About 九州大学について
本日学位記を授与された修士1,772名、専門職大学院107名、そして博士352名、合計2,231名(男性1,668名、女性563名、留学生334名)の皆さん、誠におめでとうございます。九州大学教職員を代表して皆さんの修了を心よりお祝いいたします。今日まで長きにわたって皆さんの勉学や研究を指導し、またさまざまな面で支えてこられた研究室の先生方やご家族の皆様に対しまして心からお慶びを申し上げます。
これから、就職、さらに大学院博士課程への進学や海外への留学などの新しいステージに進むことになります。昨年度は修士課程修了者は約77%が就職し、12%が進学しています。博士(後期)課程では約62%が就職しています。
まず始めに、皆さんが九大で過ごした最近の国内外の出来事を振り返ってみたいと思います。
国際情勢ですが、6年前の2013年にはフィリピン台風被害、中国四川省でマグニチュード7.0の大地震、2014年にはアフリカにおいてエボラ出血熱の大流行、ISIL(イスラム過激派組織)の台頭、2015年には欧州への難民殺到、米キューバの国交回復などがありました。
2016年には英国 国民投票でEU離脱、リオデジャネイロオリンピック開催、2017年にはアメリカトランプ大統領就任、2018年には平昌オリンピック開催、米朝首脳会談などがありました。
このように、わが国を取り巻く国際情勢は大きく変化しています。
次に、国内の主な出来事を振り返ってみたいと思います。
6年前の2013年は富士山が世界文化遺産に決定、また2020年の東京オリンピック開催が決定しました。いよいよ、あと1年5ヶ月後になりました。
2014年8月には消費税8%がスタートしました。御嶽山噴火、赤崎、天野、中村氏にノーベル物理学賞、トヨタ、世界初の燃料電池車MIRAI発売されました。
2015年には「八幡製鉄所や三池炭鉱などの明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録されました。
大村先生がノーベル生理学・医学賞、梶田先生がノーベル物理学賞を受賞されておられます。
2016年には4月熊本地震発生し、173人が死亡しています。熊本を中心に九州は大きな被害を受けました。8月天皇陛下、譲位のご意向を述べておられます。元号が変わるのはいよいよあと1ヶ月余りとなりました。大隅良典先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されました。
2017年7月には、九州北部豪雨が発生し、福岡県は朝倉市を中心に大きな被害を受け、41名の死者が出ました。
九州大学では、「九州北部豪雨災害調査・復旧・復興支援団」を結成し、地域住民や行政機関と協働しながら、復旧・復興支援を現在でも継続して行っています。
宗像の沖ノ島が世界遺産に登録されました。
昨年2018年7月には西日本豪雨発生し中部地方を中心に大きな被害がおこりました。また9月には台風21号が近畿地方を中心に大きな被害をもたらした。本庶佑先生がノーベル医学・生理学賞を受賞されました。
さて、九州大学での出来事を振り返ってみたいと思います。
4年前の平成27年度における本学の主な出来事では、次のような事がありました。
【4月】医学歴史館が開館
【5月】グリーンファルマ研究所開所
【6月】共進化社会システムイノベーション施設の開所、國武特別主幹教授が京都賞を受賞
【10月】「九州大学アクションプラン2015-2020」の策定、伊都キャンパス・ウエスト1号館の完成、理学研究院の移転完了、第9回日中学長会議を本学が主催
【11月】伊都キャンパスに亭亭舎・皎皎舎が開所
【1月】総合研究棟(人文社会科学系)新営工事着工
【2月】次世代有機EL実用化へ九大発ベンチャーKyulux本格始動
平成28年度における主な出来事としましては、
【4月】熊本地震発生に伴い、九州・山口地区国立大学長「熊本大学支援連絡会」を設置
