Research Results 研究成果

世界初のIntelligent Image-Activated Cell Sorterを開発 ~細胞画像の深層学習により高速細胞選抜を実現~

2018.08.28
研究成果Life & HealthMath & DataPhysics & ChemistryTechnology

 ImPACTプログラム「セレンディピティの計画的創出」の合田圭介プログラムマネージャーが率いる研究グループは、細胞の高速イメージングと深層学習を用いた画像解析で細胞を高速に識別し、その解析結果に応じて所望の細胞を分取する基盤技術「Intelligent Image-Activated Cell Sorter」の開発に世界で初めて成功しました。さらに本技術を用いて、微生物や血液細胞をその形状や内部構造を指標として分取する原理実証を行い、本技術の有用性や汎用性が確認されました。この快挙は、超高速蛍光イメージング技術、10ギガビットイーサーネットによる高速データ処理システム 、マイクロ流体技術を活用した高速分取技術や細胞制御技術など、複数分野にまたがる異分野融合での大規模な共同研究によって達成されました。
 本研究成果は、2018年8月27日(米国時間)に米科学誌「Cell」のオンライン版で公開されました。

 本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のうち、合田圭介プログラムマネージャーの研究開発プログラム「セレンディピティの計画的創出」で実施されました。

図1.本研究で開発したIntelligent Image-Activated Cell Sorterの模式図。大規模な細胞集団に含まれる一つ一つの細胞を高速に撮像し、深層学習など最先端の情報処理技術でそれらの画像をリアルタイムに判別して、細胞集団の中から特定の細胞を分取します。

図2.本技術の汎用性実証のための撮像例。3マイクロメートルから30マイクロメートル程度にわたる様々な大きさや形の異なる細胞を高速撮像しました。A.微細藻類の観察。B.血液に含まれる細胞の観察。BFは明視野、SYTO16は核染色による蛍光、BODIPYは油滴染色による蛍光、Chlはクロロフィルの自家蛍光、DFは暗視野、CD61は血小板表面染色による蛍光、EpCAMはがん細胞表面染色による蛍光のイメージを示します。循環がん細胞様細胞はがん患者の血液から撮像しました。

図3.緑藻類クラミドモナスを用いた本技術の微生物学への展開。A.葉緑体はあらゆる光合成生物における炭素固定の中心です。水中に生息する藻類では、葉緑体中のルビスコ(CO2固定酵素)へCO2を濃縮する無機炭素濃縮機構(CCM)が、高い光合成効率を維持するために重要な役割を果たしています。この機構の解明は、藻類による効率的なバイオ燃料生産の実現のみならず、陸上植物へCCMを導入する事による穀物生産の増大などに寄与すると期待されます。B.20万個以上の藻類細胞クラミドモナスの中に1%程度含まれる希少な遺伝子変異を引き起こした細胞を分取・培養することに成功し、分取装置としての実用性と有効性を示しました。得られた変異株を詳細に解析することで、CCMの分子機構の解明が進むと期待されています。

研究者からひとこと

 本成果は、内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「セレンディピティの計画的創出」に参画する、光量子科学、電気工学、機械工学、化学、情報科学、医学、生物学など多くの異分野にわたる研究者の共同開発によるものです。今回開発したIntelligent Image-Activated Cell Sorterは、延べ200名以上の研究者の2年半にわたる要素技術開発と、そこで生み出された最先端技術を組み合わせた2年にわたる統合システム開発により実現した、本プログラムの集大成の一つの成果となります。本研究成果により、本技術は、微生物や血液など様々な大きさや形状の細胞集団に対して、一つ一つの細胞の画像を網羅的に調べあげて解析し、必要な細胞を分取する事ができる汎用的な装置である事が示されました。今後、生物学、創薬、医学など幅広い分野においてこれまで膨大な時間や手間がかかり偶然の幸運な発見「セレンディピティ」が必要とされていた事象について、本技術により計画的に発見できるようになると期待されます。本技術をオープン利用展開することで、国内外の多数の研究者が新たな科学的発見を行うプラットフォームとしての活躍を期待します。

論文情報

Intelligent Image-Activated Cell Sorting ,Cell,
10.1016/j.cell.2018.08.028

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