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平成30年度 九州大学学士学位記授与式告辞(2019年3月20日)

総長式辞・挨拶等

平成30年度 九州大学学士学位記授与式告辞(2019年3月20日)

本日、九州大学から新たな一歩を踏み出す卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。
今年は、2,538名(男性1,813名、女性725名、留学生39名)の学部学生が九州大学を卒業します。九州大学教職員を代表して皆さんの卒業を心よりお祝いいたします。
また、今日まで長きにわたって皆さんの勉学を支え、励まし、指導してこられたご家族や関係者の皆様に心からお慶び申し上げます。
九州大学でのこの4年間あるいは6年間、先生方の指導を受け、学業、クラブ活動、友達、先輩、後輩たちとの交流、アルバイトやボランティア活動などを通してさまざまなことを学び体験し、成長したことと思います。
これから、就職、大学院への進学、海外への留学などの新しいステージに進むことになります。皆さんは卒業の喜びと将来への夢で胸を躍らせていることと思います。
卒業後の皆さんの進路状況についてご紹介します。
昨年度卒業生2,659名中、半数の50%が大学院などに進学し、約41%が就職しています。
分野別に見ますと、文系では、進学13%、就職75%、理系では、進学64%、就職29%といった状況となっています。

皆さんは、九州大学での学生生活を伊都キャンパスで始めたことと思います。
それでは、皆さんが入学してから、九大で過ごした学生生活の時代を振り返ってみたいと思います。

まず国際情勢ですが、6年前の2013年にはフィリピン台風被害、中国四川省でマグニチュード7.0の大地震、2014年にはアフリカにおいてエボラ出血熱の大流行、ISIL(イスラム過激派組織)の台頭、2015年には欧州への難民殺到、米キューバの国交回復などがありました。

2016年には英国 国民投票でEU離脱、リオデジャネイロオリンピック開催、2017年にはアメリカトランプ大統領就任、2018年には平昌オリンピック開催、米朝首脳会談などがありました。
このように、わが国を取り巻く国際情勢は大きく変化しています。

次に、国内の主な出来事を振り返ってみたいと思います。
6年前の2013年は富士山が世界文化遺産に決定、また2020年の東京オリンピック開催が決定しました。いよいよ、あと1年5ヶ月後になりました。
2014年8月には消費税8%がスタートしました。御嶽山噴火、赤崎、天野、中村氏にノーベル物理学賞、トヨタ、世界初の燃料電池車MIRAI発売されています。
2015年には「八幡製鉄所や三池炭鉱などの明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録されました。
大村先生がノーベル生理学・医学賞、梶田先生がノーベル物理学賞を受賞されておられます。 

2016年には4月熊本地震発生し、173人が死亡しています。熊本を中心に九州は大きな被害を受けました。8月天皇陛下、譲位のご意向を述べておられます。元号が変わるのはいよいよあと1ヶ月余りとなりました。大隅良典先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されました。
2017年7月には、九州北部豪雨が発生し、福岡県は朝倉市を中心に大きな被害を受け、41名の死者が出ました。
九州大学では、「九州北部豪雨災害調査・復旧・復興支援団」を結成し、地域住民や行政機関と協働しながら、復旧・復興支援を現在でも継続して行っています。
宗像の沖ノ島が世界遺産に登録されました。
昨年2018年7月には西日本豪雨発生し中部地方を中心に大きな被害がおこりました。また9月には台風21号が近畿地方を中心に大きな被害をもたらした。本庶佑先生がノーベル医学・生理学賞を受賞されました。

さて、九州大学での出来事を振り返ってみたいと思います。
4年前の平成27年度における本学の主な出来事では、次のような事がありました。
【4月】医学歴史館が開館
【5月】グリーンファルマ研究所開所
【6月】共進化社会システムイノベーション施設の開所、國武特別主幹教授が京都賞を受賞
【10月】「九州大学アクションプラン2015-2020」の策定、伊都キャンパス・ウエスト1号館の完成、理学研究院の移転完了、第9回日中学長会議を本学が主催
【11月】伊都キャンパスに亭亭舎・皎皎舎が開所
【1月】総合研究棟(人文社会科学系)新営工事着工
【2月】次世代有機EL実用化へ九大発ベンチャーKyulux本格始動 

平成28年度における主な出来事としましては、
【4月】熊本地震発生に伴い、九州・山口地区国立大学長「熊本大学支援連絡会」を設置
【6月】ヨット部 世界選手権出場
【7月】NTTドコモ、ディーエヌエー、福岡市と共に、「スマートモビリティ推進コンソーシアム」を設立
【9月】カリフォルニアオフィスSVEP10周年記念式典
【10月】エネルギー研究教育機構設置、新中央図書館プレオープン、ホンダ燃料電池自動車クラリティを導入 
【11月】中野三敏名誉教授 文化勲章受章、森田浩介教授113番元素名「ニホニウム」元素記号「Nh」正式決定
【12月】自動運転バス デモンストレーション
【2月】九州・大学発ベンチャー振興会議発足 

平成29年度における主な出来事としましては、
【4月】学園通線全線開通、小体育館開所
【5月】糸島市九州大学国際村構想発表
【6月】起業部発足
【8月】共創学部設置認可
【9月】法科大学院六本松施設開所
【10月】伊都キャンパス南口開通
【11月】伊都キャンパス・イーストゾーン連絡橋開通
【12月】法学研究院・河野俊行教授 国際イコモス会長就任
【1月】農学系総合教育研究棟 竣功
【2月】人文社会科学系総合教育研究棟 竣功 

