Research Results 研究成果

タンパク質を正確にペルオキシソームへ配送する仕組みを解明

〜タンパク質を目的地に届けるための配送のやり直し〜
農学研究院
松本 俊介 助教
2025.05.22
研究成果Environment & Sustainability

ポイント

  • 細胞が正常に機能するために、オルガネラを構成するタンパク質がどのようにして目的地まで正しく配送されるのか理解する必要がある。
  • ペルオキシソーム(※1)に局在するPex15は、誤ってミトコンドリアに配送されたり、ペルオキシソーム膜から引き抜かれたりしても、再びペルオキシソームに配送されることを明らかにした。
  • タンパク質の配送やり直しの原理の解明や、タンパク質の誤局在によって引き起こされる疾患の治療法開発のヒントになることが期待される。

概要

私たちヒトのような真核生物の細胞では、タンパク質が細胞内小器官(オルガネラ)に配送される過程は精密であり、誤った配送先に送られたタンパク質は速やかに分解・除去されると長らく考えられてきました。ところが近年、私たちの研究グループは、細胞内には、タンパク質の配送には間違いが起こりうること、そしてタンパク質は間違った配送先に送られてしまっても、その誤局在を修正する「校正」システムが細胞内に存在することを明らかにしてきました。しかしながら、この「配送のやり直し」機構が、配送先のオルガネラの種類やタンパク質の性質によって、どの程度一般化できるのか、その詳細は不明のままでした。

九州大学大学院農学研究院の松本俊介助教、沼田倫征准教授、大学院生物資源環境科学府の小暮佳希氏(修士課程2年)、京都産業大学生命科学部の遠藤斗志也教授、小野鈴花研究員との共同研究グループは、出芽酵母を用いた解析により、ミトコンドリアとペルオキシソームという2つのオルガネラに局在するAAA型ATPアーゼ(※2)Msp1とPex19-Pex3経路が、ペルオキシソームタンパク質Pex15の正確な局在化を維持するために、配送のやり直しの機会を提供することを明らかにしました。

今後は、タンパク質の「配送のやり直し」機構のさらなる解明を通じて、疾患発症のメカニズムの理解や、新たな治療法の開発へとつながることが期待されます。

本研究成果はJohn Wiley&Sons社の学術雑誌「The FEBS Journal」に2025年5月9日(金)に掲載されました。

研究者からひとこと

私たちは出芽酵母の解析を通じて、Msp1が膜から引き抜いたタンパク質を本来の輸送経路に受け渡すことで、目的とするオルガネラへの正確な配送が達成されることを明らかにしました。MSP1遺伝子は酵母からヒトに至るまで高度に保存されており、今後はヒト細胞を用いた配送のやり直し機構の解明が課題となります。(松本俊介)

図1 Pex15のペルオキシソーム局在化における配送のやり直し機構

用語解説

(※1) ペルオキシソーム
ペルオキシソーム(Peroxisome)は、真核細胞内に存在するオルガネラの1種で、主に脂肪酸や過酸化水素の分解そしてアルコールやフェノールなど、細胞に有害な物質の解毒などに関与している。

(※2) AAA型ATPアーゼ
AAA(ATPases Associated with diverse cellular Activities)型ATPアーゼは、ATPを加水分解することでエネルギーを得て、さまざまな細胞機能を駆動するモータータンパク質である。AAA型ATPアーゼは、ホモ六量体構造をとるものが多く、六量体の中央に作られる穴(チャネル)に基質となるタンパク質やDNAを通すことで、基質の変性・分解そして膜からの引き抜きなどを行う。

論文情報

掲載誌:The FEBS Journal 
タイトル:Msp1 and Pex19-Pex3 cooperate to achieve correct localization of Pex15 to peroxisomes
著者名:Shunsuke Matsumoto, Yoshiki Kogure, Suzuka Ono, Tomoyuki Numata, Toshiya Endo
DOI:10.1111/febs.70132