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花田俊也
教授
工学研究院航空宇宙工学部門 国際宇宙天気科学・教育センター
専門分野
宇宙工学
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数千キロ上空の宇宙で今、何百万もの宇宙ごみ(スペースデブリ)が時速2万8千キロで、地球の周りを飛び交っています。遥か彼方にあるこれらの物体は、多くの人にとっては無関係かもしれません。しかし、それが1円玉ほどの大きさでも、その速度で衛星に衝突すると、甚大な被害を及ぼすとともに、たちまち、天気予報やGPS、テレビ放送など私たちの生活に欠かせないサービスに影響を与え、脅威となります。
「新たなロケットの打ち上げがなかったとしても、放っておけばスペースデブリ同士の衝突で量は増え続け、宇宙での活動は年々危険性が高まっていきます」。九州大学大学院工学研究院航空宇宙工学部門の花田俊也教授はそう指摘します。「未来の安全な宇宙空間のために、今すぐ手を打たなければなりません」。
花田教授は、1997年から理論計算を実験と組み合わせ、スペースデブリの追跡と時間の経過に伴い状況がどのように推移するのか予測するモデルの開発に力を注いできました。その成果が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同で開発した、地球の周りにある全ての物体の追跡と将来予測を行うモデル NEODEEMです。
スペースデブリという難題に取り組む時、花田教授がいつも大切にしている言葉は「シンプル・イズ・ベスト」です。 花田教授と研究グループは、一見複雑な現象について、単純な法則とアルゴリズムで紐解こうとしています。スペースデブリが衝突する確率の評価、または、考慮すべき点をなるべく減らすことを目指し、既知の方程式とアルゴリズムを融合させ、新たなモデルを作っています。既知のモデルとデータが十分でない場合には、机上にとどまらず、実験を行い実際のデータを集め、それらのギャップを埋めています。
「高速や低速で衛星に衝突して破砕した際の破片の実験データは、NEODEEMに組み込まれており、それは宇宙機関が独自にモデルを構築する際にも役立てられています」と花田教授は説明します。
NEODEEMは、花田教授がそれぞれ別に開発した2つのモデルから発展しました。1つ目はGEODEEMで、赤道の上空3万5786キロ、地球と衛星が一定の位置関係を保つことができる静止軌道上にあるスペースデブリの追跡に特化したモデルです。
2つ目はLEODEEMで、地球から2千キロ以内の低軌道上にある物体を追跡する、JAXAと共同開発したモデルで、大気抵抗という複雑な要素について考慮しています。大気抵抗は、太陽が空気を暖めることで大きく変化します。この2つのモデルを合わせ、継続的に更新を重ねたNEODEEMにより、現在、地球を周回するすべての物体を完全に把握できるようになりました。
花田教授は、このモデルを使って、スペースデブリを追跡する地上システムの誘導や発生源の特定に活用するだけでなく、スペースデブリの除去と除去の推進策についても積極的に検討しています。さらに、地上からは観測できない、 サイズ1ミリメートル以下の破片の把握を目的とした超小型衛星の設計も進めています。
衛星に関する教育研究の重要な取り組みとして、缶ジュースサイズの「缶サット」と呼ばれる模擬人工衛星を、地上4キロまで試験的に打ち上げる学生主導のプロジェクトがあります。これらのプロジェクトは、主体が学生であり、花田教授はあくまでも協力者の1人です。
「相談がない限り、口出ししないということを大切にしています。本当はこうした方がいいのに、と思うこともあり、難しいのですが」と花田教授。「しかし、学生がこういったプロジェクトや経験を通して、すこぶる成長しているのを感じます。プロジェクトとは別の責任を抱えたり、他の勉強をやったりしながらも、バランスを取り、能力を身につけていく学生の姿に驚かされます」と話します。
現在、花田教授と学生たちは、 クラウドファンディングによる小型衛星(愛称Q-Li)の打ち上げプロジェクトを進めています。軌道上を回るスペースデブリの様子を、地上から光の反射を用いて観察する方法の正確性について、実際にQ-Liに搭載したセンサーで確かめる予定です。
次世代の科学者たちを育て、スペースデブリの問題に真正面から取り組む花田教授。将来の有益な宇宙開発のため、クリーンで安全な宇宙空間を後世に残すと決めています。