Research Results 研究成果
九州大学大学院医学研究院の中島欽一教授、加藤聖子教授、松田泰斗特任助教と医学系学府博士課程4年の坂井淳彦らの研究グループは、脳の発生が盛んに進んでいる胎仔期に一時的な抗てんかん薬の一つであるバルプロ酸ナトリウム(Valproic acid:VPA)の曝露を受けた成体マウスは、脳領域のうち、記憶の形成や維持に関わる海馬における新生ニューロンの移動が障害され、けいれんが起こりやすくなること、そして自発的運動によってそれらの障害が改善されることを世界に先駆けて発見しました。
てんかんは脳の神経細胞(ニューロン)が過剰興奮することによってけいれんなどの発作を繰り返す神経疾患です。その罹患率は全年齢層において約1%とされており、生殖年齢の女性もその例外ではありません。てんかんを合併した妊婦においては、てんかん発作の予防を目的に抗てんかん薬を継続することが原則であり、抗てんかん薬の催奇形性に加えて、その妊娠中の投与が出生児の脳に与える長期的な影響(晩発性影響)に関する研究が盛んに行われています。晩発性影響の例として、抗てんかん薬の一つであるVPAの胎生期曝露による影響が挙げられます。しかしながら、胎生期VPA曝露と出生後のけいれんの起こりやすさ(けいれん感受性)との関連は明らかとなっていませんでした。
本研究の成果は、妊婦への薬剤投与が出生児の脳機能に与える影響におけるメカニズムの解明と治療法開発の一助となることが期待されます。
本研究成果は、2018年4月2日(月)午後3時(米国東部標準時夏時間)に国際学術雑誌『Proceeding of the National Academy of Sciences』に掲載されました。
胎仔期VPA曝露によって誘導される成体ニューロン新生障害とけいれん感受性増加の模式図
坂井君は中段、右端、中島教授は最後列、右端
“Mom comes first”が原則の周産期医療の中で避けられない負荷を受ける赤ちゃん達がいます。今後、その子達の未来に光を照らす治療法開発を加速させることが重要です。
本研究がその礎のひとつとなってくれれば、と思っています。(坂井)