Research 研究・産学官民連携

健康被害が報告された紅麹サプリの測定

芸術工学研究院 研究紹介

健康被害が報告された紅麹サプリの測定

芸術工学研究院 環境設計部門
 講師 今坂 智子

 研究室では、図1に示すフェムト秒(10^-15秒)のパルス幅をもつレーザーをイオン化源とする飛行時間型質量分析計を開発し、これを分離手段であるガスクロマトグラフと組み合わせてPM2.5中の発がん性物質[1]、バイオ燃料[2]、呼気[3]、向精神薬[4]などを分析する研究を行っています。

 昨年、紅麹サプリを摂取した人が健康被害を訴える事例が起こりました。そこで、開発中の分析装置を用いて、図2に示す健康被害が報告された製品ロット(関係者による提供)、および比較のため異なる時期の製品ロットに含まれる成分を分析しました。この成果は最近、国際学術論文誌に掲載されました[5]。図3は、測定結果の一例です。横軸は成分がクロマトグラフから溶出されるまでの時間、縦軸は成分の信号強度(濃度)を表しています。これらの成分のいくつかはカビ毒の代謝によって生成された疑いがあります。このように開発中の装置は、紅麹サプリのような製品の品質管理に有用であり、出荷前検査に用いることにより、今回のような予期せぬ事象を回避することができると期待しています。

図1 フェムト秒レーザーをイオン化源とする飛行時間型質量分析計

図2 健康被害が報告されたロットの紅麹サプリ

図3 (A)健康被害が報告されたロット、(B)健康被害が報告されていないロットから抽出した試料を測定して得られたクロマトグラム。(a)-(e)は健康被害が報告されたロットで強く観測された成分。

 

参考文献(下線は今坂智子、*は責任著者, 全て査読有、DOIをクリックするとオリジナルの論文に移動します)

[1] L. Wen, K. Yoshinaga, T. Imasaka, T. Imasaka*, Trace Analysis of Nitrated Polycyclic Aromatic Hydrocarbons Based on Two-Color Femtosecond Laser Ionization Mass Spectrometry, Talanta, 2023 265, 124807. DOI: 10.1016/j.talanta.2023.124807
[2] T. Imasaka*, K. Yoshinaga, T. Imasaka, Machine Learning for Characterizing Biofuels Based on Femtosecond Laser Ionization Mass Spectrometry, Analytical Chemistry, 2024 96, 10193-10199.  DOI: 10.1021/acs.analchem.4c00478
[3] K. Yoshinaga, T. Imasaka, T. Imasaka*, “Femtosecond Laser Ionization Mass Spectrometry for Online Analysis of Human Exhaled Breath”, Analytical Chemistry, 2024 96, 11542-11548.  DOI: 10.1021/acs.analchem.4c02214
[4] C.H. Lin, K. Yoshinaga, T. Imasaka, T. Imasaka*, Determination of Benzodiazepines via Gas Chromatography Combined with Femtosecond Laser Ionization Mass Spectrometry, Microchemical Journal, 2025 215, 114356. DOI: 10.1016/j.microc.2025.114356
[5] T. Imasaka*, K. Yoshinaga, C.-H. Lin, and T. Imasaka, Analysis of Fermented Red-Yeast Rice Products Using Femtosecond Laser Ionization Mass Spectrometry, Journal of the American Society for Mass Spectrometry 2025 36, 1439-1442.  DOI: 10.1021/jasms.5c00029

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講師 今坂智子