Research 研究・産学官民連携

分野間の境界を超えた協働による、新たな価値提案

芸術工学研究院 研究紹介

分野間の境界を超えた協働による、新たな価値提案

芸術工学研究院 ストラテジックデザイン部門
 准教授 德久 悟  

 私が主宰する研究室はinterdisciplinary design labという名称で、分野間の境界を越えて協働し、知識を融合して新しいアプローチを創出することを重視しています。したがって、連携先も産官学といった区分けに留まらず、様々な組織や専門家との協働の機会をいただいています。そのような私の研究室には、大きく3つの研究領域があります。

 第1に、サービスデザインです。本領域は、任意の文脈における様々なアクター、アクターの持つリソース、アクター同士の関係性を分析し、最適な受益者体験、それらを実現するエコシステムのデザインを目的としています。例えば、TOPPANホールディングス株式会社をパートナーとして、TOPPANの持つデジタルツインプラットフォームTransBots®を活用しつつ、総合病院における患者案内サービスをデザインしました [1]。また、科研費・挑戦的研究(萌芽)の支援を受け、Web3の思想にもとづくデザイン原則、ツール、プロセスからなるフレームワーク(図1)の構築と評価を行っています[2]。

図1. Web3サービスデザインフレームワーク:Web3サービスエコシステムマップ

 第2に、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションです。本領域は、任意の文脈におけるヒトおよび現象を分析し、ヒトとコンピュータとのやりとりを通じて、ユーザに新たな価値を提案することを目的としています。例えば、修士課程に在籍中のAnnisa Dhia Baswedanさんは、福岡市科学館をフィールドとして、科学博物館を舞台にした擬人化されたキャラクターが登場するARゲーム「かがくかんの冒険」(図2)を提案し、国際会議CHI Play 2024にて発表を行いました[3]。また、博士課程に在籍中の邱俊盛さんは、BtoBにおけるSaaS製品のUX評価手法「Dual-Track UX」を提案し、国際会議 CHI 2025 にて発表を行いました[4]。

図2. かがくかんの冒険

 第3に、イノベーション・マネジメントです。本領域は、企業や自治体を対象とし、新規事業の企画開発、社内制度設計、組織の行動変容など、組織内におけるイノベーションの創出から定着までの管理を目的としています。例えば、東ティモールでのフィールドワークから生まれたココナッツ・ジュースを原料する蒸留酒製造プロジェクトを題材として、リソースの限られた地域にてイノベーションを生み出すための方法論に関する書籍を上肢しています(図3)[5]。また、NTTデータMSE +Nextデザイン室からの依頼にて、同社にサービスデザイン組織を構築するための技術指導を4年に渡って実施しています[6]。

図3. 地域発イノベーションの育て方

 3つの研究領域は一見異なるように見えますが、インタラクションデザインという共通のキーワードを持っています。インタラクションとはinter-actionであり、相互作用のデザインです。サービスデザインは、サービス提供者とサービス受益者、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションは、ヒトとコンピュータ、イノベーション・マネジメントは、組織内外のアクターやリソースとの相互作用のデザインを通じて、新たな価値を提案することを目的としています。

References
[1] TOPPANホールディングス株式会社. 2022. 凸版印刷、遠隔操作ロボットで、看護業務支援の実証を実施. https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2022/03/newsrelease220302_2.html
[2] 国立情報学研究所. 2023. 地方自治体活性化を目的としたweb3の思想にもとづくサービスデザイン手法の構築と評価. https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K17490/
[3] Annisa Dhia Baswedan and Satoru Tokuhisa. 2024. The Adventure in Science Museum: AR Game Featuring Anthropomorphized Companion to Enhance Learning Experience in Science Museum. In Companion Proceedings of the 2024 Annual Symposium on Computer-Human Interaction in Play (CHI PLAY Companion '24). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 18–23. https://doi.org/10.1145/3665463.3678802
[4] Junsheng Qiu and Satoru Tokuhisa. 2025. Dual-Track UX: A User Experience Evaluation Method for B2B SaaS Development. In Proceedings of the Extended Abstracts of the CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI EA '25). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 206, 1–7. https://doi.org/10.1145/3706599.3719968
[5] 徳久悟. 2018. 地域発イノベーションの育て方. 東京. NTT出版. https://www.nttpub.co.jp/book/list/?keyword=978-4-7571-2372-4
[6] NTTデータMSE. 2025. NTTデータ +Nextデザイン室. https://nttd-mse.com/servicedesign/?utm_source=kyushu-u&utm_medium=referral&utm_campaign=plus_next_sangaku_2025


研究室ウェブサイト: https://interdisciplinary-design-lab.studio.site/

■お問合せ先
芸術工学研究院 ストラテジックデザイン部門
准教授 德久 悟