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平成29年度 九州大学学士学位記授与式告辞(2018年3月20日)

総長式辞・挨拶等

平成29年度 九州大学学士学位記授与式告辞(2018年3月20日)

本日、九州大学から新たな一歩を踏み出す卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。
今年は、2,607名(男性1,878名、女性729名、留学生38名)の学部学生が九州大学を卒業します。九州大学教職員を代表して皆さんの卒業を心よりお祝いいたします。また、今日まで長きにわたって皆さんの勉学を支え、励まし、指導してこられたご家族や関係者の皆様に心からお慶び申し上げます。
九州大学でのこの4年間あるいは6年間、先生方の指導を受け、学業、クラブ活動、友達、先輩、後輩たちとの交流、ボランティア活動などの社会活動などを通してさまざまなことを学び体験し、成長したことと思います。これから、新しいステージに進むことになります。

大学キャンパスの変遷についてお話いたします。平成21年4月から、すべての入学生の授業はここ伊都キャンパスで行われています。本日卒業する皆さんは、九州大学での学生生活を伊都キャンパスで始めたことと思います。その頃から比べると、キャンパスは大きく発展してきています。この椎木講堂は4年前に完成し、入学式や学位記授与式はここで行われるようになりました。
この伊都キャンパスは、平成17年秋に工学系の第一陣が移転して開校して以来、13年が経過しました。伊都キャンパスの整備は着実に進んでおり、第1ステージ、第2ステージを経て、現在第3ステージであり、建物はほぼ完成しました。9月29日には伊都キャンパス完成記念式典が行われることになっています。
伊都キャンパスは大きく発展してきており、自然環境・歴史との共生や未来エネルギー社会のモデルキャンパスとなっています。九州大学は、この未来型キャンパスを核として、教育、研究、社会貢献、国際交流など多様な活動を大きく推進していきます。その他の病院地区、大橋地区、筑紫地区キャンパスの整備もされてきました。一方、箱崎地区は売却に向けて土地の整備がなされており、新しいまちづくりの視点から福岡市などの関係機関との協議が進んでいます。

皆さんが入学してから、国内外において実にさまざまなことがありました。最近6年間の主な社会的な出来事を振り返ってみたいと思います。

国際的には6年前の2012年にはシリアの内戦が泥沼化、2013年にはフィリピン台風被害、2014年にはアフリカにおいてエボラ出血熱の大流行、ISIL(イスラム過激派組織)の台頭などがありました。2015年には欧州への難民殺到、米キューバの国交回復、2016年には英国 国民投票でEU離脱、リオデジャネイロオリンピック開催、2017年にはアメリカトランプ大統領就任などがありました。このように、わが国を取り巻く国際情勢は大きく変化しています。

次に、国内の出来事を振り返ってみたいと思います。

6年前の2012年は安倍内閣が発足しています。山中伸弥先生がノーベル生理•医学賞を受賞されました。2013年は2020年の東京オリンピック開催が決定しました。
2014年は消費税8%がスタートしました。2014年赤崎、天野、中村氏の3名がノーベル物理学賞を受賞されました。この年から3年連続で日本人がノーベル賞を受賞されたことは大変喜ばしいことです。
2015年には「八幡製鉄所や三池炭鉱などの明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録されました。大村先生、梶田先生がノーベル賞を受賞されておられます。
2016年には熊本地震発生し、九州は大きな被害を受けました。
2017年にはさらに、九州北部豪雨が発生し、福岡県は朝倉市を中心に大きな被害を受けました。今なお、復興途上であります。九州大学では、総合大学の強みを活かし、「九州北部豪雨災害調査・復旧・復興支援団」を結成しましたが、地域住民や行政機関と協働しながら、復旧から復興まで息の長い支援を行っています。
宗像の沖ノ島が世界遺産に登録されました。

