「Kyushu University VISION 2030」は、九州大学が目指す「総合知で社会変革を牽引する大学」を実現するために策定したビジョンです。このビジョンは、「指定国立大学法人」の指定申請を契機に、九州大学の未来を担う若い教職員を含めた全学的な議論を重ねて得た今後10年間の本学の方向性、方針を示すものです。指定国立大学法人とは、世界最高水準の研究教育活動の展開が見込まれる国立大学法人を文部科学省が指定するもので、本学は2021年11月に指定国立大学法人に指定されました。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、社会経済は甚大な被害を受け、人々の行動が大幅に制限されるなど、私たちの日常は大きく変わりました。この劇的な社会情勢の変化の中、新型コロナウイルスと共存しながら人間社会の営みも維持していくwith & beyond コロナ時代の持続可能な社会の再構築が必要です。これまで、大学が培ってきた叡智を結集し、新しい時代の困難な課題への解決策を示していくことが、大学に課せられた重要な役割だと考えています。持続可能な社会の発展と人々の多様な幸せ(=well-being)を実現できる社会に貢献していくためには、九州大学も新たなステージへと踏み出さなければなりません。
九州大学が2030年に向けて目指す姿は、多様な「知」と「人材」を結集し、新たな価値創造の基盤となる研究とイノベーションの創出を牽引し、自然科学系と人文社会科学系、さらにはデザインを加えた知による「総合知」によって、社会的課題の解決とそれによる社会・経済システムの変革に貢献する「総合知で社会変革を牽引する大学」です。
そのために、多様なアプローチによる自由闊達な研究と、それらが基盤となって生み出される先端研究や、未来を拓く探求心旺盛な学生を育てる教育により、国際頭脳循環を創出する知のプラットフォームを築き上げることが必要です。そして、このプラットフォームが、秀逸な人材と社会の関心を惹きつけ、「総合知」による新しい価値を創造します。この「総合知」による社会・経済システムの変革の波を、福岡・九州から、日本、アジアそして世界へと広げ、ひいては、大学の研究教育資源の発展に繋がるという好循環を生み出すイノベーション・エコシステムを形成することが必要です。
今後、本学が、多くの学生や研究者にとって魅力のある世界最高水準の教育、研究を展開し、国際競争力をもつ各国の大学に伍していくために、歴史と伝統に培われた本学の学問を基盤に、一丸となって「Kyushu University VISION 2030」に基づく新しい取組を進めてまいります。
自律性と多様性を備えたガバナンスで、持続可能な経営体への変革を図る。
大学の諸活動に関するデータを収集して分析し、そのエビデンスを生かして大学の経営判断、施策の立案と評価や効果的な資源配分など、持続可能な経営体への変革を促進する。
多様なステークホルダーが参画する機会を拡大し、多角的な視点や意見を施策に反映させるなど大学経営の改善を図り、地域の産学官民連携組織とのエンゲージメント強化により、地域社会の発展に貢献する。
本学を構成する全ての職種と職位において国籍、性別や年齢の区別なく、多様な価値観やライフスタイルを持つ人材の雇用・登用を促進し、経営視点、国際視点やエクイティ視点を大学運営に活用する環境を構築する。
新たな価値を次々に生み出すデータ駆動型の教育、研究、医療を展開し、人々に真の豊かさをもたらす未来社会の実現に取り組む。
「人間中心の社会」という価値観のもと、DXによって実現可能な新たな社会モデルを多様な分野の知の統合により探究し、その成果を社会に発信・共有する。
オープンデータ等を活用して数理・データサイエンスやAIを学べる研究教育環境の充実を図り、自らの専門分野にそれらの知識・技術を応用できる学生・研究者を育成する。
研究、教育、医療等のDXによって社会・経済システムの変革につながる新たな価値を創造し、自治体や企業等との協働により、その価値を多層的な地域で展開する。
新たな社会をデザインする力と課題を解決する力を有し、グローバルに活躍できる価値創造人材を育成する。
課題発掘・課題解決・価値創造の視点や発想を学ぶ教育を全学展開し、総合知により新たな社会をデザインする力や新たな価値を創造できる力を備えた人材の育成を推進する。
