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Research 研究・産学官民連携
芸術工学研究院 ストラテジックデザイン部門
助教 迫坪 知広
「良いデザインとは何か?」デザイナーにとって、回答を躊躇する難しい問いである。もちろん答えはいつでも用意している。しかし、昨日、今日、明日の答えが同じかと問われると、そうとも言えない。なぜなら、デザイナーは、より良いデザインを見つけるべく模索し続ける存在だからである。デザイナーに出来ることは、対象物や利用者、導入時期等を見据えて、ある時点における一つのデザイン解を導く、もしくはそれを助ける事である。つまり、デザイナーは「デザインを推進する人」であるに過ぎない。
「良いデザインとは何か?」に対する一つの答えとして、「人々に長く親しまれ利用されているデザイン」がある。これは、日本デザイン振興会が運営するグッドデザイン賞における「ロングライフデザイン賞」の選定理由と同じように捉えて良い。例えば、身の回りにあるありふれたデザインである。これらは、特別目立ってはいないが、「機能とカタチ」がその実現コストとバランスする優れたデザインと言える。このような事例は、一人のデザイナー、もしくは一人のエンジニアでなしえるものではないだろう。複数の時代を跨ぎながら改善が重ねられ、時に磨かれたカタチだと考える。つまり、良いデザインを考える上で、昨日(過去)を引用することは恥ずかしいことではない。
「良いデザインとは何か?」に対するもう一つの答えとして、「これまでにない新しいデザイン」がある。これは、過去の成功例をそのまま模倣し他者の権利を侵す過ちへの反省や、私たちが置かれた環境の変化に対応するために必要な、挑戦的なデザインである。この挑戦的なデザインは、一般の方々の目に触れることはなかなかないだろう。なぜなら、ほとんどの挑戦的なデザインは、一般に普及する前に取り下げられ、それ以上に提案段階で却下されることの方が多い。つまり、良いデザインを考える上で、失敗することは恥ずかしいことではない。
「良いデザインとは何か?」に対する二つの答えを示したが、これが一つながりであることを指摘する閲覧者もいると思う。失敗を重ねながら挑戦的なデザインを継続し、いつしかその「機能とカタチ」がその実現コストとバランスされ、人々に長く親しまれるデザインとなる「試作と対話」の物語となっていることに。このような、時代を跨ぐデザインの物語において、一人のデザイナーは、どのように対峙するべきか。そんな迷えるデザイナーには、「段階に応じた必要最低限の試作」というスキルの獲得を勧めたい。挑戦的なデザイン提案を社会実装するまでには、様々な人々との対話を経て合意形成が必要となるが、初期段階における多様なデザインを説明するための試作の全てに、多大な時間や予算を費やすことは、現実的ではない。「段階に応じた必要最低限の試作」を駆使し、対話を通して合意形成し、「デザインを推進する人」は、先に挙げた良いデザインへの貢献度が高いデザイナーであると考える。
以下に、近年取り組んでいる事例を簡単に紹介する。
「やさしいつり手」(2017年〜)
鉄道やバスの車両内には、立ち席客の安全保持具として「つり手」が設置されている。そのつり手メーカーである三上化工材株式会社と福祉人間工学研究室の村木教授、植田らと共に「握りやすいつり手」をテーマとした研究を実施し、その成果が「やさしいつり手」シリーズに応用されている。従来のつり手の安全性を少しでも向上させようと、様々な太さ・形状の握り部の試作・検証から生まれたカタチである。
「AI活用型オンデマンドバス のるーと」(2018年〜)
「AI活用型オンデマンドバス のるーと」は、公共交通の新しいカタチである。公共交通を維持していく上での財政負担の軽減や、路線バスとタクシーによる交通を補完する交通手段として、また、運転手不足への対応策として期待されている。このような「のるーと」サービスで使用される車両開発を迫坪研究室の大井や惣島と試み、サービスの先進性や利用法をわかりやすく示すデザインがネクスト・モビリティ株式会社に採用されている。
「病院のためのバス停 リーフ」(2019年〜)
「病院のためのバス停 リーフ」は、西日本鉄道株式会社と芸術工学硏究院の伊原教授、尾方教授、および多数の大学院生と取り組んだバス停デザインプロジェクトの成果として、福岡市南区の九州中央病院前に設置されたバス停である。このプロジェクトでは、さまざまなバス停のコンセプトが検討されたが、地域にある病院の存在をバス乗降者や街路通行者に示すためのアイコンとしての意味が付加されたバス停が採用された。
「サーバント型モビリティ」(2024年〜)
「サーバント型モビリティ」は、九州大学の研究センターである未来社会デザイン統括本部の活動として、岡田教授や迫坪研究室の中本、石田、丸山らと取り組んでいる、人自身のモビリティを支援するプロダクトである。これは、人が自ら歩く事に「純粋」に焦点が当てられている。具体的には、人の歩行に追従する車体に、腰掛・収納・見守の機能が搭載されたものである。現段階では自主研究に近い状況にあるが、新しい産業となるように検討を進めている。
■お問合せ先
芸術工学研究院 ストラテジックデザイン部門
助教 迫坪 知広