Research Results 研究成果
ポイント
概要
九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(WPI-I²CNER)の中村潤児特任教授、Mo Yan学術研究員、北海道大学触媒科学研究所の武安光太郎准教授、筑波大学国際マテリアルズイノベーション学位プログラム(博士後期課程)のMuhammad Asif氏およびRavi Singh氏らの研究グループは、金ナノ粒子による常温一酸化炭素(CO)酸化反応が、熱的な触媒作用だけではなく、新たに提唱した“混成電位駆動型触媒反応”という電気化学的メカニズムで進行することを世界で初めて実証しました。
これまで、COの酸化反応は温和な条件下でも進行することが知られていましたが、その根本的な駆動原理は不明でした。本研究では、腐食現象やガルバニ電池に類似した電位差に基づく反応メカニズムが支配的であることを決定的に示しました。この成果は、従来の不均一系触媒反応※3に対する常識を覆し、電気化学の視点を触媒化学に導入する大きな転換点となるものです。
本研究グループは、混成電位駆動型触媒反応の理論モデルを実証するために、金ナノ粒子と窒素ドープ還元グラフェン酸化物をそれぞれ担持した2つの電極を、電解液中に空間的に分離して配置した独自のモデル電解セルを設計しました。両電極を外部回路で短絡接続し、外部電圧を一切加えない条件で、反応ガス(CO+O₂)を導入したところ、自発的な電流の流れとCO₂生成が確認されました。さらに、得られた電流と混成電位の値は、それぞれの半反応(CO酸化:COOR、酸素還元:ORR)から独立に取得した電流–電位曲線による理論的予測と定量的に一致しました。これは、CO酸化反応が実際には腐食現象のように電位差によって駆動されていることを意味し、従来想定されていた熱駆動型メカニズムとは根本的に異なるものです。
本研究は、従来の不均一系CO酸化反応に関する定説に対して、電気化学的視点に基づく新しいパラダイムを提案するものです。腐食やガルバニ電池と同様の仕組みが触媒反応において機能することを明確に示し、電位差を活用した新しい触媒設計の可能性を拓くとともに、有害なCOを効率的に処理する環境技術への応用も期待されます。特に、エネルギー変換やカーボンニュートラルの実現を目指す現代社会においては、熱・電気の両エネルギーの最適利用が求められており、本成果はその核心に迫るものです。
本研究成果は、2025年6月25日(水)付で、Wiley社の国際学術誌『Advanced Science』にオンライン公開されました。
図 水中における金触媒による常温CO酸化では、CO酸化と酸素還元が、電池を短絡したような状態をつくり、混成電位によって駆動される経路がある。
用語解説
(※1) CO酸化反応
一酸化炭素(CO)を酸素(O₂)と反応させて二酸化炭素(CO₂)を生成する反応。排ガス浄化や燃料電池などで重要な基本反応であり、低温での効率的な酸化触媒の開発が進められている。
(※2)混成電位
酸化反応と還元反応という2つの電気化学的半反応※4が同一電極または系内で同時に進行する際、両反応の電流が釣り合う点で自発的に形成される電位のこと。外部から電圧を加えなくても反応が進行するため、腐食現象やガルバニ電池、混成電位駆動型触媒反応などで重要な概念である。
(※3)不均一系触媒反応
固体触媒と気体または液体など異なる相の反応物が接触して起こる触媒反応。反応は主に固体表面で進行し、産業用触媒プロセス(排ガス処理、化学合成など)に広く応用されている。
(※4)電気化学的半反応
電極上で起こる電子の授受に関与する反応で、酸化または還元のいずれか一方を指す。例えば、COの酸化(COOR)やO₂の還元(ORR)などが該当し、これらが対になって全体の酸化還元反応が構成される。
論文情報
掲載誌:Advanced Science
タイトル:Mixed-Potential-Driven Catalysis: An Electrochemical Mechanism for Room-Temperature CO Oxidation on Gold Catalysts
著者名:Mo Yan1、Asif Muhammad2、Ravi Singh2、Kotaro Takeyasu3、Junji Nakamura1(1九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(WPI-I²CNER)、2筑波大学国際マテリアルズイノベーション学位プログラム、3北海道大学触媒科学研究所)
DOI:10.1002/advs.202505994
お問い合わせ先