Research Results 研究成果
九州大学大学院医学研究院の山﨑貴男学術研究員と飛松省三教授らの研究グループは、自閉症スペクトラム(ASD)の非定型的な視覚認知が、脳内ネットワークの神経結合の病気である機能的結合異常(コネクトパチー)に由来することを突き止めました。
ASDでは視覚情報に対して知覚過敏や知覚鈍麻がみられ、それらの知覚異常がASDの社会性障害の基礎である可能性が指摘されています。2000年代になっても、その脳内メカニズムはほとんど分かっていませんでした。我々は誘発脳波(ある刺激に対する脳の特異的反応を捉える検査)や拡散テンソルMRI(神経線維の走行を捉える検査)を用いて、ASDの視覚認知に関する研究をここ10年継続的に行ってきました(Brain Research, 2010; Research in Autism Spectrum Disorders, 2011, 2013; PLoS One, 2017)。今回、これら一連の研究成果及び文献的考察から、ASDで生じている視覚ネットワーク異常に関する新しいモデルを発表しました。つまり、ASDの病態は単一の脳領域の障害ではなく、複数の脳領域間の複雑な機能的・構造的な脳内ネットワークの障害が本質であることを示し、ASDは「コネクトパチー」であるという新しい疾患概念を提唱しました。
本研究はJSPS科研費 基盤研究(C) JP23601010、 JP26350931、 新学術領域研究 15H05875の支援を受けて行われました。
本成果は、神経科学国際誌「Frontiers in Neuroscience」のオンライン速報版で平成29年11月8日(水)に掲載されました。近日中に確定版が掲載される予定です。
(参考図) ASDにおける視覚ネットワーク異常の模式図
1次視覚野(V1)では、ブロッブ系(色知覚に関与)の機能低下(青点線)とインターブロッブ系(形態視に関与)の代償性の機能亢進(赤線)がみられる。
高次視覚野[4次視覚野(V4)、5次視覚野(V5)]では、低次視覚野[V1、2次視覚野(V2)]で処理された局所的な情報の統合(全体的)処理が障害されている(緑点線)。
ASDは「コネクトパチー」であるという観点から、今後も様々な非侵襲的脳機能計測法や数理学的解析法を用いて、ASDの病態解明をさらに進めていきたいと考えています。
視知覚異常はASDの診断基準にも採用されていますが、客観的な指標は未だ確立していません。本研究をさらに発展させることで、ASDの早期診断バイオマーカーの開発、早期の治療介入にも貢献したいと考えています。