About 九州大学について

令和2年度 入学者への総長メッセージ(2020年4月3日)

令和2年度入学者への総長メッセージ(2020年4月3日)

 九州大学にめでたく合格された新入生の皆さん、入学おめでとうございます。また大学院に入学される皆さん、入学を心よりお祝い申し上げます。九州大学教職員を代表して皆様方を歓迎致します。
 今日まで長きにわたって皆さんの勉学と生活を支え、常に励ましてこられたご家族をはじめ関係者の皆様にも心からお慶び申し上げます。
ちょうど桜が満開のこの頃に、皆さんをお迎えできますことを、大変嬉しく思います。ところで今年は新型コロナウイルス感染が世界的に拡大し、日本でも急速に感染患者の増加が見られ、福岡でも多くの患者が出ています。感染を予防するために入学式をやむなく中止することになりました。残念に思っておられることとお察しいたします。
 入学式は通常、ご来賓として、外国の在福岡総領事や九州大学卒業生で活躍しておられる方の祝辞をいただくところですが、今年はWEB配信による私からの祝辞のみとさせていただきます。
 今年度の学部入学生の数は2,646名、大学院生2,478名、合計5,124名であります。(※) 多くの新入生をお迎えでき、大変嬉しく思います。
皆さんは受験勉強から開放され、入学後のさまざまな可能性に心を躍らせて今日を迎えていることと思います。皆さんがこれから過ごす大学生の時代は自由な時間を享受できるかけがえのない時期です。
 大学の授業、クラブ活動、友達との交流、趣味、ボランティア活動などいろいろあると思います。一方、家族と離れて一人での新しい生活に不安を覚えている人も居るかもしれません。しかし、これは自立し、成長していくための第一歩でもあります。
 (※)入学者数については、令和2年3月30日時点の集計値です。

九州大学の歴史と現状
 さて、皆さんがこれから過ごす九州大学の歴史と現状について紹介致します。
 1903年(明治36年)今から117年前に京都帝国大学福岡医科大学が設置されました。その8年後の1911年(明治44年)に工科大学が設置され、医科大学と工科大学が一緒になり、九州帝国大学の歩みがスタートしました。日本で4番目にできた国立大学です。109年前になります。
 初代総長山川健次郎先生は、“修養が広くなければ完全な士というべからず”という言葉を残しておられます。すなわち、学生が日本の将来の各分野におけるリーダーシップを執るという責任を果たすには、専門の学問を究めるだけでなく、幅広い知見を持つべきである、ということです。109年前のことですが、現在にも通じる言葉です。
 以来、学部等の増設があり、2003年(平成15年)九州芸術工科大学との統合、2004年(平成16年)国立大学法人化などを経て現在に至っています。
 九州大学には、12の学部と、16の大学院研究組織の研究院、18の大学院教育組織の学府、4つの専門職大学院、そして高等研究院、基幹教育院、5つの研究所があります。さらに最先端の医療を提供する国内最大級1415床のベッドを持つ大学病院、約420万冊の蔵書を誇る図書館などを擁する我が国屈指の基幹総合大学であります。
 学生数は、学部学生11,647名、大学院生6,972名、合計18,619名、そのうち留学生2,387名、教職員約8,000名、総合計26,604名の大きな組織です。
 土地面積は、5つのキャンパス(伊都キャンパス、病院キャンパス、筑紫キャンパス、大橋キャンパス、箱崎キャンパス)、附属農場、4つの演習林などを合わせて合計約76km2であり、日本で3番目に広い敷地を持つ大学です。

