Research Results 研究成果

一次繊毛形成を制御する酵素のペルオキシソーム局在化機構を解明 ‐ペルオキシソームの新たな機能の可能性‐

2017.03.16
研究成果Life & Health

 九州大学生体防御医学研究所の藤木幸夫教授のグループは、東北大学大学院生命科学研究科情報伝達分子解析分野の阿部彰子(博士後期課程大学院生)と水野健作教授らのグループとの共同研究により、一次繊毛形成に関わるプロテインキナーゼNDR2がペルオキシソーム上に局在することを発見し、NDR2のペルオキシソームへの局在化が一次繊毛形成に重要な役割を担うことを発見しました。 
 
 私たちの身体を構成する細胞の多くは、一次繊毛とよばれる1本の小さな突起構造をその表面に突出させています。その機能は長らく不明でしたが、近年、一次繊毛は、細胞外からの機械的・化学的シグナルを受容する「アンテナ」として機能していることが明らかになり、細胞の恒常性維持、増殖・分化の調節、組織・器官の形成や維持に重要な役割を担っていることが明らかにされてきました(図1A)。一次繊毛の形成異常や機能不全は、嚢胞性腎疾患・網膜変性症・認知障害・内臓逆位・肥満・多指症など様々な症状を呈する繊毛病と総称される遺伝性疾患の原因となることが最近になって明らかになりました(図1B)。しかし、一次繊毛の形成を制御する分子機構については未解明の点が多く残されています。
 私たちは、以前にNDR2(エヌディーアールツー)とよばれるタンパク質リン酸化酵素が一次繊毛形成に関与することを見出しました。NDR2がどのようにして一次繊毛形成を制御しているのかを詳細に検討するために、本研究では、NDR2の細胞内局在に着目し、NDR2がペルオキシソームとよばれる細胞内小器官上に局在することを見出しました(図2)。ペルオキシソームへの局在化については、ペルオキシンとよばれるペルオキシソーム形成タンパク質群が、脂質代謝酵素群など構成タンパク質の特定のアミノ酸配列(ペルオキシソーム局在化シグナル)を認識して結合し、ペルオキシソームへと輸送することが知られています。私たちは、NDR2のカルボキシル末端にあるグリシン-リシン-ロイシンという配列(図3B)が、これまでの研究で知られているペルオキシソーム局在化シグナルと類似していることから、この配列がペルオキシンに認識されることでペルオキシソームへ輸送されると予測しました。実験の結果、NDR2がこのカルボキシル末端の配列に依存して、ペルオキシソームに局在化することが明らかになりました。
 細胞内のNDR2を欠損させた細胞では一次繊毛形成が抑制されます。この細胞に野生型のNDR2遺伝子を導入すると一次繊毛形成の回復効果が見られますが、ペルオキシソーム局在化シグナルを欠いたNDR2変異体を導入しても回復効果は見られませんでした(図3)。このことは、NDR2がペルオキシソーム上に運ばれることが、NDR2による一次繊毛形成のプロセスに必須であることを強く示唆しています。
 本研究によって、ペルオキシソームは一次繊毛形成に必要なシグナル分子を繋留する場としての新たな機能を有していることが示唆されました。本研究成果は、一次繊毛形成におけるペルオキシソームの新たな役割の存在の可能性を示したことに加え、繊毛病やペルオキシソームの形成不全によって引き起こされるペルオキシソーム病の病因解明に貢献することが期待されます。

 本研究成果は、2017年3月10日発行のThe Journal of Biological Chemistry誌に掲載されました。

 

 

 

論文情報

Localization of protein kinase NDR2 to peroxisomes and its role in ciliogenesis ,The Journal of Biological Chemistry,
10.1074/jbc.M117.775916

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