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植物の体内時計の柔軟さが炭素資源の恒常性をもたらす ~植物の概日時計とデンプン代謝系の相互影響モデルとその実証~

2017.08.17
研究成果Life & HealthEnvironment & Sustainability

 九州大学大学院理学研究院の佐竹暁子准教授と関元秀特任助教、大原隆之学振特別研究員は、英国ケンブリッジ大学、ドイツのマックスプランク研究所、ブラジルバイオエタノール科学技術研究所と共同で、概日時計を用いた植物の巧みな代謝制御の一端を明らかにしました。独立栄養生物である植物は、光のある昼の間に光合成を行い獲得した光合成産物の一部を葉緑体内にデンプン顆粒として蓄えておき、光合成ができない夜間にはそれを分解して生存・生長に必須のショ糖等の栄養をつくります。蓄えに回す割合が少なすぎると夜間に栄養不足に陥りますが、蓄えに回しすぎると今度は昼間のショ糖が不足して成長が妨げられてしまいます。さらに昼の長さは季節の進行とともに刻々と変化します。この変化に合わせて昼間のデンプン蓄積と夜間のデンプン消費を調整しなくてはなりません。このような効率的かつ柔軟なデンプン代謝を可能にするメカニズムはこれまで未解明のままでした。
 研究グループは数理モデリングの手法を用いて、先行研究の断片的な実験結果を統合することで、概日時計と光、そして植物の成長に直接利用されるショ糖に着目したデンプン代謝系モデルを開発しました。ほとんどの生物は概日時計をもっており、この時計を用いて24時間の周期をもった活動を制御しています。さらに時計の針は夜明けや日暮れに生物個体や細胞が光の変化を感知したときに進んだり遅れたりして調節されることが知られており、それにより昼の長さの季節変化に対応すると考えられてきました。しかし今回のモデルを解析した結果、植物が昼の長さの変化に応じて効率的なデンプン代謝を行うためには、光刺激に加え、光合成で自ら作り出した糖の濃度上昇・低下を感知したときにも時計の針を調節していることがわかりました。グループが開発したモデルの予測は、光刺激には反応するけれども糖刺激に対しては針を動かさない概日時計をもつ、シロイヌナズナの突然変異体を用いた実験で確かめられました。予測通りこの突然変異体は24時間周期のデンプン蓄積・分解活動はするけれども、昼が長い時にデンプンを過剰に蓄えるという非効率なふるまいを見せたのです。
 ショ糖の恒常性維持には概日時計の柔軟さが必要であるという新しい見方を提示した本研究は、2017年8月16日(英国時間10時)にオンライン科学誌「Scientific Reports」(https://doi.org/10.1038/s41598-017-08325-y)に発表されました。

(参考図1)
植物の概日時計とデンプン代謝系の相互調節モデル。

(参考図2)
昼の間にデンプンをどれだけ蓄えるか、数理モデルの予測と実験の結果。

研究者からひとこと

 本研究の成果は、環境を制御して作物の効率的生長を目指す植物工場で利用される可能性があります。また、私たち哺乳類のもつ概日時計も糖刺激に反応することが知られていることから、これらの成果は植物に限らず動物への応用可能性も高いものです。生物種によらない普遍的現象とその裏にあるロジックの発見は生物学の面白さのひとつだと思います。

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