伊都キャンパス
 皆さん全員が最初の1年間を過ごすこの伊都キャンパスを紹介します。この伊都キャンパスは、古来より大陸文化を取り入れた伊都の国としての歴史ある場所です。豊かな自然環境に恵まれた丘陵地で、東西3km、南北2.5kmの広大な敷地です。福岡ソフトバンクホークスの球場PayPayドーム40個分です。
 伊都キャンパスの建設にあたっては自然環境に配慮し、生物多様性の保全に努め、古墳などの貴重な文化財の保存に可能な限りの工夫と努力がされてきています。近くには糸島のきれいな海岸線や田園が広がっております。福岡市の中心部からは離れてはいますが、勉学にいそしむ素晴らしい環境です。
 この伊都キャンパスは、平成17年から移転を開始し、13年かけて1年半前の9月、統合移転が完了し、ようやく完成しました。単一面積では日本で最も広く、世界に誇れるキャンパスです。
 念願の伊都キャンパスが完成し、1年半前の2018年9月には「伊都キャンパス完成記念式典」を挙行しました。福岡市や糸島市と協力しながら、皆さんが生活しやすいように交通やアパート、コンビニエンスストアなどの生活環境も整備してきています。
 今後、伊都キャンパスを拠点として新たな時代を歩み始めるに際して、将来への決意を込めた「伊都キャンパス宣言」を公表しています。
 1. 世界をリードする人材と新しい科学を生み出すキャンパス
 2. 未来社会を切り拓く研究成果の実証実験の場としてのキャンパス
 3. 歴史や自然など豊かな環境と共生するキャンパス、です。
 九州大学は、この未来型キャンパスを核として、教育、研究、社会貢献、国際交流など多様な活動を大きく推進し、新しい歴史を築いて参ります。
九州大学の新しいキャッチコピーは「世界へ飛躍する九大新世紀」、「Leap into the Next」です。これを目指しています。
 その他のキャンパスとして病院地区、大橋地区、筑紫地区にキャンパスがあります。1年間の基幹教育の後、医歯薬系の人は病院地区で、芸術工学部の人は大橋地区キャンパスで専門教育を受けることになります。
 一方、箱崎キャンパスは大学本部の建物と総合博物館のある工学部本館及び正門は近代建築物の記念として保存されることになっています。
 その他は売却に向けて土地の整備がなされており、新しいまちづくりの視点から福岡市などの関係機関との協議が進んでいます。

九州大学の教育
 九州大学の基本理念は「自律的に改革を続け、教育の質を国際的に保証するとともに、常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」です。スローガンは躍進百大、「九州大学が全ての分野において、世界のトップ百大学に躍進する」ということを掲げています。
 九州大学の教育は、「日本の様々な分野において指導的な役割を果たし、アジアをはじめ広く全世界で活躍する人材を輩出し、日本及び世界の発展に貢献することを目的とする」として教育憲章に掲げています。すなわち、人間性、社会性、国際性、専門性を身につけた優れた人材を育成することにあります。
 皆さんは、これからの大学生活の中でこれらを身につけていただくことを期待しております。
 ところで、皆さんは、これからどのような学生生活を送ることになるのでしょうか?今年は新型コロナウイルス感染拡大のため、新学期の授業などについて不安に思っておられる方も多いかと思います。感染拡大を防ぐため、授業開始は5月7日より行うことにしました。また、授業はオンラインでの遠隔授業による科目のみの開講とし、教室での対面授業は当分の間行いません。今後大学から出される情報に注意しておいてください。
 すべての入学生の皆さんは最初、教養教育としての基幹教育をここ伊都キャンパスで受けることになります。基幹教育とは、文系理系を問わず、専攻の異なる学生が一緒に対話型の協働学習をしながら、「ものの見方・考え方・学び方」を学び、生涯にわたって自律的に学び続けるアクティブ・ラーナーを育成する教育を言います。高校までの教育では、先生から生徒への知識の伝達や答えが存在する問いに解答することであったのではないでしょうか。
 しかし、大学での学びは自分で課題を見つけ、論理的思考力を養い、知識そのものを新たな視点から創造的・批判的に“なぜ?”、“どうして?”と問い、自ら課題を発見・解決し、新たな知を創造していくことです。
 また、英語による授業が行われ、書く力や、話す力が養われます。
 1年間の基幹教育が終わると、学部のあるそれぞれのキャンパスで専攻教育を受け、専門性を身につけることになります。

新入生へのメッセージ
 新入生の皆さん方にお願いしたいことが3つあります。一つは“広い学問分野への興味”、二つ目は“国際的視野と活動”、三つ目は“政治への関心と行動力”です。

