Research Results 研究成果

極限環境生物アーキアのDNA複製過程に関わる重要因子の機能解明 ―遺伝子の複製装置の原理解明に期待―

2017.08.29
研究成果Life & HealthPhysics & Chemistry

 九州大学大学院農学研究院の石野良純教授らの研究グループは、アーキア(古細菌)のDNA複製・修復・組換えからなる、遺伝情報維持機構の解明に挑んでいます。アーキアはバクテリアと同様に原核生物でありながら、その遺伝情報システムは我々ヒトなどの真核生物と共通の祖先から進化したと考えられます(図1)。したがって、アーキアの研究は、生物の複製機構の起原を理解することに繫がると共に、特に超好熱アーキアを研究することで、100℃という極限環境での独自の生命現象の理解が期待されます。今回の研究成果の背景には、真核生物でDNA複製進行を担うタンパク質のひとつであるCdc45と、真正細菌でDNA修復・組換えに寄与するDNA分解酵素RecJのタンパク質組成が一部類似しているという報告と、アーキアにおけるCdc45/RecJに類似したタンパク質の存在がありました(図1)。T. kodakarensisという超好熱アーキアにおけるCdc45/RecJは試験管内において、真正細菌のRecJに似た酵素活性を示し、他のDNA複製関連因子によりその活性が促進されたため、真核生物と真正細菌のいずれか、または両方の機能があるのではと注目されていました。本研究でこのCdc45/RecJがDNA複製進行装置構成因子であること(図2)、真核生物のCdc45とは異なり遺伝子破壊が可能であるが、高温環境になると生育に不可欠であること(図3)、そして細胞内の無機元素濃度を定量し、その条件を試験管内で再現した際に真正細菌に似た酵素活性が検出されず、アーキア細胞内では真正細菌のRecJのような修復機能はないという3つの重要な知見を得、超好熱アーキアの生命現象の理解を進展させました。
 本研究成果は、国際核酸研究誌「Nucleic Acids Research」誌のオンライン版で2017年8月25日(金)に掲載されました。

図1:アーキアの複製装置は真核生物により近い

図2:アーキアの複製進行装置の様式

図3:高温嫌気環境でCdc45/Recjは重要な機能

研究者からひとこと

高温環境におけるDNA複製装置の原理解明によって、新たな遺伝子工学技術開発に繋げて、人類の健康と社会の繁栄に貢献します。

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