「高度な知のプロフェッショナル」を育成する分野融合型学位プログラムなどの展開により、多様な能力や価値観をもった博士人材の育成を推進する。
産業界と協働したキャリアパスの多様化を図る教育を推進するとともに、組織的なアントレプレナーシップ教育を展開して、新たな価値創造に挑戦する人材を育成する。
あらゆる学生が充実した学生生活を過ごせる研究教育環境の充実を図るとともに、フェローシップに代表される経済的支援など、総合的な学生支援を実施する。
学術基盤研究から社会変革に貢献する展開研究まで広く研究力を強化し、国際競争力を高めるとともに社会的課題の解決に貢献する。
大学の総合的な研究戦略機能を高めるとともに、効果的な学内資源の配分による研究支援を通じて、学術を発展させる総合知や、社会的課題解決に資する総合知を創出する基盤を強化する。
戦略的に学内資源を配分し、脱炭素、医療・健康、環境・食料など社会的課題解決に資する先端研究の強化・加速を図るとともに、これに続く新たな研究分野の発掘・育成を促進する。
秀逸な若手・女性・外国人研究者の獲得・育成・定着につなげる多様な制度を一体的に展開するとともに、FQR制度*による研究時間の確保や研究機器の共同利用等を通じて自由闊達な研究を保証する環境の充実を図る。
*FQR制度:Free Quarter for Research制度。教育課程でのクォーター制、デジタル技術の活用等による授業科目の統合等、大学と部局の管理運営会議を原則として開催しない期間を3か月間設定、構成員数・開催頻度を極力少なくするなどにより、教員の教育や管理運営業務の負担軽減を図ることで、自らの研究に集中できる期間を少なくとも1クォーター確保する。
知の拠点として地域社会やグローバル社会と共生・共創し、研究教育活動を通して社会の持続可能な発展と人々のウェルビーイングの向上に貢献する。
産学官民で組織、制度に捉われない協働の場を形成し、バックキャストによる中長期的ビジョンメイキングや課題探索を進め、産学官民共同プロジェクトの創出を促進する。
イノベーション創出につながる独創的な研究成果をいち早く発掘し、社会との協働、知的財産やベンチャー企業の創出拡大などを通して、福岡・九州からアジアそして世界へと研究成果の社会実装を展開する。
地域でのアウトリーチ活動を通じて、「責任ある研究・イノベーション」の展開を図るとともに、地域コミュニティと密接に結びついた社会実験的な研究教育活動を推進する。
組織的な国際協働を通じて、国際頭脳循環のハブとなり、国際社会においてリーダーとなる人材の輩出及び 地球規模の課題解決に貢献する。
本学の強み・特色を生かして国際大学連携コンソーシアムにおいて主導的な取組を展開するとともに、重点交流校の選定と連携強化を行い、国際協働の深化と拡大を図る。
国内外の若手研究者が国、専門分野、世代を超えて力を養う国際頭脳循環の拠点を形成し、研究教育連携ネットワークの構築と拡大を図る。
民間等との協働により、留学生や外国人研究者に対する生活支援や受入環境・就学環境の改善を図るとともに、外国人研究者・留学生と日本人研究者・学生との交流・共修を促進する。
志の高い優れた医療人の育成に努め、最先端医療の創出と質の高い診療の提供に尽力し、人々の期待と信頼に応える最善の医療を追求する。
新型コロナウイルス感染症など新興・再興感染症患者の診療に加え、それを支える関連の医療人を育成し、地域における感染症対策全般に貢献する。
ゲノム情報に基づくがん診療など地域における最先端医療を担い、臨床研究中核病院として革新的医薬品や医療機器開発に貢献する。
疾患・地域コホートにより臨床情報と検体を集積し、新たに開発する技術で解析して、患者個人の疾患の成り立ちを分子レベルで明らかにし、個別化された最先端医療を実現する。
多様かつ安定的な財源の確保と運用を行い、持続的・自律的な経営を実現する。
企業等との組織対応型連携を拡大し、社会変革・実装につながる成果の創出を促進して、大型の共同研究や受託研究等の外部資金の獲得につなげ、研究教育活動の高度化に必要な資金の還流を図る。
多層的なベンチャー支援ファンドの展開や経営者人材の組織的な育成を進め、大学発ベンチャーの創出促進とこれに伴う知財収入等の拡大につなげる。
国内外の同窓会や留学生ネットワークなど多様なステークホルダーとの連携の強化及びファンドレイジング機能の強化を通じて、寄附金収入の拡大を図る。