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平成30年度 九州大学学部入学式告辞(2018年4月4日)

平成30年度 九州大学学部入学式告辞(2018年4月4日)

 新入生の皆さん、入学おめでとうございます。長い受験生活を経て見事に九州大学に入学された皆さんに、九州大学教職員を代表して心よりお祝い申し上げます。また、今日まで長きにわたって皆さんの勉学と生活を支え、励ましてこられたご家族をはじめ関係者の皆様にも心からお慶び申し上げます。
 九州大学で新入生の皆さんの能力を更に大きく伸ばすことができるよう、私たち、教職員も全力で応援いたします。
 今年度の学部入学生の数は2,633名、男子1,824名、女子809名で女子が30.7%です。外国人留学生は46名です。出身別では、47都道府県のうち、44の都道府県から入学しており、九州・沖縄地区からは、1,702名、64.6%です。

 皆さんは受験勉強から開放されて入学後のさまざまな可能性に心を躍らせて今日を迎えていることと思います。大学の授業、クラブ活動、友達との交流、ボランティア活動、趣味などいろいろあると思います。一方、家族と離れて一人での新しい生活に不安を覚えている人も居るかもしれません。しかし、これは自立し、成長していくための第一歩でもあります。
 ところで、皆さんがいるこの椎木講堂ですが、4年前に完成し、ここで入学式が行われるようになりました。この素晴らしい椎木講堂は九州大学の創立百周年記念事業にご賛同を頂き、世界で活躍し、社会に役立つ人材育成を願って、椎木正和様のご好意により、できたものであります。このホールは約3,000名を収容でき、この講堂で入学式を挙行できますことを大変喜ばしく思います。
 また、本日は、来賓として、本学卒業生であり、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士である若田光一様からもご祝辞をいただくことになっております。若田様には、厚く御礼申し上げます。

 さて、皆さんがこれから過ごす九州大学の歴史と現状についてご紹介したいと思います。1903年(明治36年)今から115年前に京都帝国大学福岡医科大学が設置されました。
 その8年後の1911年(明治44年)に工科大学が設置され、医科大学と工科大学が一緒になり、九州帝国大学の歩みがスタートしました。日本で4番目にできた国立大学です。107年前になります。初代総長の山川健次郎は、“修養が広くなければ完全な士というべからず”という言葉を残しておられます。
 以来、学部等の増設があり、2003年(平成15年)九州芸術工科大学との統合、2004年(平成16年)国立大学法人化などを経て現在に至っています。

 九州大学は、この4月から新たにスタートした共創学部を加え、12の学部と21世紀プログラム、16の大学院研究組織の研究院、18の大学院教育組織の学府、4つの専門職大学院、そして高等研究院、基幹教育院、5つの研究所及び最先端の医療を提供する国内最大級1415床のベッドを持つ大学病院、420万冊余りの蔵書を誇る図書館などを擁する我が国屈指の基幹総合大学であります。
 学生数は、学部学生11,746名、大学院生6,961名 合計18,707名、このうち留学生2200名12%です。教職員8,092名、総合計26,799名の大きな組織です。土地面積は、5つのキャンパス:箱崎、病院、筑紫、大橋そして伊都キャンパスに加え、附属農場、4つの演習林などを合わせて約76km2であり、日本で3番目に広い敷地を持つ大学です。

