する伊都協奏館なども出来ています。学生の寄宿舎としては合計約1,000名入れるようになりました。
 椎木講堂隣の現在建設中の新中央図書館は昨年10月に一部開館し、来年10月に全面開館します。また、伊都図書館は、平成28年4月に地下1階~地上3階までの全館オープンの図書館となっています。
 今後の整備予定としては、農学系総合教育研究棟があります。一昨年12月に安全祈願祭を行い、来年1月の完成に向けて建設が進んでおります。人文社会科学系の総合教育研究棟は、来年2月には完成します。一年半後には移転がほぼ完了し、素晴らしい充実したキャンパスになります。また、大学として福岡市や糸島市と協力し、皆さんが生活しやすいように、交通や生活環境を整備していくことにしています。
 九州大学のその他のキャンパスとして病院地区、大橋地区、筑紫地区のキャンパスがあります。これらのキャンパスもさらに整備し、充実していく予定です。箱崎キャンパスは現在跡地利用計画や売却に向けて福岡市や地域住民との協議を行っています。医歯薬系研究院や芸術工学研究院の皆さんは、これらのキャンパスで研究を行うことになります。

 次に九州大学の基本理念について述べたいと思います。2011年の創立百周年を記念して、新たな百年に向けて、「躍進百大」、すなわち、すべての分野において世界のトップ百大学に躍進する、というスローガンを掲げ、基本理念は「自律的に改革を続け,教育の質を国際的に保証するとともに、常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」としています。
 私は、2年半前に総長に就任しました。大学の主な役割は、研究、教育、社会貢献です。一昨年10月には今後の大学の活動指針となる「アクションプラン2015-2020」を策定しました。6つの項目があります。

  1. 世界最高水準の研究とイノベーション創出
  2. グローバル人材の育成
  3. 先端医療による地域と国際社会への貢献
  4. 学生・教職員が誇りに思う充実したキャンパスづくり
  5. 組織改革
  6. 社会と共に発展する大学

であります。この実現に向けて教職員や学生の皆さんと一緒に努力していきたいと思います。

 これからの大学院生活を送るにあたり、皆さんに3つのことを心にとめていただきたいと思います。一つ目は一流の研究を目指すこと、二つ目は、グローバルな視野、三つ目は社会の課題への挑戦です。

 大学院では、これまでの学士課程で身につけた幅広い知識、教養、技術をもとに、より専門的な知識や技術を習得し、専門性を深化させていきます。徹底した実験、調査、観察を通して新たな真実を導くという研究の感動を味わってほしいと願っています。素晴らしい研究は頭脳が柔らかい若い時代の研究が元になっています。是非一流の研究を目指してください。
 私の留学した時の経験をお話したいと思います。アメリカのオクラホマ医学研究所で1982年から2年間、栄養と免疫・老化についての研究をしました。指導教授はRobert A Goodという著明な免疫学者でした。先生はニューヨークのスローンケッタリングがん研究所から引っ越してきたばかりの時でしたので、設備があまり整っていませんでした。私は、研究設備を見てどのようなことができるかを考えて研究計画を教授に持っていきました。私の研究計画に対して、先生は“この研究計画では不十分である、設備や研究費などは自分が考えるから、本当にやりたい一流の研究計画に作り直すように”と言われました。私は、これまでの関連する研究について改めて勉強し研究計画を立て、やっと先生にOKをもらった次第です。まず一流の研究を目指すことの重要性を痛感しました。
 大学院生時代の特権は、自分の時間が十分に使えることにあると思います。研究の魅力、学問を創る喜び、学会発表、先生や仲間との交流などを体験してください。
 昨年の研究でのトピックスとして、6月に理学研究院・森田浩介教授の研究グループが発見した113番元素の名前としてニホニウムがパブリックレビューとして提案されました。11月には、113番元素名が「ニホニウム」、元素記号が「Nh」に正式決定しました。
 また、医学研究院の林克彦教授による組織由来のiPS細胞から、培養皿上で卵子を作製することに成功したことが挙げられます。

 二つ目はグローバルな視野を持つことです。インターネットの普及、経済や人の交流のボーダーレス化、企業の国際化、などがあり、皆さんは今後、グローバル化社会を生きていかなければなりません。自国の文化や歴史を知り、自分の考え方を国際社会で主張出来る論理的思考力、積極的姿勢や発信出来る語学力を兼ね備えることです。そのための近道は海外留学体験、国際学会での発表や外国人との交流です。九州大学にはグローバル人材育成のためのプログラムがあります。スーパーグローバル大学創成支援事業、博士課程教育リーディングプログラム等があり、皆さんの中にはこれらのプログラムを受ける人もいると思います。
 海外留学制度は九州大学基金を利用する制度、短期留学体験制度、九州大学カリフォルニアオフィスを活用した「ロバートファン・アントレプレナーシップ・プログラム」、「トビタテ!留学JAPAN」などがあります。こうしたプログラムを積極的に活用し、世界に飛び出していただきたいと思います。若いうちに留学体験することにより、学生の皆さんは考え方や視野が大きく変わります。
 また、九州大学は国際化を進めていますが、世界97カ国・地域から2,300名を超える外国人留学生がいます。九州大学の中も多様性豊かな国際キャンパスであります。留学生と日常的に切磋琢磨し交流することで、国際的な視野を身につけ、世界の舞台で指導的役割を担うグローバル人材に育つと思います。

 三つ目は社会の課題への挑戦です。科学技術の進歩は、日常生活の便利さや快適さで恩恵をもたらしています。しかし、一方、環境汚染、地球温暖化、エネルギー問題、食料・水問題、宗教・民族問題など、地球規模の課題に直面しています。また、我が国特有の課題として、世界に類を見ない少子高齢化、厳しい財政状況などがあります。どうかこれらの社会の課題に果敢に挑戦するような研究も行ってください。

 以上、皆さんの心にとめておいていただきたいことは、一流の研究を目指すこと、グローバルな視野、社会の課題への挑戦の三つです。

 九州大学は皆さんが持っているさまざまな可能性を大きく成長させてくれる 素晴らしい人材と環境に恵まれています。これらを最大限に生かして、大学での知的な生活、社会的な生活に積極的、能動的に関わってもらうことを願っています。大学院修了後、皆さんがどの道に進まれようとも大学院時代に経験した高度な問題解決の実績は皆さんの宝となります。皆さんが新たな発見や体験をして大きく成長され、実り多い大学院生活になることを心から願いまして祝辞といたします。

 

平成29年4月5日
九州大学総長
久保千春