この1年間の平成30年度における主な出来事としましては、
【4月】共創学部第1期生入学
【5月】「中本博雄賞」創設
【6月】芸術工学部50周年記念式典
【7月】日本ジョナサン・KS・チョイ文化館開館、比較法国際アカデミー国際会議
【8月】九大フィル東京公演
【9月】世界社会科学フォーラム(WSSF)、伊都キャンパス完成記念式典、農学研究院開校式典、イーストゾーン完成記念式典
【10月】中央図書館グランドオープン
【11月】新海征治特別主幹教授が文化功労者
【1月】エネルギーウィーク2019
【2月】伊都診療所開所
このようにいろいろなことがありました。
このような時代に皆さんは、学生生活を送ってきたわけです。 

この伊都キャンパスは、平成17年に移転を開始して以来13年かけて、昨年9月、完成しました。

9月29日には「伊都キャンパス完成記念式典」を挙行し、今後、伊都キャンパスを拠点として新たな時代を歩み始めるに際して、将来への決意を込めた「伊都キャンパス宣言」を公表しました。
1. 世界をリードする人材と新しい科学を生み出すキャンパス
2. 未来社会を切り拓く研究成果の実証実験の場としてのキャンパス
3. 歴史や自然など豊かな環境と共生するキャンパス 

九州大学は、この未来型キャンパスを核として、教育、研究、社会貢献、国際交流など多様な活動を大きく推進し、新しい歴史を築いて参ります。
今年は新しい元号に変わりますが、大きな歴史の転換期に私たちは生きています。この時代を貴重な出来事として記憶されることでしょう。

その他の病院、大橋、筑紫及び箱崎キャンパスで過ごされた方は、それぞれのキャンパスに懐かしい思い出を持っておられることと思います。

ところで、皆さんは大学で何を学びましたか。学位を授与されたことは専門的知識や技能を身につけた証明であります。色々な事象の俯瞰力、分析力、表現力などを習得されたことと思います。
基幹教育の理念であるものの見方・考え方・学び方の基礎を学んだことと思います。
また、学問をすることにより、新しいことを知る喜びを体験したのではないのでしょうか。学問分野は広いです。学びは一生続くものです。どうか知ることの喜びとともに学びの姿勢を続けていただくことを願っております。
さらに、日常生活、クラブ活動やアルバイトなど楽しいこと、苦しかったことなどさまざまな社会的な体験をしたことと思います。
これらの経験は皆さんの将来にきっと役立ちます。

次に、「人の存在の全体的気づき」についてお話したいと思います。
人は、個人として、さらには社会内存在、自然内存在、宇宙内存在であります。
私たちは自分の心や身体の状態について気づいていないことが多いです。日常生活の中ではさまざまな不安、抑うつ、悲しみ、失望、怒りや欲望などの感情、一方では嬉しい、楽しい、喜びなどの感情がおこります。一日のうちでもこれらの感情は変化します。自分の感情を気づくことにより、感情をコントロールすることに繋がります。 また、疲れや痛みなどの身体の変化に気づくことは体調のコントロールに重要です。自分の心と身体の状態に気づくことは、心身のセルフコントロールに役立ちます。また、他人や社会との適切な関係を保つことに繋がります。

社会内存在としては、地域や国内外の多様な政治、経済、文化、などの影響を受けて生活しています。
近年、多くの国や地域で保護主義やポピュリズムが台頭し、その根底には、拡大し続ける貧困や格差の問題があります。紛争、テロ、犯罪などが多発しております。このような状態では地球や人類の存在が危ぶまれます。2015年に「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」が国連で採択され、2030年までに達成を目指す17分野の目標が示されています。
一方、情報科学は大きく発展し、人工知能、ロボット、ビッグデータ、などの活用によるSociety5.0の時代に入っています。多くの仕事がロボットに取って代わられる時代になってきました。

自然内存在としては、日本は地震や津波、火山噴火、台風などの自然災害が毎年のように多発する環境です。温暖化の影響で気候変動が起きています。一方、美しい自然や四季に恵まれています。このような中で環境で古来より生活してきています。自然を大切にすること、災害への対応や温暖化対策が重要です。

宇宙内存在としては、人類の歴史について述べてみたいと思います。
人類の歴史は、
約136億年前にビッグバンがおこり、
46億年前に太陽系、45億年前に地球が誕生したと言われています。
50万年前に旧人類が誕生し、20万年前に新人類が誕生し、進化してきています。
20万年前の新人類誕生は、時間的に地球誕生から現在までを24時間として計算すると、わずか3.8秒になります。
私たちは永遠の過去のいのちを受け継いで、今ここに生きています。
このように私たちは個人、社会、自然、宇宙内存在として生きていることに気づくことが大事であります。このような存在に気づくことは、大きく言えば世界平和に繋がると考えています。
本日はこのことを皆さんへのメッセージにしたいと思います。

皆さんはいよいよ九州大学を卒業することになりました。
卒業しても学生時代にできた友人やクラブ活動の仲間、さらには同窓会との繋がりを大切にしてください。学生時代に得た友は一生の友となります。
そして、九州大学の卒業生として誇りと夢を持って今後の未来を切り開いていただくことを願っております。
グローバル社会を力強く牽引するリーダーとして大成されることを期待しまして告辞といたします。

平成31年3月20日
九州大学総長
久保 千春