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Research 研究・産学官民連携

知覚心理学研究室:人間機能を向上させ幸福な暮らしを実現するために、人間の聴覚と視覚のキャパシティを研究する

芸術工学研究院 研究紹介

知覚心理学研究室:人間機能を向上させ幸福な暮らしを実現するために、人間の聴覚と視覚のキャパシティを研究する

芸術工学研究院 デザイン人間科学部門
准教授 Gerard B. Remijn

日常生活での、ひそひそ話の特別な役割とは何でしょうか。人間の声を魅力的に、あるいは暖かく感じさせるものは何でしょうか。視覚的対象を記憶するのに、音声は役立つのでしょうか。パスワードを作成して端末にログインするために、指の代わりに視線を使うことはできるでしょうか。これらは、大橋キャンパスの知覚心理学研究室で研究されている課題のほんの一部です。私たちは主に人間の聴覚や視覚の限界(あるいはキャパシティの向上)について研究しています。人間の知覚全般に関する知識を高め、日常生活における人間の幸福と機能を向上させるためです。人間の知覚のキャパシティに焦点を当てるということは、「特殊な」ケースに目を向けるということです。聴覚・視覚の錯覚、ささやきや叫びといった話し声のモード、絶対音感や共感覚(例:音楽や文字に色を感じる)、他にもさまざまな例があります。私たちはいわゆる心理物理学的な手法を用います。例えば被験者に、ある刺激の1つの性質(例えば、その持続時間)を、他の刺激にも当てはめるよう調整することがあります。さらに脳波検査を用いて、視覚的または聴覚的な刺激に対する脳の反応を測定することもあります。ここからは、いくつかの研究について詳しくご紹介します。

■声のモードに関する研究

ささやき声に関する数多くのことわざの1つに「ささやきは叫びよりも力強い」というものがあります。ささやき声は通常、1対1のコミュニケーションで、話し手が他の人に聞かれないよう聞き手だけに届けたいメッセージを伝える際に用いられます。どうやらささやき声は、即座に私たちの注意を惹きつけるようです。非常に強力なコミュニケーションツールなのです。私たちの研究では、ささやき声に対して脳の特定の部分が通常の話し声の場合よりもずっと強い反応を示すことが明らかになっています。これは子供の場合も同様です。ささやき声に強く反応する脳の領域は左半球の運動野です。ここは普通であれば、通常の話し声を発する際に働く領域です。もしかしたら、子供たちの発話能力の発達を診断する際に、ささやき声を活用するのも有効かもしれません。

Figure 1: NHKアナウンサの協力による音声知覚実験のためのニュース文録音

Figure 2: ささやき声に対する脳血流増加量 (Remijn et al., 2017)

■聴覚の錯覚、および視覚と聴覚が連動する錯覚に関する研究

パソコンの画面は平面ですが、私たちは簡単に奥行きを見出すことができます。それは私たちの視覚のシステムが、奥行きの知覚を示す特定の手掛かりを使って、2次元の情報を3次元のイメージへと翻訳しているからです。たとえば、大きな物体は小さな物体よりも手の届きやすい近くにあると考えられるでしょう。では、こうした手掛かりを操作すると何が起こるでしょうか。「Polka Dance」刺激は、同じ大きさのバーを2つ並べ、円を描くように横方向に回すというものです。バーの大きさが一定であれば、回転中に4つの異なる知覚表象が見えます。つまり1つの視覚的な動きのパターンが、4つの異なる方法で知覚されるということです。私たちの脳がこれらの知覚表象を作り出すのです。これを研究することで、脳が奥行きの知覚を作り出す方法について、より詳しく知ることができるようになるでしょう。さらに短い音声を加えることで、このうちの1つの知覚表象が優位に知覚される場合があります。つまり、私たちが動いている物体を視認する方法に、音声が影響を与えるかもしれないということです。

Figure 3: Polka Dance刺激 (Remijn, Yoshizawa & Yano., in press)

■特殊な知覚能力に関する研究

ある感覚のモダリティでの刺激が、自動的かつ無意識に、別の感覚のモダリティでの知覚を引き起こす場合、これは共感覚と呼ばれます。典型的な例は、文字や数字から色彩を感じ取る色字共感覚です。音から色彩を知覚するのも共感覚の一例です。絶対音感は、ある音の音程を他の音を参考にすることなく言い当てることができる能力です。共感覚も絶対音感も、一般の人々の間に頻繁に見られるわけではない、知覚の特殊な例です。共感覚や絶対音感を持つ人の脳の中では、多くの人には見られない特定の結合が存在しているようです。知覚心理学研究室では、こうした特殊な接続がどのように発生するのか、またこれを日常生活にどう生かせるかに注目しています。ゆくゆくはこうした知見が、通常の発達過程をたどっている脳、および自閉症スペクトラム障害など通常とは異なる発達過程をたどっている脳の両方での学習のプロセスを、より深く理解することにつながるかもしれません。

Figure 4: 視聴覚・共感覚実験の様子

■知覚に関する研究の実用化

私たちは、研究の実用化の道を常に探っています。ビジュアル・パスワードの利用がその一例です。最近ではさまざまなデバイスで、アルファベットと数字による長々しいパスワードを個別に設定しなければならず、その数も増える一方です。公共の場で手動でパスワードを入力する場合には(例:ATM、タブレット、携帯電話など)、盗み見されてパスワードが漏えいしてしまうこともあります。そのため私たちは手動での入力に代わる手段を探しています。候補の1つがアイトラッキングを使用したパスワード入力です。視線を使ってスクリーン上の対象を選択し、視覚的なパスワードとして利用するのです。さまざまなフォーマットや対象が検討されており、たとえばパスワード形成のための理想的なグリッドのサイズや密度、視覚的な対象を記憶するまでにかかる時間、またこうした対象を暗記する際に音声が及ぼす効果などについて、研究が進められています。お年寄りや、また車椅子などさまざまな位置から物を見ている人も含めて、どのようなユーザーでも利用できる最適なビジュアル・パスワードシステムに到達することが目標です。

私たちの活動は、応用知覚科学研究センターと共同で行われています。私たちの活動や、知覚心理学研究室で学ぶことに興味をお持ちの方は、Gerard B. Remijnまでご連絡ください。

■参考文献
Hokajo, M., Nakajima, Y., Ueda, K. Hiramatsu C., Nishikawa, M., Remijn, G.B. (2017). A case study on synesthesia: Is there a connection between Japanese hiraganakatakana articulation categories and color grouping? Presented at Fecher Day 2017, Fukuoka, Japan.
Paulus, Y.T., Hiramatsu, C., Kam-Hwei Syn, Y., Remijn, G.B. (2017). Measurement of viewing distances and angles for eye tracking under different lighting conditions. Proceedings of ICACOMIT 2017, IEEE Explore 54-58.
Remijn, G.B., Yoshizawa, T., Yano, H. (in press). Streaming, bouncing and rotation: the Polka Dance stimulus. i-Perception.
Remijn, G.B., Kikuchi, M., Shitamichi, K., Ueno, S., Yoshimura, Y., Tsubokawa, T., Kojima, H., Higashida, H., Minabe, Y. (2017). A NIRS study on cortical hemodynamic responses to normal and whispered speech in 3- to 7-year-old children. Journal of Speech, Language and Hearing Research, 60, 465-470.


■お問い合わせ先
九州大学大学院芸術工学研究院 デザイン人間科学部門 准教授 Gerard B. Remijn