Research Results 研究成果
植物は、太陽光を葉緑体に含まれるクロロフィルなどの光合成色素で吸収して電気エネルギーに変換することで光合成を行っています。光合成は陸上だけでなく、海の中でも盛んに行われています。海洋の光合成生物はクロロフィルa、b、c、d、fやフィコビリンなどのさまざまな光合成色素を利用していますが、陸上植物が利用しているクロロフィルは、aとbだけです。陸上植物は水中の緑藻の仲間から進化してきたことが知られていますが、その過程でどのような理由で光合成色素が選択されてきたのかはよく分かっていませんでした。
九州大学農学研究院の久米篤教授、筑波大学生命環境系の奈佐原顕郎准教授、秋津朋子研究員らの研究グループは、太陽光のエネルギー分布スペクトル、すなわち太陽光の色の精密測定を行い、光合成色素の吸収スペクトルと比較解析することでその謎を探りました。その結果、クロロフィルaとbの組み合わせは相補的に働き、強い光から弱い光まで上手く利用することができるのに対して、水中の生物のみが利用するクロロフィルcやdは、陸上の太陽光スペクトルにはうまく適応していないことがわかりました。つまり、陸上植物は、地上の光環境に適したクロロフィルaとbの組み合わせだけを利用するようになったのです。
この結果は、LEDなどの人工光栽培用品種の開発や栽培技術の改善への応用が期待され、別の惑星における光合成生物の進化を考えるヒントにもなるでしょう。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(JP18H02511)の支援を受けました。
本研究成果は2018年7月10日(中央ヨーロッパ夏時間)に「Journal of Plant Research」誌にオンライン公開されました。
(参考図)
クロロフィルの太陽光吸収効率。晴天日と曇天日の正午の太陽光について、エネルギー単位と光量子単位で吸収効率を比較している。クロロフィルaの吸収効率は常に最も低く、クロロフィルbは最も高い。この2つが組み合わさって、光吸収タンパク複合体が形成されている。
海洋には、色々な種類の光合成色素を持った様々な光合成生物が繁栄していますが、陸上植物はどれも2種類のクロロフィルしか持っていません。その理由は、植物と太陽の光の関係を注意深く調べることで明らかになりました。陸上植物は晴れの日や曇りの日の光をうまく利用するために様々な工夫をしていることがわかってきました。