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脂肪細胞を細胞死へと導くシグナル経路の発見 ~メタボの根源である「肥満」に対する新たな薬理学的アプローチとなる可能性~

2018.12.28
研究成果Life & Health

 身体を支持する骨は運動機能を担うとともに、造血やミネラルの貯蔵庫としても重要な器官です が、最近の研究で骨には全身の糖・脂質代謝を活性化する内分泌機能があることが分かってきまし た。この骨の内分泌機能を担うのが骨の中に含まれるタンパク質の1つであるオステオカルシン (OC)です。この OC は Gla タンパクであり、分子内に3か所のカルボキシル化される領域がありま すが、ホルモンとしての機能を持つのは低カルボキシル化ないしは無カルボキシル化の OC で、我々 はこれを GluOC と呼んでいます。
 これまでに、GluOC の糖・脂質代謝に対する影響を解析するために脂肪細胞株(3T3-L1 細胞)を使用し、GluOC の効果を検証してきました。その結果、低い濃度の GluOC は脂肪細胞において糖・ 脂質代謝活性化ホルモンであるアディポネクチンの発現を亢進させる効果があることが分かり、その発現に至るまでのシグナル経路について明らかにしてきました。
 この研究の過程で、GluOCを高濃度にすると、逆にアディポネクチンの分泌量が見かけ上、低下することを見出しました。その時に約 3 割の脂肪細胞が細胞死することにも気付きました。この高濃度GluOCによる細胞死は細胞膜の破綻、核の膨化および脂肪滴の小型化などを伴い、ネクローシス 様の細胞死であっため、GluOC 刺激により誘導されるネクローシスであることからネクロトーシスであると考えられました。この細胞死が誘発されるシグナル経路を解析する中で発見したユニークな点は GluOC が作用した脂肪細胞に隣接する脂肪細胞に対して細胞死が誘導されるという点です。つまり、GluOCが作用する脂肪細胞自体はアディポネクチンの発現が亢進し、代謝に有利な性質を 獲得しますが、同時に細胞膜上に FasL という細胞死を導く因子の発現を亢進させ、このFasLが隣接した脂肪細胞に働いて細胞死を誘導するというものです。つまり、GluOC はすべての脂肪細胞に細胞死をもたらすのではなく、間引きするようにその細胞数を減少させ、生き残った多くの脂肪細胞は代謝活性の高い性質になるというものです。現在、社会問題となっているメタボリックシンドロームの根源である「肥満」に対する新たな薬理学的アプローチとなる可能性を秘めています。
 この研究は「Osteocalcin triggers Fas/FasL-mediated necroptosis in adipocytes via activation of p300」というタイトルで英国のオンライン科学雑誌「Cell Death & Disease」(Nature Publishing Group)の電子版に 2018 年 12 月 13 日(英国時間)に掲載されました。
 この研究は福岡歯科大学組織学分野の大谷崇仁助教と稲井哲一朗教授、同大学の平田雅人客員教 授および九州大学歯学研究院の松田美穂准教授らが協力して行ったものです。

図:GluOC によって脂肪細胞の細胞死(ネクロトーシス)が誘導される分子メカニズム

研究者からひとこと

 GluOCは膵島β細胞、肝臓、骨格筋、小腸、脳、性腺など様々な臓器に作用することが報告されていますが、その詳細な分子メカニズムに関しては未だ不明な点が多いのが現状です。今回発表した脂肪細胞における GluOC の影響はその濃度による効果の違いと 分子レベルでのメカニズムの一端を明らかにしたという点で非常に意義のある報告であると考えています。

論文情報

Osteocalcin triggers Fas/FasL-mediated necroptosis in adipocytes via activation of p300 ,Cell Death & Disease,
10.1038/s41419-018-1257-7

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