 次にこの伊都キャンパスを紹介します。皆さん全員が最初の1年間を過ごすこの伊都キャンパスは、古来より大陸文化を取り入れた伊都の国としての歴史ある場所であります。豊かな自然環境に恵まれた丘陵地で、東西3km、南北2.5kmの広大な敷地です。伊都キャンパスの建設にあたっては自然環境に配慮し、生物多様性の保全に努め、古墳などの貴重な文化財の保存に可能な限りの工夫と努力がされてきています。近くには糸島のきれいな海岸線や田園が広がっております。福岡市の中心部からは離れてはいますが、勉学にいそしむ素晴らしい環境です。
 この伊都キャンパスは、平成17年秋に工学系の第一陣が移転して開校以来、13年が経過しました。伊都キャンパスの整備は着実に進み、第1ステージ、第2ステージを経て、現在第3ステージの最終段階となり、建物はほぼ完成し、秋までには移転が完了します。本年9月29日には伊都キャンパス完成記念式典が行われることになっています。
 伊都キャンパスは大きく発展してきており、自然環境・歴史との共生や未来エネルギー社会のモデルキャンパスとなっています。皆さんは、この伊都キャンパスで大学生活をスタートすることになります。福岡市や糸島市と協力しながら、皆さんが生活しやすいように交通や生活環境も整備してきています。
 九州大学のその他のキャンパスとして病院地区、大橋地区、筑紫地区のキャンパスがあります。これらのキャンパスも整備され、充実してきております。医歯薬系や芸術工学部の皆さんは、専門課程でこれらのキャンパスに行くことになります。一方、箱崎キャンパスは現在跡地利用計画や売却に向けて福岡市や地域住民との協議を行っています。

 次に九州大学の基本理念について述べたいと思います。2011年の創立百周年を記念して、新たな百年に向けて、「躍進百大」、すなわち、すべての分野において世界のトップ百大学に躍進する、というスローガンを掲げています。基本理念は「自律的に改革を続け,教育の質を国際的に保証するとともに、常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」としています。

 私は、2014年総長に就任した際、「九州大学アクションプラン2015-2020」を策定しました。

  1. 世界最高水準の研究とイノベーション創出
  2. グローバル人材の育成
  3. 先端医療による地域と国際社会への貢献
  4. 学生・教職員の誇りに思う充実したキャンパスづくり
  5. 組織改革
  6. 社会と共に発展する大学

重点取り組みとして

  1. 研究教育機構創設(エネルギー研究教育機構)によるイノベーションの創出
  2. 新学部(共創学部)の設置によるグローバルに活躍する人材の育成
  3. 人文社会科学分野等の再編成・機能強化による九州大学の更なる活性化

であります。

 これからみなさんが学ぶ教育は、九州大学教育憲章に明記されています。九州大学の教育は、日本の様々な分野において指導的な役割を果たし、アジアをはじめ広く全世界で活躍する人材を輩出し、日本及び世界の発展に貢献することを目的としています。具体的には、人間性、社会性、国際性、専門性に秀でた人材を育成することであります。皆さんには、これらを身につけていただき、これからの大学生活の中で大きく成長していくことを期待しております。

 ところで、皆さんは、これからどのような学生生活を送ることになるのでしょうか。すべての入学生の皆さんは最初、教養教育としての基幹教育をここ伊都キャンパスで受けることになります。基幹教育とは、文系理系を問わず、専攻の異なる学生が一緒に対話型の協働学習をしながら、「ものの見方・考え方・学び方」を学び、生涯にわたって自律的に学び続けるアクティブ・ラーナーを育成する教育を言います。高校までの教育では、先生から生徒への知識の伝達に比重があったのではないでしょうか。しかし、大学での学びは論理的思考力を養い、知識そのものを新たな視点から創造的・批判的に“なぜか”と問うことで、自ら問題解決し、新たな知を創造していくことです。さまざまな課題発見型や英語による授業などが行われます。1年間の基幹教育が終わると、学部のあるそれぞれのキャンパスで専攻教育を受け、専門性を身につけることになります。