1. “広い学問分野への興味”についてですが、九州大学は基幹総合大学であり、12学部、16研究院、18学府があります。その他に4つの専門職大学院、5つの研究所を持っています。人文社会学系、理工系、医歯薬系などの、さまざまな分野の一流の専門の先生方がたくさんおり、さまざまな学問を学ぶことができます。新しいことを知ることは大きな喜びです。基幹総合大学としての強みを生かして積極的にいろいろな学問分野に興味を持って、幅広く学んでいただくことを願っています。若い時は柔軟な頭脳と行動力があります。この時期を大切にしてください。
2.“国際的視野と活動”です。現在はインターネットの普及、経済や人の交流のボーダーレス化、企業の国際化、などがあり、皆さんは今後、グローバル社会を生きていかなければなりません。国際性とは単に外国語が出来るということではなく、自国の文化や歴史を知り、自分の考え方を国際社会で主張出来る創造的、論理的思考力、批判的、積極的姿勢や語学力を兼ね備えることです。そのための近道は海外留学体験と外国人留学生との交流です。
 九州大学には昨年大学全体で、外国からの留学生は、世界102の国・地域から2,300名を超えています。 また、昨年は学部生、大学院生を含めて約2,000名が留学しています。
 ロバート・ファン アントレプレナーシップセンターが主催する「Entrepreneurship Boot camp」や「グローバルPBLプログラム」を始めとし、多くの海外留学プログラムを提供しています。また、プログラム参加にあたって、「九州大学基金」による奨学金制度や官民協働海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」などのいろいろな経済的支援制度などが充実しています。これらを積極的に活用してください。こうしたプログラム・奨学金制度を積極的に活用し、世界に飛び出していただきたいと思います。若いうちに留学体験することにより視野が広がり、俯瞰する力が育まれ、また、自己を客観視する力などが養われます。「百聞は一見にしかず」です。
 また、九州大学の中は多くの留学生が集う多様性豊かな国際キャンパスです。留学生と日常的に切磋琢磨し交流することにより、国際的な視野や語学力を身につけることができ、世界の舞台で指導的役割を担うグローバル人材に育つと思います。
3. 三つ目は政治への関心と行動力です。
 政治は社会のあり方に大きく影響を及ぼします。2015年に改正公職選挙法が成立し、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられましたので、皆さんは選挙権を持っています。政治のあり方は、社会や国民の日々の生活に大きく関係します。日本は、急速な少子高齢化、過疎化、財政難、医療・介護問題などに直面しています。
 今回の新型コロナウイルス感染対策についても政治判断が大きく影響することは皆さん感じていることと思います。さまざまな問題を解決するためには、政治のあり方が重要であり、日本の未来に大きく関係します。ぜひ、政治に関心を持ち、選挙に参加してください。
 また、世界においては、政治状況は大きく変化し、緊張関係をもたらしています。世界各地で紛争が続いているところが多く見られます。
 ところで、昨年12月、本学卒業生で高等研究院特別主幹教授の中村哲先生がアフガニスタンで凶弾を受け亡くなられました。このような形で命を落とされることは痛恨の極みであります。中村哲先生は昭和48(1973)年3月に本学医学部医学科を卒業された、皆さんの先輩です。ペシャワール会現地代表となられて以来、パキスタンやアフガニスタンにて医療活動に従事する傍ら、農村復興のための水利事業を続けてこられ、アフガニスタンに全長25キロにもわたる用水路を整備されました。これらの事業は先生の行動力のなせる業だと思います。
 先生の言葉に「困っている人がいたら手を差し伸べる。それは普通のことです。」というものがあります。思いやりの気持ちと実際の行動に移す力を皆さんにもぜひ引き継いでもらいたいと思います。

