Research Results 研究成果
ポイント
概要
西日本(特に九州地方)では毎年のように線状降水帯の発生と持続によって甚大な豪雨災害が生じています。線状降水帯は海上から内陸に伸びる事例が多々ありますが、なぜ山岳などの地形がない海上で線状降水帯が局在化して発生するのか、そのメカニズムは依然として十分に解明されていません。本研究で、九州大学大学院理学研究院の川村隆一教授、理学府修士課程2年の西村はるか大学院生(研究当時)、熊本大学大学院先端科学研究部の一柳錦平准教授、東京大学生産技術研究所の芳村圭教授らの研究グループは、同位体領域気象モデルを用いた高解像度数値シミュレーションによって、九州豪雨の要因となった線状降水帯の再現実験を行い、水蒸気起源の情報から線状降水帯の発生をトリガーする支配的な力学プロセスを提唱しました。
梅雨前線低気圧に捕捉されて流入したアジアモンスーン起源の水蒸気と太平洋高気圧の西縁に沿って流入した水蒸気(太平洋高気圧起源)が重なり合って非常に背の高い湿潤層が形成され、そこで線状降水帯が発生していることがわかりました。なぜ2つの水蒸気起源がマージする領域で線状降水帯が発生するのかについては、大気境界層(※1)過程が重要な鍵となりました。具体的には、太平洋高気圧起源の水蒸気の流入に伴い自由対流高度(※2)が1.5kmより低い領域が北へ拡張する一方、梅雨前線低気圧の南側で水平気圧勾配が急激に緩むためエクマン収束(※3)による上昇流が誘起されます。両者が重なる領域では容易に積雲対流が生じることになります。この力学プロセスが梅雨前線の南方海上で局在化した線状降水帯の発生をトリガーしていることが明らかになりました。これらの知見は豪雨被害を軽減するための線状降水帯の発生予測の精度向上に資することが期待され、特に梅雨前線低気圧の発達や、その詳細な空間構造の精度の高い予測が求められていくことを示唆しています。
本研究成果は、2024年6月23日(日)に国際学術誌「Atmospheric Research」にオンライン掲載(早期公開)されました。また本研究はJSPS科研費補助金(JP19H05696, JP20H00289, JP24H00369)の助成を受けました。
用語解説
(※1)大気境界層
地表面(海面)から高度1kmぐらいまでの大気層で、地表面(海面)の摩擦の影響や地表面(海面)からの熱・水蒸気供給の影響を強く受ける層です。大気境界層の上は自由大気と呼ばれています。
(※2) 自由対流高度
強制的に地表面付近の空気塊を上昇させたときに空気塊の温度が周囲の気温(環境温度)を超えると、空気塊が浮力を得て(強制しなくても)上昇していきます。両者の温度が一致する高度を自由対流高度(Level of Free Convection: LFC)と呼んでいます。
(※3) エクマン収束
地球の自転によって発達する大気境界層(正確にはエクマン境界層)では、地表面(海面)の摩擦の影響で摩擦収束が生じます。その収束をエクマン収束と呼んでいます。
論文情報
掲載誌:Atmospheric Research
タイトル: A triggering mechanism of quasi-stationary convective bands in the vicinity of southwestern Japan during the summer season as deduced from moisture origins
著者名: Haruka Nishimura, Ryuichi Kawamura, Xiaoyang Li, Tetsuya Kawano, Takashi Mochizuki, Kimpei Ichiyanagi, Kei Yoshimura
DOI:10.1016/j.atmosres.2024.107544
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