 さて、皆さんに九州大学の学習実態の昨年度の調査についてお話します。授業時間以外に大学の授業内容の予習や復習に費やしている時間は、約8割の学生は1時間程度か、それ以下であるという調査が出てきました。
 日米の大学生の調査では1週間あたりの学修時間は、週5時間以下がアメリカでは15.6%、日本は66.8%でした。11時間以上はアメリカでは58.4%、日本では14.8%であり、日本はアメリカより学修時間が非常に少ないです。高校までは毎日、受験勉強を中心に多くの時間を学修に費やしていたのではないでしょうか。大学では自分の考え方を磨き、将来の方向性を見つける為に、さまざまな経験を積むことが必要です。一方、国際的に通用する教育の質の保証も求められています。そのために、自分で自分の可能性を切り開く主体的な学修時間が大切になります。頭脳の柔軟な若い時に、ぜひ勉強をしていただきたいと思います。

 次に皆さん方にお願いしたいことが3つあります。一つは“広い学問への興味”、二つ目は“国際的視野と活動”、三つ目は“政治への関心”です。

 一つ目の“広い学問への興味”については、九州大学は人文社会学系、理工系、医歯薬系などの、さまざまな分野の一流の専門の先生方がたくさんいます。基幹総合大学としての大きな強みです。是非積極的にいろいろな学問分野に興味を持って、幅広く勉強していただきたいと思います。

 二つ目は“国際的視野と活動”です。現在はインターネットの普及、経済や人の交流のボーダーレス化、企業の国際化、などがあり、皆さんは今後、グローバル社会を生きていかなければなりません。国際性とは単に外国語が出来るということではなく、自国の文化や歴史を知り、自分の考え方を国際社会で主張出来る創造的、批判的、論理的思考力、積極的姿勢や語学力を兼ね備えることです。そのための近道は海外留学体験と外国人留学生との交流です。九州大学への外国からの留学生は、世界97カ国・地域から2,200名を超えています。また、学部生、大学院生を含めて約1200名が海外へ留学しています。海外留学制度には九州大学基金を利用する制度、九州大学カリフォルニアオフィスを活用した「ロバートファン・アントレプレナーシップ・プログラム」、「トビタテ!留学JAPAN」などがあります。こうしたプログラムを積極的に活用し、世界に飛び出していただきたいと思います。若いうちに留学体験することにより、俯瞰する力、日本や地域、そして自己を客観視する力などが養われます。また、九州大学の中は多様性豊かな国際キャンパスであります。外国人研究者や留学生と日常的に切磋琢磨し交流することで、国際的な視野や語学力を身につけることができ、世界の舞台で指導的役割を担うグローバル人材に育つと思います。

 三つ目の“政治への関心”ですが、一昨年、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられる改正公職選挙法が成立しました。政治のあり方は、社会や国民の日々の生活に大きく関係します。日本は、急速な少子高齢化、過疎化、財政難、医療・介護問題などに直面しています。これらの問題を解決するためには、政治のあり方が重要であり、日本の未来に大きく関係します。ぜひ、政治に関心を持ち、選挙に参加してください。

 以上、“広い学問への興味”、 “国際的視野と活動”、 “政治への関心”の三つの重要性についてお話しました。

 もう一つ重要なことがあります。課外活動で学生が亡くなるということが起こっています。若い将来性のある方が亡くなることは、大変悲しいことであり、起こってはならないことであります。このようなことを二度と起こさないために、全学をあげて安全教育と対策を行っていきます。皆さん方もどうか充分注意して、活動してください。

 九州大学は皆さんが持っているさまざまな可能性を大きく成長させてくれる 素晴らしい人材と環境に恵まれています。この恵まれた環境を存分に活用して、学問への夢を育んでください。また、学生の中には、自分でベンチャー企業を起こす人達もいます。東北大地震、熊本地震、昨年の九州北部豪雨災害などのボランティア活動を続けたりしている人達もいます。学生時代にいろいろな体験をすることは、将来にきっと役立ちます。失敗を恐れず、チャレンジ精神で学生生活を送ってください。
 私たち、教職員は、皆さんの夢の実現を全力でサポートします。皆さんのこれからの大学生活が、新たな発見、体験や出会いなどで実り多いものになることを心から願いまして祝辞といたします。

平成30年4月4日
九州大学総長
久保千春