About 九州大学について

平成30年度 九州大学大学院入学式告辞(2018年4月4日)

平成30年度 九州大学大学院入学式告辞(2018年4月4日)

 九州大学大学院に入学される皆さん、入学誠におめでとうございます。九州大学教職員を代表して心より歓迎致します。九州大学の学部から進学して来られた方、他大学や社会人、さらには海外から来られた方がおられます。新たな気持ちで今日を迎えられたことと思います。また、今日まで長きにわたって皆さんの勉学と生活を支え、励ましてこられたご家族や関係者の皆様にも心からお慶び申し上げます。
 今年度の大学院入学生の数は2,528名です。そのうち、博士課程556名、修士課程1,845名、専門職課程127名です。男子1,920名、女子608名で女子が24.1%になります。また、外国人留学生は40ヶ国423名16.7%です。

 ところで、皆さんがいるこの椎木講堂ですが、4年前に完成し、ここで入学式が行われるようになりました。椎木講堂は九州大学の創立百周年記念事業にご賛同を頂き、世界で活躍し、社会に役立つ人材育成を願って、椎木正和様のご好意により、できたものであります。このホールは約3,000名を収容でき、この講堂で入学式を挙行できますことを大変喜ばしく思います。

 さて、皆さんがこれから過ごす九州大学の歴史と現状についてご紹介いたします。1903年(明治36年)今から115年前に京都帝国大学福岡医科大学が設置されました。その8年後の1911年(明治44年)に工科大学が設置され、医科大学と工科大学が一緒になり、九州帝国大学の歩みがスタートしました。107年前になります。日本で4番目にできた国立大学です。初代総長の山川健次郎は、“修養が広くなければ完全な士というべからず”という言葉を残しておられます。
 以来、学部等の増設があり、2003年(平成15年)九州芸術工科大学との統合、2004年(平成16年)国立大学法人化などを経て現在に至っています。

 九州大学は、この4月から新たにスタートした共創学部を加え、12の学部と21世紀プログラム、16の大学院研究組織である研究院、18の大学院教育組織である学府、4つの専門職大学院、そして高等研究院、基幹教育院、5つの研究所及び最先端の医療を提供する国内最大級1415床のベッドを持つ大学病院、420万冊余りの蔵書を誇る図書館などを擁する我が国屈指の基幹総合大学であります。
 学生数は、学部学生11,746名、大学院生6,961名 合計18,707名、このうち留学生2200名12%です。教職員8,092名、総合計26,799名の大きな組織です。土地面積は、5つのキャンパス:箱崎、病院、筑紫、大橋そして伊都キャンパスに加え、附属農場、4つの演習林などを合わせて約76km2であり、日本で3番目に広い敷地を持つ大学です。

 次にこの伊都キャンパスを紹介します。この伊都キャンパスは、古来より大陸文化を取り入れた伊都の国としての歴史ある場所であります。豊かな自然環境に恵まれた丘陵地で、東西3km、南北2.5kmの広大な敷地です。伊都キャンパスの建設にあたっては自然環境に配慮し、生物多様性の保全に努め、古墳などの貴重な文化財の保存に可能な限りの工夫と努力がされてきています。近くには糸島のきれいな海岸線や田園が広がっております。福岡市の中心部からは離れてはいますが、勉学にいそしむ素晴らしい環境です。

 この伊都キャンパスは、平成17年秋に工学系の第一陣が移転して開校以来、13年が経過しました。伊都キャンパスの整備は着実に進み、第1ステージ、第2ステージを経て、現在第3ステージの最終段階となり、建物はほぼ完成し、秋までには移転が完了します。本年9月29日には伊都キャンパス完成記念式典が行われることになっています。

 伊都キャンパスは大きく発展してきており、自然環境・歴史との共生や未来エネルギー社会のモデルキャンパスとなっています。皆さんは、この伊都キャンパスで大学生活をスタートすることになります。福岡市や糸島市と協力しながら、皆さんが生活しやすいように交通や生活環境も整備してきています。
 九州大学のその他のキャンパスとして病院地区、大橋地区、筑紫地区のキャンパスがあります。これらのキャンパスも整備され、充実してきております。医歯薬系や芸術工学部の皆さんは、専門課程でこれらのキャンパスに行くことになります。一方、箱崎キャンパスは現在跡地利用計画や売却に向けて福岡市や地域住民との協議を行っています。

 次に九州大学の基本理念について述べたいと思います。2011年の創立百周年を記念して、新たな百年に向けて、「躍進百大」、すなわち、すべての分野において世界のトップ百大学に躍進する、というスローガンを掲げています。基本理念は「自律的に改革を続け,教育の質を国際的に保証するとともに、常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」としています。

 私は、2014年総長に就任した際、「九州大学アクションプラン2015-2020」を策定しました。

  1. 世界最高水準の研究とイノベーション創出
  2. グローバル人材の育成
  3. 先端医療による地域と国際社会への貢献
  4. 学生・教職員の誇りに思う充実したキャンパスづくり
  5. 組織改革
  6. 社会と共に発展する大学