大学院生へのメッセージ
 大学院生の皆さんには二つのことを心にとめて頂きたいと思います。
 一つ目は一流の研究を目指すこと、
 二つ目は社会の課題への挑戦、です。
1. 一流の研究を目指すこと
 大学院では、これまでの学士課程で身につけた幅広い知識、教養、技術をもとに、より専門的な知識や技術を習得し、専門性を深化させていきます。徹底した実験、調査、観察を通して新たな真実を導くという研究の感動を味わってほしいと願っています。素晴らしい研究は頭脳が柔らかい若い時代の研究が元になっています。是非一流の研究を目指してください。インターネットが発達し、多くの情報が溢れています。情報に惑わされずに、まず何を目指すのか、自分のビジョンをしっかり持ち、その上で研究計画を立てることです。九州大学には恵まれた施設や設備があり、多彩で多様なすばらしい先生方がいます。ぜひ思う存分活用していただきたいと思います。大学院生時代の特権は、自分の時間が十分に使えることです。研究の魅力、学会発表、論文を完成する喜び、先生や仲間との交流などの多くの感動を体験してください。
2. 社会の課題への挑戦
 インターネットや人工知能などの科学技術の進歩は、日常生活の便利さや快適さで恩恵をもたらしています。しかし、一方、環境汚染、地球温暖化、エネルギー問題、食料・水問題、宗教・民族間の対立や紛争、大規模災害・感染症など、地球規模の課題に直面しています。また、我が国特有の課題として、世界に類を見ない少子高齢化、過疎化、医療・介護問題、厳しい財政状況などがあります。どうかこれらの社会の課題に果敢に挑戦するような研究も行っていただきたいと思います。現在、世界的な問題となっている新型コロナウイルス感染症に対して挑戦する人たちが出てくるのを願っています。

吉野彰先生からのお祝いのメッセージ
 昨年、10月ノーベル化学賞を受賞された吉野彰先生からの皆さんへのお祝いのメッセージをお送りいたします。吉野先生は本学の訪問教授であり、現在では栄誉教授であります。
 「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。
 私の学生時代を振り返りながら、一言祝辞を申し上げます。まず、大学時代には人との出会いを大切にし、色々なことに本気に取り組んで、失敗も含めたできるだけ多くの経験を積んでください。私は、多くの縁に恵まれ、大学時代は、後にノーベル賞学者となる福井謙一先生の孫弟子でした。そして、福井先生のフロンティア軌道論から導電性プラスチックを研究された白川先生のテーマであった物質を、旭化成という会社で用途開発をする過程でたどり着いたリチウムイオン電池の研究開発により、かねて親交のあった、米国Texas大学のGoodenough教授、New York 州立大学のWhittingham教授と昨年ノーベル化学賞をいただくことができました。
 また、私も大学時代はサークル活動で考古学にも打込み、その後の研究の進め方に活きる様々なことを学びました。皆さんもこの海外に開かれた、日本の玄関口でもある福岡の地で色々なことに本気で取り組んで、そこから色々なことを学び取り、良き師・良き仲間と出会い、充実した生活を過ごして下さい。それが、ご自身の将来の糧になります。
 世の中は留まるところ知らず複雑になっていきますが、皆さんはその中で生きていかねばならず、また、そこでリーダーとなる責任があります。 恐れることはありません、いつの時代も前例の無いことに人間の英知で乗り越えて生きて今日があるのです。
 皆さんの前途がチャレンジに満ち溢れ、それを乗り越えていく人物となられますよう、お祝いの言葉といたします。  吉野 彰」

結びにあたり
 最後に、皆さんの門出を祝い、九大混声合唱団による本学学生歌「松原に」をお届けします。この歌は学生の集まりや同窓会などでよく歌われています。ぜひ覚えておいていただければと思います。

 九州大学は皆さんが持っているさまざまな可能性を大きく成長させてくれる 素晴らしい人材と環境に恵まれています。この恵まれた環境を存分に活用して、学問への夢を育んでください。私たち、教職員は、皆さんの能力を更に大きく伸ばすことができるよう、全力で応援いたします。
 皆さんのこれからの大学生活が、新たな出会い、発見や体験などで楽しく充実したものになることを心から願いまして、お祝いの言葉といたします。

令和2年4月3日
九州大学総長
久保千春