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Research 研究・産学官民連携

日本画に見られる書き割りという空間概念について

芸術工学研究院 研究紹介

日本画に見られる書き割りという空間概念について

芸術工学研究院 未来共生デザイン部門
助教 中村恭子

 わたしは絵画を描く画家ですが、わたしの作品制作の営みは、作品制作の実践を通して、創造性とは何かという普遍的問いをメタレベルで問い、作品が創造性を解読する装置となることを意識しています。創造性の解読探求が、個別的創造行為に二重化されていると言えます[1]。

書き割りが呼び込む外部

 2018年の著書で、日本の古画に見られる独特な空間表現を見出し、これを舞台背景装置の「書き割り」と呼称しました[2]。書き割りは、表の表面において視界が断ち切られます。なぜなら、裏側が無いからです。つまり、図形平面の板が連なる書き割りのような山並みの風景表現は、こちら側に対応する想定可能な向こう側など無いことを積極的に示します。書き割りはこの意味で、その背後に外部を配していると言えます。書き割りは、遠近概念を問題にせず、知覚できないが存在する外部を問題にする視座です。外部をいかに召喚するか、ということが、創造行為の要であり、書き割りはその一つの具体的な方法なのです。以来、既存の対応関係を脱色する構造が見出せるさまざまな事例を、書き割りの構造として作品化・理論化しています[3,4,5,6]。

人も書き割りになる

 最近では諏訪市美術館の企画展で大規模な個展を開催し、諏訪地方の信仰である御柱を書き割りの棒として捉えた四曲屏風図絵を含む約30点を発表しています(図1)。また、人間も書き割りになるという構想へ発展し、チリ最南端の失われた民族やチリの墓碑アニミータ、日本の古墳などに見られる書き割り化構造を題材に、シャルル・フーリエや郡司ペギオ幸夫などの理論との関連を示しつつ研究を進めています[7,8](図2,3,4)。

(図1)中村恭子筆《御柱図絵屏風》四曲一隻屏風, 絹本彩色, 185×306 cm, 第一扇 杜の柱; 第二扇 都市の柱; 第三扇 お化けの柱; 第四扇 岩の柱, 各145×55.5 cm, 2019年, 表装:(有)装雅堂, 諏訪市美術館令和四年度特集展示:中村恭子日本画作品展「脱創造する御柱」会場より

(図2)中村恭子筆《書割少女》四幅対, 絹本彩色, 各84.5×30 cm, 2020-21年, 表装:(有)装雅堂

(図3)中村恭子筆《古墳蝉》, 反古墳シリーズ三部作のうち一幅, 絹本彩色, 123.5×40.5 cm, 2021年, 表装:(有)装雅堂

(図4)中村恭子筆《たぶれごころの吊尾根》, 反古墳シリーズ三部作のうち一幅, 絹本彩色, 123.5×40.5 cm, 2022年, 表装中:(有)装雅堂

引用文献

[1] Nakamura, K. & Gunji, Y-P. (2019). Entanglement of Art Coefficient, or Creativity, Springer, Foundations of Science 25: pp.247-257(2020): doi.org/10.1007/s10699-019-09586-8

[2] 中村恭子・郡司ペギオ幸夫 (2018). TANKURI―創造性を撃つ, 水声社

[3] 中村恭子・郡司ペギオ幸夫 (2020). 書き割り少女─脱創造への装置─, ジャーナル共創学Vol. 2, No.1: pp.1-12, https://nihon-kyousou.jp/cocreationology/vol2_no1/Cocreationology_2-1-1.pdf

[4] Nakamura, K. (2021). De-Creation in Japanese Painting: Materialization of Thoroughly Passive Attitude, MDPI, Philosophies 6(2), 35; doi.org/10.3390/philosophies6020035

[5] Gunji, Y. P. & Nakamura, K. (2022). Kakiwari: The device summoning creativity in art and cognition, In: Unconventional Computing, Philosopies and Art (Adamatzky, A. ed.) World Scientific, pp.135-168

[6] 中村恭子 (2020)書き割りの身をうぐひす、無限小の幸福, アフェクトゥス(情動):生の外側に触れる, 西井涼子・箭内匡編, pp.8-40, 京都大学学術出版会

[7] Nakamura, K. (2019). L’archibras se relève, Les Presses du réel, Cahiers Charles Fourier n° 30: pp.23-36, pp.91-94

[8] 中村恭子 (2021). 蛇を前に蛙もわたしも人間であった──フーリエの無限概念で観る《鳥獣戯画》, ユリイカ4月号特集=鳥獣戯画の世界, 53-4: pp.290-296, 青土社

今後の活動について

2023年2月から主要取扱作家として所属しているアートスペースキムラASK?(東京)にて個展開催予定。また、2023年5月からメタモルフォーシス展(八十二文化財団, 長野)に参画予定。展覧会や活動については中村恭子ホームページYouTubeチャンネルで更新しています。

■お問合せ先

芸術工学研究院 未来共生デザイン部門
助教 中村恭子