昨年度における本学の主な出来事では、次のような事がありました。

【4月】学園通線全線開通、小体育館開所
【5月】糸島市九州大学国際村構想発表
【6月】起業部発足
【8月】共創学部設置認可
【9月】法科大学院六本松施設開所
【10月】伊都キャンパス南口開通
【11月】伊都キャンパス・イーストゾーン連絡橋開通
【12月】法・河野俊行教授 国際イコモス会長就任
【1月】農学系総合教育研究棟 竣功
【2月】人文社会科学系総合教育研究棟 竣功

このような時代に皆さんは、学生生活を送ってきたわけです。

みなさんが学んだ九州大学の教育は、九州大学教育憲章にありますように、日本の様々な分野において指導的な役割を果たし、アジアをはじめ広く全世界で活躍する人材を輩出し、日本及び世界の発展に貢献することを目的としています。具体的には、人間性、社会性、国際性、専門性に秀でた人材を育成することであります。皆様方は、これらを身につけられたことと思います。

さて、人の存在について、お話したいと思います。私たちは、個人として、社会内存在として、また、自然内存在、宇宙内存在として、現在を生きております。古代インドのバラモン経法典に、人生の四期があります。皆さん方は、これまでの学生期(がくじょうき)からいよいよ、社会人として、また伴侶を得たりして家庭を作り、仕事に励む時期の家住期に移る時期であります。最もエネルギーに満ちあふれ、将来に希望を持っている時期でもあります。
社会内存在としては、先ほどお話しました国内外の出来事の中で生活をしています。グローバル社会の中で、多様な政治、経済、文化、などの影響を受けています。政治的には、最近、多くの国や地域で保護主義やポピュリズムが台頭し、その根底には、拡大し続ける貧困や格差の問題があります。一方、情報科学は大きく発展し、人工知能、ロボット、ビッグデータ、などの活用によるSociety5.0の時代に入っています。情報機器の発達により、簡単に知識を得ることができるようになりました。このような中で、どのような生き方をするかが問われています。ぜひ、自分の周囲の情報だけに惑わされずに、自分を見つめて主観を磨き、自分の考えを持って頂きたいと思います。

チャールズ・ダーウィンは、『人間の由来』の中で、「人間は高尚な資質を持ち、ささやかなものに慈悲心を及ぼし、神のような知性を持っているが、人間にはその起源が下等なものからきたという刻印が刻まれている。人の知恵はいつも叡智であるわけはなく、知能をあまり自由にさせておくのは人類破滅の危険がある」と言っています。今まさに、このことが現実のものになるのではないかと危惧されます。
自然内存在としては、日本人は特に地震や津波、台風などの自然災害が多発する環境で古来より生活してきています。2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」が示され、2030年までに達成を目指す17分野の目標が示されています。

宇宙内存在としては、人類の歴史について考えることが重要であると思います。
人類の歴史は、約136億年前にビッグバンがおこり、46億年前に太陽系、45億年前に地球が誕生したと言われています。50万年前に旧人類が誕生し、20万年前に新人類が誕生し、進化してきています。20万年前の新人類誕生は、時間的に地球誕生から現在までを24時間として計算すると、わずか3.8秒になります。このような過去の命を受け継いで、私たちは現在を生きています。

このように個人、社会、自然、宇宙内存在として私たちは生きています。
人類や地球が持続可能である為にはどうすれば良いかが問われています。
皆さんが、九州大学で学んだ知識や体験を活かし、問題解決に向けて取り組んで頂くことを願っております。

結びにあたり、皆さまに九大の歌「春の讃歌」の中の言葉を贈ります。
歌詞の最後に、「真・善・美」があります。この3つの「真・善・美」の言葉の価値は、いつの時代においても普遍的で大事なものであり、自分の価値基準の基本において頂ければと思います。

皆さんはいよいよ九州大学を卒業することになりました。どうか、九州大学の卒業生として誇りを持ち、学んだことを生かし、夢を持って今後の未来を切り開いてください。グローバル社会を力強く牽引するリーダーとして大成されることを期待しまして告辞といたします。

 

平成30年3月20日
九州大学総長
久保 千春