【6月】ヨット部 世界選手権出場
【7月】NTTドコモ、ディーエヌエー、福岡市と共に、「スマートモビリティ推進コンソーシアム」を設立
【9月】カリフォルニアオフィスSVEP10周年記念式典
【10月】エネルギー研究教育機構設置、新中央図書館プレオープン、ホンダ燃料電池自動車クラリティを導入
【11月】中野三敏名誉教授 文化勲章受章、森田浩介教授113番元素名「ニホニウム」元素記号「Nh」正式決定
【12月】自動運転バス デモンストレーション
【2月】九州・大学発ベンチャー振興会議発足
平成29年度における主な出来事としましては、
【4月】学園通線全線開通、小体育館開所
【5月】糸島市九州大学国際村構想発表
【6月】起業部発足
【8月】共創学部設置認可
【9月】法科大学院六本松施設開所
【10月】伊都キャンパス南口開通
【11月】伊都キャンパス・イーストゾーン連絡橋開通
【12月】法・河野俊行教授 国際イコモス会長就任
【1月】農学系総合教育研究棟 竣功
【2月】人文社会科学系総合教育研究棟 竣功
平成30年度における主な出来事としましては、
【4月】共創学部第1期生入学
【5月】「中本博雄賞」創設
【6月】芸術工学部50周年記念式典
【7月】日本ジョナサン・KS・チョイ文化館開館、比較法国際アカデミー国際会議
【8月】九大フィル東京公演
【9月】世界社会科学フォーラム(WSSF)、伊都キャンパス完成記念式典、農学研究院開校式典、イーストゾーン完成記念式典
【10月】中央図書館グランドオープン
【11月】新海征治特別主幹教授が文化功労者
【1月】エネルギーウィーク2019
【2月】伊都診療所開所
このようにいろいろなことがありました。
このような時代に皆さんは、研究生活を送ってきました。
この伊都キャンパスは、平成17年に移転を開始して以来13年かけて、昨年9月、完成しました。
9月29日には「伊都キャンパス完成記念式典」を挙行し、今後、伊都キャンパスを拠点として新たな時代を歩み始めるに際して、将来への決意を込めた「伊都キャンパス宣言」を公表しました。
1. 世界をリードする人材と新しい科学を生み出すキャンパス
2. 未来社会を切り拓く研究成果の実証実験の場としてのキャンパス
3. 歴史や自然など豊かな環境と共生するキャンパス
九州大学は、この未来型キャンパスを核として、教育、研究、社会貢献、国際交流など多様な活動を大きく推進し、新しい歴史を築いて参ります。
今年は5月1日より新しい元号に変わりますが、大きな歴史の転換期に私たちは生きています。この時代を貴重な出来事として思い出されることでしょう。
その他の病院、大橋、筑紫及び箱崎キャンパスで過ごされた方は、それぞれのキャンパスに懐かしい思い出を持っておられることと思います。
ところで、皆さんは大学院でどのようなことを身につけられたでしょうか。
大学院において、創造的・独創的な学術研究をされたことと思います。
学位を授与されたことはひとつの専門性を身につけたことになります。学位論文を仕上げることによって論理的思考、分析力、表現力などを身につけたことと思います。これらの力はいろいろな分野に応用できます。
私が留学していた時に体験したことをお話します。私が指導いただいた先生は「君のやっている研究は大きさに例えれば、この研究室の空間の中のひとつの小さな粒のようなものである。研究分野は限りなく広い」ということを話されました。九州大学には16の研究院、5つの研究所があります。いろいろな研究者の方々と話す機会がありますが、学問分野は広く、面白いと実感しております。
次に、研究の社会的・国際的貢献について、現代社会の課題、グローバル社会、国際交流と連携、科学技術の観点から述べたいと思います。
現代社会の課題として、地震、台風、火山爆発、津波などの自然災害、環境汚染、地球温暖化、エネルギーや食料・水問題、宗教・民族紛争やテロによる緊迫した国際情勢などの地球規模の課題に直面しています。
