Research Results 研究成果

抗体産生細胞の新たな分化メカニズムを解明

ヒストンバリアントの低下が抗体産生細胞誘導の決め手〜
生体防御医学研究所
馬場 義裕 教授
2024.06.21
研究成果Life & Health

ポイント

  • 抗体産生を担うプラズマ細胞(※1)分化の仕組みは感染防御や自己免疫疾患病態の理解に重要
  • プラズマ細胞分化には、エピジェネティック(※2)記憶を司るヒストンバリアントH3.3 (※3)の発現低下が重要であることを世界で初めて発見
  • 本発見により、抗体産生の制御メカニズムの解明が期待される

概要

 B細胞は刺激を受けると、プラズマ細胞へと分化し、大量の抗体を産生します。抗体はウイルスなどから身を守るために必要不可欠です。一方で、自分自身を攻撃する自己抗体は様々な自己免疫疾患の発症に深く関わっています。よって、プラズマ細胞分化のプロセスを理解することは非常に重要で、世界中で研究が進められています。これまで、プラズマ細胞への分化には様々な転写因子が関与することが知られていましたが、これらを統合するエピジェネティック制御については知られていませんでした。
 九州大学生体防御医学研究所の馬場義裕教授、大川恭行教授、齋藤雄一大学院生(当時)らの研究グループは、B細胞からプラズマ細胞への分化の過程で、主要型ヒストンの亜種であるヒストンバリアントH3.3が減少していき、この減少を食い止めるとプラズマ細胞分化が阻害されることを発見しました。H3.3の持続的な発現は、B細胞のアイデンティティーを決める遺伝子の維持とプラズマ細胞分化を誘導する遺伝子の抑制を同時に制御し、プラズマ細胞に特徴的なクロマチン構造変化を妨げていることが判明しました。
 今回の研究で、B細胞の終末分化であるプラズマ細胞への分化が、「遺伝子発現の記憶」を担うH3.3の欠落で制御されることが明らかになりました。本成果により、抗体産生の仕組みの理解を通じて、ワクチンや抗体医薬の開発への応用などが期待されます。
 本研究成果は 英国の雑誌「Nature Communications」に 2024年 6月 20日 (木)午後6時(日本時間)に掲載されました。また本研究はAMED-CREST等の助成を受けたものです。

ヒストンバリアントH3.3によるプラズマ細胞分化制御

用語解説

(※1) プラズマ細胞
B細胞が最も成熟した段階で、抗体の合成・分泌に特化した細胞で、抗体産生細胞と同義です。これは形質細胞とも呼ばれる。

 (※2) エピジェネティック
DNAの配列変化を伴うことなく、クロマチンへの後天的な修飾により遺伝子発現が制御される現象

 (※3) ヒストンバリアント
ヒストンは、真核生物のクロマチンを構成する主要なタンパク質であり、主要型ヒストン(H2A, H2B, H3, H4)と比べて相同性が高いが,別の遺伝子にコードされている亜種のことをヒストンバリアントと呼ぶ。

論文情報

掲載誌:Nature Communications
タイトル:Plasma cell differentiation is regulated by the expression of histone variant H3.3
著者名:Yuichi Saito, Akihito Harada, Miho Ushijima, Kaori Tanaka, Ryota Higuchi, Akemi Baba, Daisuke Murakami, Stephen Nutt, Takashi Nakagawa, Yasuyuki Ohkawa, Yoshihiro Baba
DOI:10.1038/s41467-024-49375-x