重点取り組みとして

  1. 研究教育機構創設(エネルギー研究教育機構)によるイノベーションの創出
  2. 新学部(共創学部)の設置によるグローバルに活躍する人材の育成
  3. 人文社会科学分野等の再編成・機能強化による九州大学の更なる活性化

であります。

 ところで、九州大学学術憲章は次のように定められています。九州大学は最高学府として、人類が長きにわたって遂行してきた真理探求の道とそこに結実した古典的・人間的叡知とを尊び、これを将来に伝えてゆくことを使命とする。また、諸々の学問における伝統を基盤として新しい展望を開き、世界に誇り得る先進的な知的成果を産み出してゆくことを使命とする。皆さんには、このような大きな使命を持って、創造的・独創的な研究していただくことを期待しております。

 皆さんにこれからの大学院生活を送るにあたり、3つのことを心にとめて頂きたいと思います。一つ目は一流の研究を目指すことです。二つ目は、グローバルな視野、三つ目は社会の課題への挑戦です。
 大学院では、これまでの学士課程で身につけた幅広い知識、教養、技術をもとに、より専門的な知識や技術を習得し、専門性を深化させていきます。徹底した実験、調査、観察を通して新たな真実を導くという研究の感動を味わってほしいと願っています。素晴らしい研究は頭脳が柔らかい若い時代の研究が元になっています。是非一流の研究を目指してください。
 私の留学した時の経験をお話したいと思います。アメリカのオクラホマ医学研究所で36年前1982年から2年間、栄養と免疫・老化についての研究をしました。指導教授はRobert A Goodという著明な免疫学者でした。先生はニューヨークのスローンケッタリングがん研究所から引っ越してきたばかりの時でしたので、研究設備があまり整っていませんでした。私は、研究設備を見てどのようなことができるかを考えて研究計画を持っていきました。私の研究計画に対して、先生は“この研究計画では不十分である、本当にやりたい一流の研究計画に作り直しなさい。必要な設備や研究費などは自分が考える”と言われました。まず、何を目指すのか、自分のビジョンをしっかり持つことの重要性を教わりました。大学院生時代の特権は、自分の時間が十分に使えることにあると思います。研究の魅力、学問を創る喜び、学会発表、先生や仲間との交流などの多くの感動を体験してください。

 二つ目はグローバルな視野を持つことです。インターネットの普及、経済や人の交流のボーダーレス化、企業の国際化、などがあり、皆さんは今後、グローバル社会を生きていかなければなりません。自国の文化や歴史を知り、自分の考え方を国際社会で主張出来る創造的・批判的・論理的思考力、積極的姿勢や語学力を兼ね備えることです。そのための近道は海外留学体験、国際学会での発表や外国人との交流です。九州大学にはグローバル人材育成のためのプログラムがあります。スーパーグローバル大学創成支援事業、博士課程教育リーディングプログラム等があり、皆さんの中にはこれらのプログラムを受ける人もいると思います。
 九州大学への外国からの留学生は、世界97カ国・地域から2,200名を超えています。また、学部生、大学院生を含めて約1200名が海外へ留学しています。海外留学制度には九州大学基金を利用する制度、九州大学カリフォルニアオフィスを活用した「ロバートファン・アントレプレナーシップ・プログラム」、「トビタテ!留学JAPAN」などがあります。こうしたプログラムを積極的に活用し、世界に飛び出していただきたいと思います。若いうちに留学体験することにより、俯瞰する力、日本や地域、そして自己を客観視する力などが養われます。また、九州大学の中は多様性豊かな国際キャンパスであります。外国人研究者や留学生と日常的に切磋琢磨し交流することで、国際的な視野や語学力を身につけることができ、世界の舞台で指導的役割を担うグローバル人材に育つと思います。

 三つ目は社会の課題への挑戦です。科学技術の進歩は、日常生活の便利さや快適さで恩恵をもたらしています。しかし、一方、環境汚染、地球温暖化、エネルギー問題、食料・水問題、宗教・民族問題など、地球規模の課題に直面しています。また、我が国特有の課題として、世界に類を見ない少子高齢化、過疎化、医療・介護問題、厳しい財政状況などがあります。どうかこれらの社会の課題に果敢に挑戦するような研究も行ってください。

 以上、皆さんの心にとめていただきたいことは、一流の研究を目指すこと、グローバルな視野、社会の課題への挑戦の三つです。

 九州大学は皆さんが持っているさまざまな可能性を大きく成長させてくれる 素晴らしい人材と環境に恵まれています。これらを最大限に生かして、大学での知的生活、社会的生活に積極的、能動的に関わってもらうことを願っています。大学院修了後、皆さんがどの道に進まれようとも大学院時代に経験した高度な問題解決の実績は皆さんの宝となります。皆さんが新たな発見や体験をして大きく成長され、実り多い大学院生活になることを心から願いまして祝辞といたします。

平成30年4月4日
九州大学総長
久保千春