また、我が国は世界に類を見ない少子高齢化、厳しい財政状況などのさまざまな課題に直面しています。
大学院時代に培った力を発揮して、これらの社会の課題に果敢に挑戦し、未来を切り開く若者として世界で活躍していただくことを願っております。
ところで、世界は急速にグローバル化がすすんでいます。その結果、私たちは国際的な政治、経済、文化、などの影響を受けて生活しています。
九州大学では、グローバル人材の育成を大きな柱として進めています。
本年度、九州大学から海外へ留学した人は学部学生と大学院生を合わせて約2,000人であり、多くの方が留学するようになりました。
「スーパーグローバル大学創成支援事業」、海外の卓越した大学との連携や大学教育改革などにより大学の国際化を進めています。
また、九州大学では文理の枠を超えた博士課程教育ダ・ヴィンチプログラムを作りましたが、これは幅広い知識と深い専門性を持つ人材の育成を推進するためのものであります。
このことによりグローバルに活躍する人材が育っていくものと思います。
国際交流と連携については、平成30年5月の留学生数は、2,313人で99の国や地域から来ており、九州大学全体の学生数の12.4%であります。そのうち約87パーセントはアジアからの留学生となっています。
本日の修了生のうち留学生の人数は、大学院334名です。
九大の留学生の多くは大学院で学んでいます。また、秋の入学や卒業が多く見られます。国際連携については協定機関53ヶ国、学術交流388機関、学生交流280機関に上っています。
九州大学はアジア、オセアニアとの交流をさらに進めていきたいと思います。
九州大学には、カリフォルニア、ソウル、北京、台北、ハノイ、ロンドン、等の海外オフィスやブランチ・オフィスが11カ所設置されています。
このオフィスでは、
1.各国の教育研究に係る情報等の収集
2.優秀な留学生獲得のためのイベント実施、情報提供
3.海外入試・面接等の支援
4.共同研究等の支援
5.同窓会活動の支援
を行っています。
留学生の皆さんは、修了後も出身の研究室の先生がたや仲間との共同研究や共同教育プログラム等を通じて、母国と九州大学との関係を強固なものとして維持し、架け橋となって頂くことを願っております。
近年の科学技術の発展には、めざましいものがあります。しかし、一方では、その副作用が見られます。
情報機器の発達により、簡単に情報を得ることができるようになりました。例えば、スマートフォンで通信や情報を得ることができて便利になりましたが、ゲームなどに夢中になることによる脳の発達への悪い影響が見られています。
また、人類の倫理的問題にかかわる遺伝子改変などが行われるようになってきました。遺伝子改変技術によって新たな食品開発や病気の治療などがなされるようになりました。しかし、生殖細胞のゲノム編集によりこれまでにない新たな生物が生まれる危険性もできています。
チャールズ・ダーウィンは
「人間の由来」という本の中で、「人間は高尚な資質を持ち、ささやかなものに慈悲心を及ぼし、神のような知性を持っているが、人間にはその起源が下等なものからきたという刻印が刻まれている。人の知恵はいつも叡智であるわけはなく、知能をあまり自由にさせておくのは人類破滅の危険がある。」と言っています。
今まさに、このことが現実のものになるのではないかと危惧されます。このことを念頭において、科学技術の研究を進めることが重要であります。
皆さんが大学院で学んだ知識や体験を生かし、現代社会の直面する課題に果敢に挑戦し、社会的、国際的貢献をしていただくことを期待しております。
結びにあたり、皆さんが大学を離れることになっても、九州大学は皆さんとともにあります。九州大学の同窓会の一員として繋がりを持って、ぜひ今後も一緒にやっていただきたいと思います。
皆さんが九州大学を修了したことに誇りを持ち、大きく飛躍してグローバル社会を力強く牽引するリーダーとして大成されることを期待して告辞といたします。
平成31年3月20日
九州大学総長
久保千春