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パルス中性子ビームにより原子サイズでの未知の力を検証 ― 空間が縦・横・高さの3次元だけでできているのかを探る大きな一歩 ―

2018.03.20
研究成果Physics & ChemistryMaterialsTechnology

 九州大学先端素粒子物理研究センターの吉岡瑞樹准教授らのグループは、高エネルギー加速器研究機構、名古屋大学、大阪大学、インディアナ大学との共同研究により、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC(注1))のパルス中性子源(注2)を用いて、原子の大きさ程度の距離に働く未知の力の探索を行いました。
 2つの物体の間に働く力には、いわゆる万有引力や電磁気的な力の他に、原子核をつなぎとめる力、原子核を崩壊させる力の、合計4種類が存在していることが知られています。一方で、私たちが生活している空間は、縦横高さの3次元から構成されていますが、ミクロなスケールでは4次元以上の空間(余剰次元(注3))の存在の可能性が理論的に示唆されています。もし、そのような余剰次元が存在するとなると、極めて近い距離に置かれた2つの物体の間に、4つの力では説明できない強い力が働くと予測されますが、これまでそのような力が働いている様が実験的には観測されたことはありませんでした。例えば原子の大きさ程度の距離(0.1ナノメートル(注4))では、ニュートン重力の100垓(注5)倍以上の強い力すら見つけることができていませんでした。
 今回研究グループは、中性子と希ガスの原子との間に働く力を探索しました。J-PARCの世界最高強度のパルス中性子ビームを用いることで、原子の大きさ(0.1ナノメートル)の距離の領域において、未知の力の探索感度を従来の同様の実験に比べて1桁向上させることに成功しました。研究グループは現在も探索感度のさらなる向上を目指して実験を続けており、今後も余剰次元の探索領域をより広げていくことが期待されます。
 本研究は、科学研究費助成事業若手研究(B)(JP25800152)、学術創成研究JP19GS0210の支援を受けました。
本研究成果は平成30年3月22日(木)付(米国東部時間)米国科学雑誌Physical Review Dに掲載されました。また、本論文は米国物理学会のオンライン誌Physicsでハイライトされました。


注1) 大強度陽子加速器施設(J-PARC)
⾼エネルギー加速器研究機構と⽇本原⼦⼒研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している⼤型研究施設で、素粒⼦物理学、原⼦核物理学、物性物理学、化学、材料科学、⽣物学などの学術的な研究から産業分野への応⽤研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が⾏われている。J-PARC内の物質・⽣命科学実験施設では、世界最⾼強度の中性⼦ビーム及びミュオンを⽤いた研究が⾏われており、世界中から研究者が集まる。

注2) パルス中性子源
J-PARCなどのようなパルス状に陽子を加速する加速器を利用した中性子源では、陽子ビームがターゲットに入射するタイミングに合わせて中性子を発生させるため、パルス中性子源となる。 今回の実証実験では、J-PARCの中性子ビームラインBL05を使用した。

注3) 余剰次元
4次元を超える高次元の世界のこと。現段階では、存在する可能性は仮説のひとつであり、世界各国の研究所で実験的な検証が進められている。

注4) ナノメートル
長さの単位。10億分の1メートル。

注5) 垓
大きさの単位。1垓は1兆のさらに1億倍。

(参考図)実験原理の概念図
希ガス標的を封入した容器に、図中左下からパルス中性子ビームを照射し、下流に設置した中性子検出器で中性子の散乱角度分布を精密に測定する。もし余剰次元が存在すると、既知の力のみから予想される分布からズレが生じる。

研究者からひとこと

たとえ余剰次元が見つかったとしてもすぐに私たちの生活が豊かになるわけではありませんが、未知なる次元の存在というのは私たちの時空の構造の理解を大きく変革するため、とても魅力的な実験だと思っています。

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